京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 12月3日放送分

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1988年。アメリカ、メイン州の田舎町デリーで暮らしていた7人の少年少女は、虐待、潔癖症、弟の死、差別など、それぞれに心の傷を抱えながら、学校や社会の片隅で生きていて、『ルーザーズ・クラブ』を結成していました。そんな彼らの前に現れたのは、残酷で情け容赦ないピエロの怪物ペニーワイズ。何とか追い払うものの、それは27年の周期でまた戻ってくるといいます。そして、27年後。やはりそれはやって来ました。7人はそれぞれに立派に成長していましたが、それは「それ」に関する記憶を忘れていたから。再び結集した彼らは、ペニーワイズとの第二ラウンドにしてラストラウンドに臨み、自らのトラウマとも向かい合うことになります。

IT(1) (文春文庫) 

86年に出版されたスティーヴン・キングの同名小説を原作とし、まずは90年にテレビドラマ化、その27年後ってとこがリアルで怖かったんですが、2017年に映画化され、ホラー映画というジャンルではベストの興行収入を記録するなど、大ヒットとなりました。僕も当時担当していたFM802 Ciao! MUSICAで短評しました。あれから2年、その続編にして結末が描かれます。

監督は、前作に引き続き、アルゼンチン出身の若手注目株アンディ・ムスキエティ。『進撃の巨人』ハリウッドリメイクの監督も決まっています。ルーザーズ・クラブのキャラクターたちがアラフォーになっているので、もちろんキャストは一新。ジェームズ・マカヴォイジェシカ・チャステインが出演。一方、もちろんペニーワイズは今回もビル・スカルスガルドが演じています。っていうか、「顔を貸してます」って感じかな。
 
僕は先週金曜日の午後にMOVIX京都で観てまいりました。老若男女問わず、客層は幅広くて、公開から1ヶ月経っているにも関わらず、結構はいっているなという印象でした。それでは、僕がこの続編をどう受け取ったのか、映画短評、今週もいってみよう!

僕は前作を概ね高く評価していました。振り返って少し引用すると… 「『スタンド・バイ・ミー』や『グーニーズ』にあるような、はみだしっ子たちの連帯。思春期特有の性への興味と恐怖が描かれる、チームでの成長・ジュブナイルものとして、爽やかにすら観られるパートもあって、実は間口の広い映画。彼らがどんな大人になるのか、27年後を舞台とするのだろうチャプター2が今から楽しみです」
 
楽しみにした結果なんですが、僕にはどうも楽しみきれませんでした。なぜか。これは1もそうだったんだけど、やたら思わせぶりなんだけど、どうもその結果が伴わない。むちゃくちゃ怖いし、この後どうなるんだって思わせるのはすごく上手いんだけど、フリが上手ければ上手いほど、それを回収しなくちゃいけないという問題が浮上します。で、その落とし前をつけてくれるのかっていうと、そうでもないのがもどかしいんです。これはホラーというジャンル映画なんで、別に何から何まで正体を明かせとか、ミステリーのように謎解きをしろだなんて言っていません。うやむやだからこそ楽しめるというジャンルでもあるんでね。その意味で、ムスキエティ監督は、思わせぶり演出はやっぱり長けているんです。死霊館シリーズを書いてきた脚本のゲイリー・ドーベルマンもそう。

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たとえば、ペニーワイズが再び街に戻ってくる導入部。後にまた舞台となる遊園地で遊んでいたゲイカップルが、不寛容で保守的な不良グループに暴行されますね。差別と暴力をセットで受けた弱者のもとに、ペニーワイズがとどめを刺しにやって来る恐怖。風船、血で書いた文字など、モチーフのおさらいも抜かりない。で、その事件を合図に、唯一街に残っていたルーザーズ、黒人のマイクが仲間たちを呼び戻す。フリとしてすごく効いてます。他にも、無垢な未就学児童の女の子がペニーワイズの餌食になる様子もありました。あそこも怖かったし、遊園地の鏡の間も映像的に面白かった。先日評した『グレタ/GRETA』同様、老婆が突如披露する若者もびっくりな軽快なダンスの怖さもありました。
 
と、ここで思い出していただきたいのが、作家になったジェームズ・マカヴォイ演じるビリーです。彼は、劇中で繰り返し揶揄されていたんですよ。「君の話は面白いが結末が良くない」と。なんと、彼がかつて乗っていた自転車を取り戻すリサイクルショップの店主としてカメオ出演していた原作者スティーヴン・キングにも同様のセリフを言わせているのが強烈なんだけど、残念ながら、僕はその言葉通りにこの映画もなっていると思います。

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僕が考える問題点はふたつ。ひとつは、その構成です。一旦集ったルーザーズ・クラブのメンバー全員のトラウマを、ご丁寧にすべて振り返るんですけど、前作をなぞる部分も多くなるし、いくらトラウマがそれぞれとはいえ、見せ方がさすがに似たりよったりになるばかりか、各エピソードのつながりがないので、連ドラっぽくなるんですね。結果として、ただただ尺が伸びるばかりで、だんだん飽きてくる。そのうえで、ペニーワイズと対決するわけですが、結局「それ」が何なのかよくわからないため、すっきりしない。僕はむしろ最初からスッキリしないほうが怖いと思うんですよ。だって、ITというタイトルが象徴するように、そもそもひとつの恐怖じゃないものでしょ、ペニーワイズってのは。コックリさん的な集団で感じる恐怖に近いものではないのかと。言わば、それぞれのペニーワイズがあるものじゃないのかと。これは原作の問題でもあるのかもしれませんが。だから、変にあの恐怖の館にまとめられても、どうも納得できないんですね。

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もうひとつの問題点は、怖がらせ方。ホラー映画というジャンルへのリスペクトもあるのかもしれないけど、基本的にお化け屋敷っぽい突如驚かせるサドンデス方式が続くんで、途中から先が読めて笑っちゃうのはどうなんでしょうか。
 
その意味で、結論を出しきる必要のなかった前作のほうが、今思えば完成度は高かったように思えます。謎をうまく残してほしかったんですよ。これだと、色々散らかっただけというか。と、ついくさしてしまいましたが、コミュニティから爪弾きにあった人、何かを失った人がどう立ち直るのか、その時には信じることのできる誰かの存在と過去と正面から向き合うことが必要だというメッセージについてはしっかり受け取ることができる作品なのは間違いないので、未見の方は映画館という恐怖の館へ足を踏み入れてみてください。
ここではやはり、New Kids On The Blockを聴いておきましょう。かつて肥満気味だった少年ベンが現実逃避先として夢中になっていたのが、彼らの音楽で、今回もチラッとその様子が振り返られていました。
 
コーナーの尺もあって、あえて放送では言いませんでしたが、僕はこの続編を観ていて、『笑ゥせぇるすまん』を思い出したんです。なんでだろ? ペニーワイズに喪黒福造の影を見てしまった格好です。
さ〜て、次回、2019年12月10日(火)に扱う映画は、スタジオの映画おみくじを引いた結果、『影踏み』となりました。来週のFM COCOLOはサンクス・ウィーク。スタジオの映画神社が空気を読んだのか、マンスリーアーティスト山崎まさよしさん主演作となりましたよ。篠原哲雄監督との、あの『月とキャベツ』以来となるタッグ。あなたも鑑賞したら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。