京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『決算!忠臣蔵』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 12月17日放送分
映画『決算!忠臣蔵』短評のDJ'sカット版です。

f:id:djmasao:20191217073307j:plain

1701年3月14日。江戸城の松の廊下で事件が起こります。赤穂藩主であった浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)が、義憤に駆られ、賄賂・不正にまみれていたという吉良上野介(きらこうずのすけ)を斬りつけたのです。喧嘩両成敗となるかと思いきや、幕府は浅野に切腹を命じ、浅野家はお取り潰し。対して、吉良はのうのうとしています。路頭に迷った赤穂藩士たちが名誉をかけて、吉良邸に討ち入るという、いわゆるおなじみの忠臣蔵の物語ですが、この物語はその討ち入りそのものを描くのではなく、そこにいたるプロセスを、もっぱら藩の懐事情、経済的観点から検証する時代劇コメディーです。討ち入りするにも予算が必要。移動にも準備にもすべてにお金がかかる。藩を会社にたとえ、倒産、財務整理、リストラなど、現代の用語を交えながら綴ります。で、どうする? 討ち入り、やめとこか?

*1" src="https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/41vh4TAf7zL.jpg" alt="「忠臣蔵」の決算書 *2" width="175" /> 決算! 忠臣蔵 (新潮文庫) 

原作は新潮社新書から出ている『「忠臣蔵」の決算書』。東京大学史料編纂所教授である山本博文の著書です。これを劇映画の脚本に仕立てて監督したのが、中村義洋。『ほんとにあった!呪いのビデオ』シリーズや映画だと『ゴールデンスランバー』『白ゆき姫殺人事件』『殿、利息でござる!』などで知られるヒットメーカーですね。キャストを紹介しておきましょう。大石内蔵助堤真一、勘定方の矢頭長助(やとうちょうすけ)を岡村隆史、毒見役の大高忠雄(おおたかただお)を濱田岳が演じた他、横山裕荒川良々妻夫木聡、西村まさ彦、木村祐一竹内結子石原さとみなどなど、茶の間レベルでよく知られる俳優・芸人たちが勢揃いしたほか、関西小劇場から、たとえばsundayの小松利昌(こまつとしまさ)が出演しています。
 
11月22日に公開されてから、3週間が経過してもなお、観客動員がベスト5に入っているだけあって、先週木曜昼間にブルク7で観てきた時も、かなりお客さんが入っていました。では、映画短評、今週もいってみよう!

かつて栄華を誇った時代劇が映画でもテレビでも下火になって久しいですね。その理由を多角的に論じた本に、春日太一『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮新書)がありまして、これは名著です。ぜひご一読を。このままだと、京都の撮影所でも、殺陣に代表される演出や道具立ての技術が継承されなくなって断絶してしまいかねないという背景がある中、ここ数年の間にひとつの潮流を生み出しているのが、時代劇コメディーです。『超高速!参勤交代』『殿、利息でござる!』『駆込み女と駆出し男』『引っ越し大名!』などなど。チャンバラを封印して、演出も価値観も現代に寄せながら、何とか時代劇からのヒットを模索する動きと言えるでしょう。
今作ももちろんそのひとつで、忠臣蔵というガチガチの鋳型を、別アングルから語り直すという試み。こうした大きな流れを春日太一さんがどう見ているのかにも興味があるんですが、それはともかく、中村監督が資料的な新書を物語にストンと落とし込んでみせた手腕はさすがだと、まず讃えておきます。刀は持っているけれど、実践の経験のない侍が多い中で、討ち入りがクライマックスのはずの忠臣蔵を、チャンバラはほぼ見せずに語るというのは、確かに面白かったです。
 
映画はそば1杯の値段を現代の貨幣価値に置き換えるところから始めて、エピローグでまたそばに立ち返るという、構造も明快でいいし、語り手を女性にしたのが効いてます。そうすることによって、男性たちの無駄遣いを、勘定方だけでなく、女性の視点、あまり好きな言い方ではないけれど、主婦目線も持ち込むことで、ツッコミが鋭さを増すんです。

f:id:djmasao:20191217094906j:plain

©2019「決算!忠臣蔵」製作委員会
『超高速! 参勤交代』の時にも思ったけど、今では当たり前に日帰り出張している東海道なんて、行って帰って一月かかるわけですよね。当然ながら、倹約が求められた赤穂藩にかごを使う余裕などなく、徒歩ですから、疲れも出るし、ちょいと羽根を伸ばしたりしたら、お金にも羽が生えて飛んでいく。こりゃ大変ですよ。
 
しんどい時は「かご使ったらええのに」って、これはもう完全にタクシーですよね。そういう置き換えがなされて、討ち入り直前の決算まで持ち込んでいく。忠臣蔵というと、日本型の名誉、義理、人情の典型のようですが、それが藩という集団・組織で動くものである以上、使うのは経費であって、個人の財布ではないんですよね。平たく言い換えれば、自腹なら動きたくないと思う人が一定数以上いるのも仕方ない。さすがに、綺麗ごとだけでは、家族もあるんできびきび動けませんわという人も出てくる。そりゃそうだ。

f:id:djmasao:20191217095049j:plain

©2019「決算!忠臣蔵」製作委員会
ただ、価値の前提となった「そば」にたとえるとするなら、茹で加減にムラがあったことは否めません。討ち入る討ち入らないの決断をするまでのすったもんだでそこそこ尺を食うんですが、あの中盤は笑いの仕掛けというか論理が基本同じままで行きつ戻りつするので、間延びしてしまいました。そして、画面にテロップが多用されるから余計に、場所によってはいかにもテレビ演芸的なコテコテの笑いが目立ってしまって、のびる+人によっては少し冷めて感じられる部分もありました。
 
ただ、いざ後半の作戦を立てるくだりの笑いの波状攻撃は面白かったですね。どんどん畳み掛けていって、周到な計画のもと、万全の体制で討ち入りたいし、部下たちは守りたいとは思うものの、経済的な理由からそうもいかなくて、計画の変更のたびに一喜一憂する上司の心部下知らずって感じが、物語そのものと笑いのハイライトが重なるシーンにきっちりなっていました。

f:id:djmasao:20191217100446j:plain

© 2019「決算!忠臣蔵」製作委員会
一方で、全体的に芸人さんたちが演じる豪華な再現ドラマっぽい印象も強くて、これはっていうインパクトのある絵が少ないので、おいしいんだけど薄味、映画を観たという喜びを、江戸時代の裏事情を知れたという知識欲のほうが上回ってしまったというのが正直なところです。
 
それでは、この映画にチケット代2000円弱を払う価値があるやなしやというあたり、僕はそれでも十二分にあると思います。何かと物入りなこの時期だからこそ、切迫感をもって追体験できるやもしれない『決算!忠臣蔵』をあなたも体験してみてください。

このコーナーに入る前に、今週はYESの『Money』をかけたんですが、もう1曲これをと思って、クレイジーケンバンドスポルトマティック』をお送りしました。僕が20代半ばの頃、夢だけがあって金がなかった頃によくカラオケで熱唱していたナンバーです(笑)


さ〜て、次回、2019年12月24日(火)、クリスマスイブに扱う映画は、スタジオの映画おみくじを引いた結果、『ラスト・クリスマス』となりました。もうこのタイミングしかない、後がない(笑)、そんな絶妙な采配でしたね。自分でもびっくり。これ、評判いいですよね。鑑賞したら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!