京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

アイザックソンの『レオナルド・ダ・ヴィンチ』レビュー

どうも、僕です。野村雅夫です。

世界で最も名を知られたイタリアの人物(だろう)レオナルド・ダ・ヴィンチ。今年は没後500年にあたり、日本でもたくさんの関連本が刊行されましたが、その中でも最高峰との呼び声高いウォルター・アイザックソンのものが、文藝春秋から春に上下巻で出ていました。遅ればせながらではありますが、アニヴァーサリー・イヤーのうちに、あかりきなこがレビューを書いてくれたので、以下、どうぞご一読を。

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イタリアの人たちは「レオナルド」と聞けば「レオナルド・ダ・ヴィンチ」を自然に連想するそうだ。2019年は、かのルネサンスの巨匠の没後500年であり、日本でも関連本が何冊も出版された。

 

ひときわ目を引かれたのが「7200ページの直筆メモ」をもとに、レオナルド・ダ・ヴィンチという「人間を」考察した本書である。

 

「私が伝記作家として一貫して追い求めたテーマを、彼ほど体現する人物はいない」と言うアメリカの評伝作家ウォルター・アイザックソンによって2017年に出版され、日本語版は、今年3月、土方奈美さんの訳により刊行された。私は美術作品には疎いが、多才なレオナルドの人となりにずっと関心があったので「よくぞ書いて、訳してくれました!」とすぐさま本屋に走りたい気持ちになった。

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本を手に入れ、目次に初めて目を通したとき、様々なキーワードで章立てされていることに気づいた。そのとき起きた感情は、色んなレオナルドが知れそうだという「わくわく感」と、内容を自分の中で整理できるだろうかという「軽い不安」。しかし後者は杞憂であった。実際には時系列に沿って並んでいて、レオナルドの興味や作風の変化が分かりやすい構成になっている。「レオナルドの人生の詳細についてはさまざまな説がある」が「本書では最も信憑性が高いと思われる説を書き、異論・反論については注で触れている」とあるように、レオナルドの実態に極限まで迫ろうと試みたことが分かる。文章は冷静な視点を基本にしながらも、彼への敬愛が随所で感じられる。レオナルドは研究の成果を論文にまとめたいと言いながら一度もなしえなかったそうだが、他の人たちに伝えたいという彼の夢はアイザックソンによってまた新たに実現されたといえる。

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特に、研究ためのスケッチの余白に書かれたメモやいたずら書きの分析が面白い。一見几帳面なレオナルドがメモの書き込み時期やテーマごとの分類にはこだわらなかったことが、現在も私たちの想像力をかき立てている。逸話と総合して筆者が記したレオナルドの日常生活や心情の推察は、動きや色を伴って私の中の薄っぺらいレオナルド像にたっぷりと肉付けをしてくれた。教科書やテレビでよく紹介される「長いひげをたくわえた老齢期の自画像」の顔になるまでに、なんと様々な経験をしたことか。知らなかったことを知ることも、自分の勝手なイメージが修正されるのを感じるのも心地よかった。

 

意外だったのは、筆者が冒頭からレオナルドは「ふつうの人間でもあった」と強調していたことだ。「「天才」という言葉を、安易に使うべきではない」と。筆者は下巻の第33章でその根拠と「彼に学び、少しでも近づく努力はできる」として、スティーブ・ジョブズも引き合いに出し、現代の私たちにもできることを挙げている。確かに言われてみればできそうな気もすることばかりなのである。それらに気づいた筆者の洞察力はレオナルド並にすごいと思う。私はといえば、レオナルドとは時間や地理的な要素も含め違うことが多すぎて、最初から彼を完全に自分から離れた存在としてとらえていたからだ。特に「脱線する」ことでレオナルドの知性が豊かになった、という部分には励まされる。自分の寄り道も何らかの糧になっていると信じたい。

 

最後に注目すべきは「訳者あとがき」にある映画化の話だろう。縁あって同じ名前をつけられたレオナルド・ディカプリオが主演という。現在の進捗状況は明らかになっていないが、制作陣がレオナルドのように未完で放り出さないよう願いながら、引き続き楽しみにニュースを待ちたい。

レオナルド・ダ・ヴィンチ 上

レオナルド・ダ・ヴィンチ 上

 

 ※出版社のサイト『文藝春秋BOOKS』では「おすすめ記事」でヤマザキマリさんも書評を書かれています。別の魅力を紹介されていますので、こちらもぜひ♪


<文:あかりきなこ>