京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『任侠学園』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 4月7日放送分
映画『任侠学園』短評のDJ'sカット版です。

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©2019 映画「任俠学園」製作委員会
任侠とは? 弱い物を助け、強いものをくじき、仁義を重んじて、そのためなら自己犠牲もいとわない、そんなスピリットを指します。そんな任侠に溢れる小さなヤクザ「阿岐本組」。組長は社会貢献に積極的で、厄介な案件も安請け合いしてしまうため、舎弟たちはその尻拭いで大変です。組長が今回相談されたのは、経営不振に陥った高校の立て直し。理事に就任した阿岐本組No.2の日村は、その現場対応として、個性ある子分たちを連れて学校へ。相対することになったのは、事なかれを良しとする校長や、覇気のない生徒たち。全員、善人のヤクザたちは、さぁ、どう動く?

任侠学園 (中公文庫)

原作は、人気作家今野敏(こんのびん)が2004年から続ける「任侠シリーズ」の2作目となる同名小説。脚本は、主にドラマで活動する酒井雅秋。監督は、木村ひさし。堤幸彦の助監督だったことで知られ、TRICK20世紀少年にも関わっていました。で、ここ半年ほどの間に、なんと監督作が他にも2本、『屍人荘の殺人』と『仮面病棟』も… すごいです。
 
ダブル主演となったのは、組長の西田敏行とNo.2日村の西島秀俊。子分たちに、伊藤淳史池田鉄洋、教師に生瀬勝久、生徒に葵わかな、保護者に光石研などといったキャストが揃いました。
 
公開は去年の9月27日。僕は先週金曜の夜、たまっていたポイントを使って、U-Nextのレンタルシステムを使って鑑賞しました。それでは、今週の映画短評いってみよう!

今でこそ数がかなり減っていますが、日本にはヤクザ映画という一大ジャンルが60年代からあって、独自の様式美、美学をスクリーンで展開していた時代から、実録路線に代表される抗争をメインにドンパチを見せていくものがメインとなる時代、そしてVシネの時代と、それこそ星の数ほど作品があります。つまりは人気があったということです。なぜか。このジャンルの専門家ではないのでザクッとしか言えませんが、高倉健の時代の一般社会、表舞台では力を発揮できない社会の爪弾き者が、義侠心にかられて、しがらみを捨て、悪者を懲らしめていくという、勧善懲悪的な、わりと単純なストーリー展開でわかりやすく大衆の支持を得たからなんですね。さらには、反体制、反権力という側面があったので、特に60年代の学生運動が盛んだった頃、その人気はピークに達します。
 
さて、作品に出てくる阿岐本組の三カ条は、こちら。
1.カタギに手を出さない 2.勝負は正々堂々 3.出された食事は残さず食べる
彼らはこれを遵守しているんですね。
 
今作は、その意味で、物語の構造としては、きっちり任侠映画だと言えます。しかも、観客が楽しめる要因として、阿岐本組は指定暴力団ではない、小さな組であり、暴力や恫喝による物事の解決を良しとはしないヤクザであるということがあります。つまりは、ヤクザの中でも、さらに弱小ではみ出し者なんですよ、彼らは。わらわら群れないし、暴力は相手が正しくない時にしか発動しないし、食事はとにかくおいしく食べる。スカッとしているわけです。筋も通っているし。そして、ヤクザ映画の系譜のあるあるをネタとして茶化すオマージュもいくつかあります。阿岐本組の根っこにあたる関係の組の親分、中尾彬が出てくると、画面は締まるし、ここでまずはタバコを吸うんだろうなと見せかけて、取り出されたのは綿棒。とか、酒場での喧嘩でビール瓶を武器に使おうとテーブルに叩きつけたら、バイ〜ンってなるだけで割れないとか、ギャグに持ち込んでいます。基本、これはコメディーですから、こうした「ズラシ」のギャグを多用しながら、アクの強い阿岐本組の面々の素性や背景を笑いを使って描いていて、そこも誰もが楽しめるポイントです。

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©2019 映画「任俠学園」製作委員会

西島秀俊は、僕はカメレオン的な役者さんだと思っていて、彼自身の演技でドヤって見せるのではなく、その物語に溶け込むのがうまい、要は保護色に変色できる方という認識だったんですが、今回もそこがお見事。だからこそ、周囲のサブキャラたちも引き立っていました。そして、とにかく西田敏行の存在感。まぁ、うまいです。圧倒されます。
 
そして、もうひとつ、日本映画の最近のまた大流行である学園モノとの融合という点が、この映画をさらに見やすくしています。不良っぽい子、優等生、教師、校長、父母会、そして理事。青春のこじらせ、恋愛、学校の権力、しがらみ、利権をまとめて描けるという利点があるわけです。そこもうまく活かしていたと思いますし、これ、原作も他に3本あるんで、シリーズ化もできるんじゃないでしょうか。現代社会が忘れかけている、スピリットとしての任侠、弱きを助け強きをくじく、任侠心を思い出させてくれる、スカッとしたあの連中に早くもまた会いたい。

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©2019 映画「任俠学園」製作委員会

なんて、基本的に褒めてばかりいますが、難点もなくはないです。まずは機能しているとさっき言ったギャグですが、スベっていると思わざるを得ないところも多いです。ちとテレビ的というか、監督がドラマ畑の人なので、演芸的なところが多くて、映画的カタルシス、つまりは今映画を観ているという絵的な醍醐味を感じるところはあまりないです。役者の力量と個性を尊重、いや、そこに頼った結果、だいたいが既視感のある演技になっていて、それが演芸っぽさにつながるばかりか、作品の個性として迫るものがない。そして、脚本上の問題として、色々盛り込んだ結果、そのどれもが薄味なことも指摘しておきます。たくさん問題が起きるんだけれども、それがひとつひとつ順序良く起きているんですよ。ロールプレイングゲーム的な単純化が起きていて、うまくやれば、笑わせながらも、それぞれの問題の本質をえぐり取って提示することもできるだろうところが、そこまで達していないという食い足りなさがありました。

ゲロッパ! アウトレイジ [DVD]

 とはいえ、個人的には、井筒和幸ゲロッパ!』や北野武アウトレイジ』など、西田敏行がヤクザを演じたときに出るギャグシリーズ、「でももストライキもあるかい」「迷惑もハローワークもあるかい!」に続く新作「違法もヤッホーもあるかい」に思わず「待ってました」と言ってしまった僕は、なんだかんだ満足なのでありました。映画神社に出された映画は残さず最後まで観る。今週も、ごちそうさまでした。

 さ〜て、次回、2020年4月14日(火)に扱う作品は? はい、これからしばらくは、「お家でCIAO CINEMA」が続きます。このコーナーでこれまで扱いそこねた、つまりは僕が外した「準新作」と言えるものをおみくじに入れて、敗者復活的に作品を選んでいきます。で、僕が引き当てたのは、『マレフィセント2』でした。調べたら、2014年にFM802 Ciao MUSICAで1を評しているんですが、そうか、もう6年も前か… もう一度見直すかな。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!