京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『マレフィセント2』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 4月14日放送分
映画『マレフィセント2』短評のDJ'sカット版です。

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©2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

1959年のディズニーアニメ『眠れる森の美女』で、オーロラ姫に永遠の眠りの呪いをかけた悪役マレフィセントを主人公に、「実はこういう話でした」と現代の価値観で名作を語り直してみせた前作から数年後の物語です。マレフィセントがオーロラ姫との間に恋愛とも血縁とも違う「真実の愛」を感じて以来、妖精の国で健やかに暮らしていたオーロラ。前作にも登場した隣国のフィリップ王子がやって来て、ふたりは結ばれます。ところが、フィリップの母イングリス王妃はそれを良しとせず、結婚の挨拶に城を訪れたマレフィセントと火花を散らし、やがてそれは大きな炎へと成長することになるのです。

眠れる森の美女(字幕版) マレフィセント (字幕版)

 監督は、アカデミー賞美術賞を2度獲得していたロバート・ストロンバーグから、今回は『コン・ティキ』『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』のヨアヒム・ローニングへとバトンタッチされました。メインキャストは変わらず、マレフィセントアンジェリーナ・ジョリー、オーロラをエル・ファニングが演じる他、イングリス王妃役には、ミシェル・ファイファーが抜擢されました。さらには、我らがギタリストMIYAVIが、マレフィセントと同じ種族のひとりを演じています。

 
公開は2019の10月18日。僕は先週土曜の夜、U-Nextのオンラインレンタルをポイントで利用して鑑賞しました。それでは、今週の映画短評いってみよう!


前作は2014年7月にラジオで評して、概ね好意的に捉えていました。単に実写化するだけでなくて、エピソード0からおとぎ話を語り直す、しかも悪役をただ悪に染めないというか、鮮やかに視点を逆転させるのはゾクゾクしました。男の活躍がほぼないってほどに徹底してフェミニズム映画でもありましたが、それ以上に、妖精という異形の者たち、自分とは違う者との共存というディズニーの思想が反映されていて現代的だし、アンジェリーナ・ジョリーの出で立ちが何しろハマっていて、全体として好ましいと話しました。

 
その分、続編を作るって知った時に不安があったことも否定できません。だって、話としては完結していたし、もはやオーロラとフィリップが結婚するくらいしか話の展開は見込めず、後はオリジナルで作っていく他ないので、それだと『眠れる森の美女』から離れすぎるのではないかと。そんな感じで期待値低め設定での鑑賞となりましたが、総じて僕は楽しむことになりました。総じて、ですけどね。

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やはり、結婚から始まることになったこの物語。そこで勃発するのが、マレフィセントと隣国のイングリス王妃による女の戦いです。後に理由は描写されますが、イングリス王妃はとにかく妖精たちを嫌っていて、何なら根絶やしにしたいと目論んでいます。ミシェル・ファイファーがまた見るからに悪そうで怖いんだけど、だいたい思った通りの悪役っぷりを発揮します。マレフィセントとの対比という意味では仕方のないことかもしれませんが、そこが僕には不満と言えば不満ではありました。彼女にもう一歩踏み込んで厚みのある人間像を与えれば、そりゃ最後はあの仕打ちでいいかなと納得できるんだけど、あれだとただただ悪い奴なんで、それじゃ元のマレフィセントのイメージとそう変わりないじゃないかと。第2のマレフィセントかよって。
 
でも、僕が着目したのは、彼女の悪の実行力です。あれはなかなかのものでしたよ。まず、前作で濡れ衣を払拭したマレフィセントのことを、あの隣国ではまだその事実がよく知られていないことを悪用して、ばっちり悪い噂とイメージを国民に植え付けるプロパガンダに成功していました。さらには結婚の挨拶の場でも会話をリードして彼女を罠にかけましたからね。そして、妖精たちについては、科学を悪用して人体実験を繰り返しながら、ジェノサイドを企てるって、もうナチスばりの悪の所業の数々を見せつけてくれます。マジで怖い。タランティーノに描かせたら、最後には火炎放射器で焼かれるレベルの悪でした。ディズニーだから、そこまではいかないけど、大人が観ると身の毛がよだつレベルです。そりゃ、マレフィセントも激怒するわっていうね。

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一方のマレフィセントについては、前作からふたつ変化がありました。ひとつは、主にカラスのディアヴァルとのコンビで見せたかわいさ。本音を隠す時の表情、感動して涙を流しているのにそれを認めないとか、かわいいなぁ。アンジェリーナ・ジョリーのセクシー・ショットも見逃せないし、キャラクターの魅力を深めていたのが、ひとつ。もうひとつは、てっきり妖精だと思っていた彼女の出自が思わず明らかになるところです。角と翼の生えた種族がまさかあんなにいたとは… って、ずいぶん性急で取って付けた印象もありましたが、ああいう部族が出てきたことで、クライマックスの戦闘がスペクタクルとして見ごたえのあるものになったと思います。しかも、小さな妖精は狭い場所に押し込めて、大きなマレフィセントたちはオープンスペースでと、ふたつのドラマを同時進行させることで、映画的にもうまく間を持たせていました。それぞれの空間造形も、さすがはディズニーという代物でした。人間側の戦闘方法が、言っちゃえば化学兵器なんですよ。でも、毒ガスだと目に見えないわけで、赤い粉にしてあることで、これがまた画面に美しさと悲壮感を与えるという仕掛けでしたね。

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結局なんの話って、『ズートピア』的な世界観というか、より多様化した生き物、種族の共生です。で、あのフィナーレでしょ? 結局、何とか『眠れる森の美女』に着地するという荒業を成し遂げています。ただ、前作よりも尺が20分近く伸びているわりには、話がまとめきれておらず、特に最後はバタバタしすぎて、そんなトントン拍子に行くかいなって思うし、王妃への対応に拍子抜けっていうか、ずっこけた人もいるでしょう。サブキャラのサブっぷりも著しすぎて、男たちの無能ぶりもやりすぎだろうとは思いました。だいたいマレフィセントが窮地に陥ってからの〜?ってのが、いくらなんでも強引だし、それ、今回取ってつけた能力だからねっていうツッコミは避けられません。でもね、僕は最後におとぎ話に戻してみせたんだと解釈しています。王妃の悪意に満ちたプロパガンダに対し、おとぎ話らしく夢を描くことで幕を引いた。そう捉えると、この映画が好きになります。最後にお願いとしては、もう続編はやめてください。これで十分です。もう映画としてギリギリ崩壊寸前だったんで…
 
今回はBebe Rexha(ビービー)がハスキーに歌い上げた主題歌You Can’t Stop The Girlを番組ではお送りしました。確かに、ガール以外は、ボーイズもメンもキングも、あいつらダメだったなぁ。


さ〜て、次回、2020年4月21日(火)に扱う作品は? はい、「お家でCIAO CINEMA」が続きます。このコーナーでこれまで扱いそこねた、つまりは僕が外した「準新作」と言えるものをおみくじに入れて、敗者復活的に作品を選んでいきます。で、今回僕が引き当てたのは、『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』でした。北条司の世界観がフランスでどう再現されていたのか。ワクワクと不安が今僕の胸の内で交錯していますよ。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!