京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『野性の呼び声』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 6月30日放送分
映画『野性の呼び声』短評のDJ'sカット版です。

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カリフォルニアのとても裕福な家で飼われていた大型犬のバック。人間にとてもなついているものの、いたずら好きでしょっちゅう人を困らせています。ある日、犬を販売する業者にさらわれ、これまで接したことのない大自然の広がる、アラスカへと連れてこられます。そこは雪原の広がる厳しい世界。犬ぞりの引き手として働くことになる中で、流浪の男ソーントンと出会い、彼とバックは互いに心を許した相棒となります。一緒に旅をしてユーコン川の奥地へと赴くうちに、バックの耳には、森の中から聞こえる遠吠えが響きます。

野性の呼び声 (光文社古典新訳文庫) ヒックとドラゴン (字幕版)

 1903年ジャック・ロンドンが書いた、アメリカ文学史に残る同名小説が原作で、1908年のD.W.グリフィス監督以来、繰り返し映画化されてきました。今回の監督は、アニメ『ヒックとドラゴン』のクリス・サンダース。製作は20世紀スタジオ。ご存知20世紀フォックス映画がディズニーに買収されて最初の作品です。

 
ソーントンを演じるのは、ハリソン・フォード。他に、アラスカの犬ぞり郵便配達夫として、『最強のふたり』で名を上げたオマール・シーも出演しています。
 
日本公開は今年2月28日でしたが、そのタイミングでは映画神社のおみくじが当たらず、コロナ禍によって配信作品を候補作に入れるようになってから、先週ついに課題作となりました。僕は、アマゾンのレンタルで先週水曜日に自宅リビングで鑑賞しました。それでは、今週の映画短評いってみよう!


先週火曜のエンディングでは、「ハリソン・フォードがワンコと大冒険」の映画、みたいな、強引な要約をしていた僕です。観てみると、間違いではないが、まず、それは後半の話であって、基本的にはとにかくバックの話です。序章があって、舞台が北の大地に移ってからのメインパートが前後半に分かれるという構成となっています。順を追って、ポイントを確認していきます。

 
序章では、カリフォルニアでののんきな暮らしぶりが描かれます。街の名士である判事の犬だってことで、多少行儀が悪くとも、街を勝手にひとりで、違う、一匹でうろついていようとも、多少のイタズラはおめこぼしというご身分でした。いかにバックが野性とは程遠い環境で生きてきたか、そして愛嬌のあるキャラクターを観客に植え付ける導入ということになりますが、正直に言って、僕は早速戸惑い始めました。むず痒くなってきたというか。人が動いたモーション・キャプチャーを前提としたCGではあるのですが、最新技術を駆使しているはずなのに、そこそこ画面ではそのCGっぽさが出ているんです。これは、サンダース監督がアニメ畑の人だからだと思いますが、動きがかなりコミカルに誇張されたものになっているので、技術というよりも動きで現実の犬っぽくなくなるところがあるんです。

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とまぁ、そこは何とか僕も食らいついての、メインパート。前半は、オマール・シー演じる犬ぞりの郵便屋さん、そしてソリ犬たちとの交流です。バックにとっての第二の人生、いや、ワンダフル・ライフの始まりですって言うと、別の映画になりますが。実際、犬のモノローグこそないものの、あくまでバックという一匹の犬が他の犬、狼や人間と交流するという意味では、『僕のワンダフル・ライフ』と似通っています。こちらは、バックの心身の変化を描くのが主眼であるという違いはありますけどね。身体は野性の呼び声に導かれて、大自然の中で働いてさらにたくましくなり、心もどんどんその奥行きを増していくというか、しなやかになっていきます。

僕のワンダフル・ライフ (字幕版)

ただ、犬に噛まれたことこそ何度かあっても、犬を飼ったことのない僕にしてみれば、これはずいぶんと物語的に都合の良いワンちゃんだなと思わざるを得ない場面もありました。何度かある救出劇もそうだし、バックはもう人の心も犬の心も狼の心もわかるみたいになっていって、だんだん神がかってくるわけですよ。そもそも、ちょいちょい挟まれる、彼を導く野性の象徴たる呼び声が聞こえるってんだけど、もう姿すら見えるんです。先週の『ハリエット』かと思いましたよ。犬ぞりで奴隷化されたバックを『ハリエット』が助けに来たのかと思ったくらい。そのあたり、ワンちゃん映画の達人、ラッセ・ハルストレムの方が上手だったと思います。もうナレーションを使ってもいいじゃないですか。犬は犬らしく見せて、実写っぽくしたいなら妙にキャラクター化せずに、そこは言葉でフォローしても良かったと思います。
 
だから、僕としては、だんだんユーコン川の自然や、当時の郵便事情、そして金の採掘に命をかけた開拓者たちの歴史や風俗の方に興味が移ってもいきました。その頃、バックはようやくフォードと本格的に出会って、後半の冒険へ。このあたりから、いよいよテーマ的なものが前景化します。文明ってなんだろう。金銭がもたらす幸福とは? そして、もちろん、犬にとっては… なんだと思いますが、後半はもう、誰が何をどう描きたいのか、主軸が見えなくなっているので、正直僕にはよくわかりませんでした。一貫した語り手がいないこと、人間と犬の心境の変化を同時に描こうとしたことが、少なくともこの映画化を焦点のはっきりしないものにしてしまっていると僕は見ています。楽しい場面もたくさんあるし、美しい場面も当然あるがゆえに、もうひとつ食い足りないかなと、キャンキャン吠えてしまいました。
主題歌はアメリカらしいロックバンドの音。似合います。未知なる大自然ってとこですかね。

さ〜て、次回、2020年7月7日(火)に評する作品を決めるべく。スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、リュック・ベッソンの『ANNA / アナ』だったんですが… 残念ながら京阪神の大半の劇場では今週公開が終わるということらしく… レア・ケースですがもう一度おみくじを引いた結果、『ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語』に決定しました。これは期待大! あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!