どうも、ドーナッツクラブのクルーラー担当、有北です。
このたび、エドアルド・レオ特集上映の1本『ブォンジョルノ、パパ。』を字幕翻訳しました。特集上映のほかの作品ではバイオレンスな役どころも見事にこなしていますが、やはり本作のように、レオはまわりに翻弄されてひどい目に遭う役柄がはまりますね。
エドアルド・レオ演じるパオロ(右)と大好きなKISSのメイクをするマルコ・ジャッリーニ演じるエンツォ翁(左)
『ブォンジョルノ、パパ。』では、主人公アンドレアと同居する親友パオロを演じていて、この人、とにかくひどい目に遭います。トイレで一息ついているところを複数人に詰めかけられたり、顔の真横におっさんの生ケツが迫ってきたり、夢遊病のおっさんに謎の禅問答を挑まれたり……。
どのシーンもコメディーとして非常に面白い。言うのは簡単ですが、この「ひどい目に遭って面白い」というのはなかなか難しいのです。しかも注目すべきなのは、レオは監督としてその役をどんなひどい目に遭わそうか嬉々として考えつつ、自らが俳優としてひどい目に遭うことを楽しんでもいること。監督としてはドSでありつつ、俳優としてはドMであるという、奇跡のひとりSM状態が成立しているわけです。じつに稀有な才能の持ち主であるといえます。
そんな、ひとりSMのプロフェッショナル、レオですが、彼のSM術についてもう少し考察してみましょう。だれかれ構わずひどい目に遭わせたからって、コメディーとして成立するわけではないのです。具体的には、ひどい目に遭うのは何かしら悪いやつでなければいけない。
評論家の夏目房之介、岡田斗司夫らが、マンガ『北斗の拳』についてこのように考察しています。
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悪党達のあの手この手の悪事と、それに対するサディスティックなまでのケンシロウの拷問・制裁というパターンは、「絶妙のボケとツッコミ」の一種のギャグ漫画とも解釈出来る。
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このように、「悪いやつをひどい目に遭わす」という構造には、コメディーにつながるところが大いにあります。そこで、多くの作家はいかにこの「悪さ」というものを物語内にすべりこませるかに神経を注ぎます。このさじ加減が、レオは非常に秀逸なのです。
悪さといっても、必ずしも性質や性格の悪さをいうのではなくて、行動や行いの悪さが問題とされます。やらなくてもいいことをやる、余計なことをやる、というのも同様に考えてよい。いかにもなゾンビものや推理もので、ひとりだけ別行動をとってすぐに死ぬやつ、などもそうですね。「そんなことをしたら、ひどい目に遭ってもしょうがないな」と思わせることが大事なのです。因果応報というのはやはり納得しやすいんですね。
これをふまえて『ブォンジョルノ、パパ。』を観てみると、レオ演じるパオロという男、前半で特に言わなくていいことを言ったり、余計なことに首をつっこんだりばかりしています。アンドレアの早漏をからかってみたり、就職が決まらないと嘆きながら、大道芸の練習に打ち込んだり。細かいことですが、こういう些細な描写の積み重ねとキャラ造形が非常に秀逸です。
さて、物語の後半、パオロのかつての彼女が、アンドレアと関係をもっていたということで、親友だったふたりは仲違いします。パオロはアンドレアを口汚く罵り、同居していた家も飛び出します。ここはシリアスシーンです。
しかしその後、その彼女はじつはとんだビッチで、パオロの友だちほとんどすべてと関係をもっていたことが明らかになります。状況としてはひどいはずなのに、こちらはコメディーシーンとして成立しています。
あのシリアス展開から一転、コメディーにもってくる手腕が見事なのですが、なぜそんな離れ業が成立しえたのか? もっといえば、パオロの悪い点は何だったのか?
・そんなビッチとつきあっていたのなら浮気されてもしょうがない
というのはもちろんあるとして、
・アンドレアを必要以上に罵りすぎた
ことでいくぶん、パオロが敵役の領域に足を踏み入れたこと、何よりも
・同居を解消して出ていく時に、払ってなかった家賃を若干踏み倒した
というジャブをヒットさせたことが、後半のコメディーシーンを成立させた決め手だったのではないでしょうか。この部分、非常に細かいですが、クライマックスに向かう大きなターニングポイントであり、レオのひとりSM監督としての手腕が発揮された場面だったと思います。
そういえば、こんなバルゼッレッタ(イタリアのジョークのこと)があります。
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子どもが警官に助けを求めた。
「お巡りさん、助けてください! あそこで僕の父さんが男とケンカしてるんです!」
「よし、わかった。それで、どっちがきみのお父さんだい?」
「わかりません。それがケンカの原因なんです!」
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『ブォンジョルノ、パパ。』は、かつての過ちでできた娘が父親の元に押しかけてくることから始まる、家族の再生の物語です。リアル映画館での上映会は終了しましたが、オンライン上映会は絶賛開催中。ぜひご家庭で、家族そろってご鑑賞ください。
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そしてイベント開催にあたり、難しい状況下でイベントの意義を汲み賛同してくださった協賛社さま、ありがとうございました! 今回は、バッグとベルトの気鋭ブランドFattoria del cuoioをご紹介。
Fattoria del cuoioとは革なめし工場の意味。
ミラノでヴィンテージの素材を活かしたオリジナルリメイクアイテムのデザイナーとして腕を磨き、日本に帰国後イタリア製ベルト・バッグブランドTIBERIO FERRETTIの企画とブランディングを務めた(株)コマコ・オフィチーナ代表の駒井氏が、トスカーナ州の小村モンスンマーノを拠点に、2019年春夏から新たに立ち上げた新ブランド。彼らと手を組んだのは、イタリア国内外の大手ブランドのベルトを多数手がける100%トスカーナ生産の由緒ある革工房の凄腕職人たち。すでに10年以上にわたり共に仕事をしてきたここモンスンマーノで、職人たちが培ってきた革小物の品質とこだわりに、TIBERIO FERRETTTIの企画で鍛えられた駒井氏の発想力と独創性が混ざり合う。クリエイティブでありながら高品質を保つ魅惑の新ブランドを、日本から発信し、育て上げていく。