簡単に言えば、とんでもないレストランに入店してしまった客たちの顛末を描いた物語ということになりますが、思った以上に風刺のきいた作品でして、味で言えば、その苦味と辛味に僕はゾクゾクしました。宮沢賢治で言えば、『注文の多い料理店』ですね。なにしろ、一皿ごとに、シェフがその料理についての御託を並べるわけですが、最初に「食べないでくださいDo not eat.」なんて言うんですもの。「え?」ってなりますよね。じゃあ、どうすればいいのか。「味わってほしい。Taste.」ときたもんだ。なんだよ、「うるせ〜な」って思ってしまいますよ。そんなの言葉の綾じゃないかって。でも、このシェフの言わんとするところもわからないでもないというか、素材を吟味して、丹精込めて提供される料理というのは、当然ながら、単なる栄養補給という次元を超えて、アートや哲学という領域に発展していくもの。ましてや、セレブしか立ち入ることを許されないようなお店で、アイデアと技術と贅を尽くしているところで、牛丼をかっくらうようなノリでがっつかれても興ざめ、ではあります。確かに。ちゃんとそこに込められた意味まで含めて味わっておくれということなのだろうか。
ディオールのドレスに一目惚れするミセス・ハリスを捉えた三面鏡のショットなんて、彼女が現実を忘れている様子を如実に表現していたし、何度か登場するロンドンの橋の上での彼女の振る舞いも、川が時代をシンボリックに表しているようで効果的でした。とにかく、これは幸せな気分になること請け合いの1本。ぜひ劇場へ駆けつけて、あなたの1日をWhat a lucky day!なものにしちゃってください。
若い時には大恋愛をしたふたりが、それを若気の至りと捉え、もめにもめて別れてしまったけれど、ひとり娘のリリーについては、ともに大好きで、基本は母親のところにいるんだけど、父親も頻繁に会っては目をかけながら、そして両親ともに愛するがゆえに娘に面倒なプレッシャーをかけながら、リリーもそれに応えて、しっかりロースクール卒業というところまでやって来た。やがては弁護士か裁判官かと、順風満帆。父は堅実に出世を重ね、母もアート関係でステキなキャリアを築いてきた。金には困ってない。娘も手を離れたってことで、少しさびしくなるだけ。これからもバリバリ働くかんね! ふたりして空港で娘を見送ったら、See you again! NEVER!!と威勢よく別れたと思ったら、バリの娘から「結婚します」って、それどゆこと?
原題はStill Life。これは死後の世界みたいなスピリチャルなことではなくて、人は死んでも誰かに思い出される限りは、その誰かの心の中でそれぞれに生き続けるのだということ。だからこそ、それがどんな人であったとしても、簡単に忘れられてはならないのだという普遍的な思いを新たにしてくれます。そして、僕たちも、映画館を出た後も、He was MAKIMOTOと彼のことを思い出すような余韻がとても良いなと感じました。
映画では、劇中で一言もセリフを発しなかった宇崎竜童さんの歌でこの曲Over The Rainbowが流れます。こちらはPentatonixのバージョンですが、とてもユニークなアプローチの宇崎さんバージョンはどうぞ映画館で聞いてみてください。