どうも、有北です。
僕はひらめいたアイディアをプロデューサー氏に披露することにした。まず、僕は彼にこう切り出した。
「僕、『美味しんぼ』が好きで、集めてるんですよ。」
僕の言葉に彼は若干食いついてきた。「ふんふん、それで?」好感触だ。いけるかもしれない。僕は言葉を重ねる。
「お金がないとき、おかずがほとんどなくてごはんだけのときでも、『美味しんぼ』を読みながら食べると、豪華な食事をしている気分になります。」
彼は少しの間言葉を失っていた。いやな間。いやな間だ。やがて、彼が沈黙を破り「・・それだけ?」「はい。どうですか?」訊ねる僕。すると、彼は重々しくこう言った。
「絵的に、地味だな・・。」
今度は逆に僕が言葉を失う番だった。実際にたまにこの手法は活用していただけに、ショックだった。僕の貧乏は、絵的に地味なんだ。打ちひしがれる僕に、受話器のむこうの声は非情に告げる。
「悪いけど、きみの貧乏はパンチがきいてないな。」
さらにショックな一言。最終的に今回の話はなかったことにしてくださいと言って、彼は電話を切った。パンチがきいてない貧乏。そんなふうにカテゴライズされたのははじめてだった。パンチのきいてる貧乏ときいてない貧乏・・存在としてどちらが格上なのかは知る由もないが、だけどなぜだか「パンチのきいてない貧乏」のレッテルを貼られたことは、僕のメンタリティを鋭くえぐった。その日はショックで夕食もあまりのどを通らなかった。はからずも、彼は僕の食費の節約に一役買ったわけだ。
さて、あの事件から数年が流れたわけだが、その後一度だけ、あのプロデューサー氏から電話がかかってきたことがあった。驚く僕に彼は淡々と告げる。
「なあ、誰か知り合いにパンチのきいた貧乏いない?」
やはり、彼はまだ貧乏を探していたのだ。それも、とびきりパンチのきいた貧乏を。