どうも、有北です。
『究極の癒し』、覚えていますか?
そう、バルーンアートです。もう今の僕にはこれしかないよ。僕にバルーンアートの魅力を伝えてくれた知人の言葉がまざまざとよみがえってくる。
「ねえ、癒しグッズって、あるじゃない?アロマランプとか、エッセンシャルオイルとか、相田みつをとか・・。私にとっての究極の癒しグッズは、バルーンアートなの。他は、イモね・・。」
そう、他はイモだ。僕も今それがわかった。僕はねずみをあしらったこのバルーンアートをたぐりよせる。なんか、ミッキーを意識したような微妙なキャラだ。今までの僕なら見向きもしなかったろう。しかし今は違う。きみの魅力に気づいてしまった。抱きしめた。キュキュッとゴムの擦れる音が響く。ふふ、かわいいやつめ。キュキュッ。ふふ。おまえは、僕を癒してくれるんだね・・。
しかし、僕は、そのとき妙な胸騒ぎを感じた。違和感といってもいいかもしれない。バルーンアートに思うさま癒されながら、僕はどうしてもこの違和感を払拭することができなかった。なんだ?「他は、イモね・・」知人の声がなぜか僕の脳裏をよぎる。待てよ。僕は、彼女のそのときの言葉を思い出してみる。「他は、イモね・・」おかしい。それだけだったか?彼女の言葉には、まだ先があるのではなかったか?なぜ彼女はバルーンアートを癒しの最高峰に位置づけたのか?
僕は必死で記憶の糸を手繰る。そうだ。彼女の言葉はたしか・・
「バルーンアートってね、しばらく見ていると、どんなにかわいいキャラクターでも、だんだん筋肉質に見えてくるのよね・・。ほら、私、マッチョ好きでしょ。もうたまらないのよね。かわいいわ、マッチョだわ・・私にとってはまさに究極の癒しなの。ふふ、私、どうかしてる・・?」
そんなばかな。そんな理由か。僕は改めて腕の中のバルーンアートに目を落とす。もはや僕の目にはそれはレイザーラモンにしか見えなくなっていた。マ、マッチョだ。ムキムキだ。僕は叫び声すらあげ、腕の中のハードゲイを投げ捨てた・・
その晩、僕はホモに言い寄られる夢をみた。翌朝目覚めると寝汗でシャツがびっしょりと濡れていた。
夢ですらこれか。
僕は新しいシャツに着替え、会社に向かう準備を始める。また、新しい一日が始まるのだ。