京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

イタリア・ジャーナリズムの現在・過去・未来 その1

 マルコ・リーズィ(Marco Risi)の映画『フォルタパスク』(Fortapa`sc、2009年)を鑑賞する。1985年ナポリの犯罪組織カモッラに暗殺された若きジャーナリストの話だ。主人公ジャンカルロ・シアーニ(Giancarlo Siani)が作中でメモ帳に走り書きをする。カシャカシャとカメラを動かす。使っているタイプライターに自分の名前のついたシールを張りつける。そういった紋切り型のジャーナリスト像には観ていて若干ひっかかりもしたが、ナポリの夕暮れを空から撮った冒頭シーンはとても美しくて感動した。ラジオから流れるヴァスコ・ロッシ(Vasco Rosi)を聴きながら、シアーニが車を走らせるシーンだ。当時のイタリアン・ポップスをバックに流れていく雑然としたナポリの町並み。汚いものが美しく見えるというパラドックスはイタリアの一つの特徴かもしれない。

作品の内容についてだが、主人公とその上司である編集長が砂浜を歩きながら会話をする場面がある。血気盛んな新人ジャーナリストである主人公をたしなめるために編集長はこう言う。「世の中には2種類のジャーナリストがいる。ジャーナリストの中のジャーナリスト(giornalisti giornalisti)と雇われジャーナリスト(giornalisti impiegati)だ。そしてこの町には必要なのは雇われジャーナリストで云々…」。この言もまた、「ペンは剣より強し」的なジャーナリズムを英雄視することを助長している。しかしシアーニがカモッラに抗っていたことはまぎれもない事実。そして東京で開催されるイタリア映画祭2009でも上映された『ゴモラ』(Gomorra)の原作者ロベルト・サヴィアーノ(Roberto Saviano)然り、ジャーナリストの中のジャーナリストは架空のヒーローなのではなく、確かにイタリアに実在している。  (つづく