多彩な作風で知られるイタリアの国民的作家であるイタロ・カルヴィーノの作品は日本でも多数翻訳されているが、今回紹介するのはこれ。
「われわれの祖先」と題された三部作のうちの一つである。
1767年、12歳のある日、家族に反逆して樹上生活を始める男爵家長男コジモの物語。
カルヴィーノの空想と諧謔によって織り成されるコジモの生涯に、時折、18世紀後半の史実が横糸として加えられ、このうえなくおもしろい物語になっている。荒唐無稽な空想物語ではあるが、ドン・キホーテほど滑稽さが際立つのわけではなく、作品一帯にどこかリュートの音のような典雅さが漂う。
そして「われわれの祖先」と題されている通り、イタリアの風土や人々へのノスタルジーが、コジモが暮らした木々のの木漏れ日と重なり、読後こころに揺れる。
コジモが樹上の人となるきっかけともなった、男爵家長女の料理は一読の価値あり。
日本人にはないグロテスクな神経質さがあり、目をむくこと間違いナシ。
(『木のぼり男爵』 Il Barone Rampante、イタロ・カルヴィーノ著、米川良夫訳、白水社、1990年)