京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『まっくろくろの おばけちゃんの ぼうけん』 デヴィッド・カリ〜



まっくろくろの島に住む、まっくろくろのおばけちゃんは写真を撮るのが大好き。
でも、なんでもかんでもまっくろくろの島では写真もまっくろくろ。
キレイな写真が撮れる島に行きたい!
相棒のまっくろくろコウモリさんと一緒に船に乗って、さぁ冒険です。
いろんな島へ行って、いろんな物を見て感じて学んで。
最後のまっくろくろのおばけちゃんが得たものは…

 今回ご紹介するのは2010年9月に出版されたばかりの新刊絵本です。
こちらの絵本、第16回いたばし国際絵本翻訳大賞(イタリア語部門)の課題テキストで、大賞を受賞された戸田理香さんの翻訳で岩崎書店さんから出版されたものです。

 作者のデヴィッド・カリさんは、スイス生まれなのですが、イタリアでも大活躍。『まっくろくろの おばけちゃん』以外にも彼の作品は多くの国で翻訳されており、今大注目の絵本作家さんです。

 そして、イラストを担当しているのが、フィリップ・ジョルダーノさん。
国際コンクールでも入賞経験のあるイタリア人若手イラストレーターです。
こちらの絵本では、主人公のおばけちゃんをなんとも愛嬌のあるイラストで描いており、おばけちゃんのちょっぴりとぼけた感じがとってもよく表現されています。
表情の変化は決して派手ではないのだけれど、おばけちゃんは場面場面でいろんな顔を見せてくれていて、それをじっくり見るだけでも頬が緩んでしまいます。
温かみのあるカラフルな色と柔らかな印象を与える色ののせ方が、絵本全体を明るく楽しい雰囲気にしてくれているように思います。

 さて、こちらの物語、おばけちゃんのとってもかわいらしい冒険物語なのですが、
ストーリーを簡単にまとめると次のようになります。

冒頭部

 おばけちゃんの不服
  「まっくろくろの島では写真がとれない」

助力者の出現
 コウモリさんの助言
   「船をつくって他の島を探しに行こう」

旅立ち
 【うまくいかない冒険】
 第一の島
   →ジャングルの植物につかまってしまう
 第二の島                      
   →未知の植物キノコをたくさん食べておなかを壊してしまう
 第三の島
   →島ではなく眠っていた巨大な魚

助力者の出現
 おばけちゃんの不服
 コウモリさんの助言(励まし)
  「失敗には学びがある」

再び旅立ち
 学びを踏まえて、さらなる旅立ち
【新しい島でも慎重に進み、さきほどのような失敗を繰り返すことなく冒険は進む】
 第一の島   
 第二の島  
 第三の島


帰還
 冒険後も不服なおばけちゃん

助力者の出現
 コウモリさんの励ましと助力・譲与

エンド


 この絵本の特徴のひとつが“繰り返し”の語りです。
船に乗って出発したおばけちゃんとコウモリさん。
失敗しながら、島めぐりを3度繰り返します。
そのあと、3度の島めぐりでの失敗を思い出しながら、新たに島めぐりを3度繰り返す。
ここでは新しい島めぐりが3回繰り返されるのに加えて
最初の島めぐりでの経験が反芻される(脳裏で繰り返される)ことになります。
この繰り返しの話法は昔話などで用いられている、
“物語の語法”“パターン”のひとつ。
昔話だけでなく、現代の絵本でもよく用いられている技法です。
繰り返しによってお話がリズムよく進みますし、
繰り返しがあることに気付くと、
期待や予測が生まれ、聞き手はよりお話に入っていくことができるように思います。
そして何より、子どもは繰り返しが大好き。
同じこと、同じようなことが起こるとそれだけで楽しいのです。
この絵本では、繰り返されるのは島めぐりだけでなく、
おばけちゃんの相棒であるコウモリさんの助言(助力)も3度出てきます。
(この助力者という存在も昔話ではよく登場するキャラクターです)
おばけちゃんが不服を言う度に
コウモリさんが優しく助言し、力を貸してあげるという繰り返し。
ちょっと感じは違うのですが、のび太ドラえもんの関係を思い起こしてしまいます。

 今回は、“繰り返し”ということに注目してみました。
個人的には、こういう繰り返しで進んでいくお話は
声に出して読む、誰かに読んであげる、読んでもらうことで
一層楽しめるように思います。
カラフルで愛嬌のあるイラストも楽しいこちらの一冊。
お子様だけではなく、誰かと一緒に楽しんでみてはどうでしょう。
もちろん、自分のために自分で読んであげるのもすてきです。


デヴィッド・カリ Davide Cali (1972− )
スイス、リースタル生まれ。イタリアのみならず、フランス、ベルギー、スイスでも受賞経験あり。作品は世界各国で翻訳されており、日本でも『まってる。』『キスしたいって言ってみて』『ボクの穴、彼の穴』が千倉書房より出版されている。

フィリップ・ジョルダーノ Philip Giordano (1980− )
イタリア、サヴォーナ生まれ。多くの国際コンクールで入賞。グラフィック・デザイナーとしても活躍している、今注目のイラストレーター。