京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

このゴージャスで美しく知的な風貌の女性を、ご存知だろうか?


(出典:Franca Rame:Teatro, politica. http://www.francarame.it/it

女優であり、劇作家であり、政治家であった女性、フランカ・ラーメ(Franca Rame)。
彼女が、2013年5月29日、夫ダリオ・フォー(Dario Fo)に看取られ、イタリア北部の自宅で永眠した。1929年、イタリア北部の町パラビアゴで、旅回り役者の両親の間に生まれたラーメは、まだ幼いころから両親とともに舞台に立っていたという。彼女の人生は、まさに舞台とともにあった。
彼女の人生のパートナーであり、演劇人としてのパートナーでもあるダリオ・フォーは、ノーベル文学賞(1997年)を受賞したイタリアを代表する演劇人である。彼の作品は世界的にも評価が高く多くの国で上演されている。それらの多くはラーメとともに作りあげられたものであり、彼の演劇のよき理解者であり、また、大きな影響を与えてきたことは間違いない。これまでのフォーの活躍と演劇人生もまたラーメとともにあったと言っても過言ではないだろう。
フランカ・ラーメと夫ダリオ・フォーは1951年に出会い、54年に結婚。二人の作品、二人の演劇、そしてフェミニズム運動や左派系政治活動への関わりを含む二人の活動は、イタリア演劇界のみならず、イタリア社会に強い影響を与えてきた。二人は政治家や教会をはじめ、権力を批判・風刺する痛烈なコメディを創作し、世に送り出してきた。それらは多くの観衆を笑いと熱狂の渦に巻き込むものであると同時に、時には自分たちの命をすら危険にさらすものであった。
それを表す一つの出来事がある。フランカ・ラーメ(Franca Rame)と検索をかけてみるとすぐに出てくるのがLo stupro(レイプ)という言葉。1973年3月、ラーメが極右系活動家たちのグループから拉致され、性的暴行を受けるという事件が起こった。彼女とフォーの活動に対する報復だったとされている。暴行については口を閉ざしていたフランカだったが、1975年にひとつのモノローグを書いて舞台にかけた。それが『レイプ(Lo stupro)』という作品である。ある女性が受けた性的暴力に関する記事にインスピレーションを受けて書いたと言われているこのモノローグには、彼女が実際に体験した恐ろしい出来事が織り込まれている。この1973年のレイプ事件は、法的には1998年で時効となっており、多くのことが明るみに出ているにも関わらず、誰も刑罰を受けていない。事件について激白することは、彼女にとって難しく苦しいことであったに違いない。しかし、彼女が書いたモノローグと共にこの事件は記録に残り、読まれる度に、上演される度に、人々に思い出されることになる。ラーメはこのモノローグを通し、筆と言葉と演技で加害者を糾弾したというわけだ。
 演劇という手段で社会の歪みを訴え権力批判を続けてきた二人。60年代〜70年代の作品と活動が、最も過激なものであったように思うが、その後80年代90年代に入っても多くの作品を舞台にのせ、さまざまなことを笑い飛ばし、そして笑い飛ばすことのできない多くの問題を観客に知らしめてきた。
 2000年に入ると二人は政治にも参加するようになり、ラーメは2006年、政党『価値あるイタリア(l’Italia dei Valori)』から出馬し、ピエモンテの上院議員になっている。しかし、政治の世界に失望して2008年に辞職。2009年には、自叙伝『ある即興人生(Una vita all’improvvisa)』を出版。そして、フォーによると、ラーメは亡くなる前に上院議会での経験と問題を描いた戯曲を書いていたそうだ。まさに、彼女の人生は最後まで演劇とともにあったということだろう。
夫婦として難しい時期もあったようだが、それでもフォーとラーメは常にパートナーであり共闘者だった。共に作り上げ、共に戦い、共に生き抜き、共にイタリア演劇を活気づかせてきた。これからはもう二人一緒の舞台を、彼女の舞台を生で見ることはできない。しかしその姿は映像として、今もこれからも見ることができる。そして戯曲はイタリアのみならず世界中で後世まで残る。
さようなら、偉大で勇敢な女性フランカ・ラーメ。これからもあなたが遺した作品が、フォーとともに作り上げた作品が、世界中で上演される。そしてその度に私たちは演劇で戦った女性がいたことを知り、また思い出すことになる。そうやって、あなたはいつまでも私たちの記憶に残ることになるだろう。

Dario Fo & Franca Rame - L'anomalo Bicefalo

Franca Rame - Monologo "Lo Stupro"

文責:ツイスティーけいこ(たなかけいこ)