京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『THE WAVE ザ・ウェイブ』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年8月5日放送分
『THE WAVE ザ・ウェイブ』短評のDJ's カット版。
8月3日(水)シネ・リーブル梅田で鑑賞。

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ノルウェーガイランゲルフィヨルド。1000メートル級の切り立った断崖絶壁が続く渓谷は世界遺産に認定された景勝地。平穏な絶景なんだけれど、岩盤崩落によって起こる巨大な津波によって甚大な被害が出たことも。地質学者のクリスチャンは、ある日崩落の前兆を察知して、その不安は的中。緊急避難警報が街に鳴り響いたら、80mの巨大津波が来るまでたった10分。クリスチャンは家族を救えるのか。
 
久々に当たりましたよ、リクエスト枠。うえだっちさんから、感動のディザスター・ムービーをぜひってことで、関西ではシネ・リーブル梅田のみ、さらに1日1回しか上映していない。さらに、お昼12:20。正直ね、観るだけでこんなにハードルが高かった作品はコーナー始まって以来じゃなかろうかと。でも、ですね。これがリクエストの醍醐味。水曜日に行って誰からも声はかけられなかったけど、いい映画体験でした。
 
☆☆☆
 
ノルウェーの映画って、僕初めてかもしれないなと思って調べてみたら、このコーナーでちょうど3年前に扱った『コン・ティキ』とか、公式サイトにコメントを寄せた『トロール・ハンター』とか、色々ありました。『コン・ティキ』なんてゴールデン・グローブ賞にノミネートもしてたし、アカデミー賞外国語映画賞候補に上がってましたから。

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今回の『ザ・ウェイブ』もアカデミー賞外国語映画賞ノルウェー代表まで行った。そして、主演のクリストッフェル・ヨーネルさんはあの『レヴェナント』でも重要な役で出演しているハリウッド俳優でもあるという。監督のローアル・ユートハウグさんは『トゥームレイダー』のリメイクを担当することが決まってたり。
 
情報を知れば知るほど、期待値が上がるわけですが、ではなぜ観るだけでこんなにハードルが高いのか。大きな理由は、恐らく津波をモチーフにしているからでしょう。それを言い出したら、『インポッシブル』というスマトラ沖地震による津波がリゾート地を襲うという内容の映画が2013年にそこそこの規模で公開されているんです。あっちはナオミ・ワッツというスターが出てたしなぁ。『ザ・ウェイブ』はそういう人いないし。予算も明らかに少ないからなぁ。恐らくはそういう原因なんだろうなぁって、僕は映画配給もやってるから、どうしてもその辺の事情に想像を巡らせてしまうんですけど、はっきり言います。出来栄えを手放しには褒めないけど、映画作りへの高い志と工夫は手放しに褒めるべき作品です。

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だってね、ノルウェーどころか、スカンジナビア半島で初めてのディザスター・ムービーなんですよ、これ。そりゃそうだよ。ディザスターもの、スーパーヒーローものなんて言ったら、それはハリウッドの独壇場です。予算のことが大きいですよ。お金。
 
でも、『ザ・ウェイブ』はそこを知恵で乗り切った。科学的な検証もしっかりした。そもそもロケ地の魅力が凄まじいので絵的な魅力あり。白夜ならではの夜の光も美しい。俳優は優秀。CGはがんばる(←ここは僕もよくわかんないけど、何とかなってた)。
 
以下、僕が気づいた、作品の質を上げる、この場合は迫力を損なわないための工夫をいくつかご紹介。
 
1.話を大きくしない
基本的にクリスチャン一家をはじめ、彼の関わりのある人しか描かない。でも、ホテルも舞台にすることで、一定レベルの大勢の人が被災するという規模感は担保している。
 
2.  災害を夜中に設定する
昼間だと、引きの画にするとどうしても画面に入ってくるディテールを端折ることができる。白夜だから、薄明かりでまったく見えないわけでもないし、むしろ独特の不気味な雰囲気も作ることができる。
 
3.タイムリミットを作る
主人公が地質学者だから、何分で津波が街に到達するか、すぐに計算できる。そして、警報を鳴らすのも、遠隔操作だけどクリスチャンですから。そこから10分で街に到着する。やっぱりパニックムービーには時間の制約必要でしょ。
 
4.クライマックスを津波そのものにしない
脚本の構成として、津波が起こるまで、津波、その後の救出という三部構成、序破急になってます。時間も均等に配分して、ひとつひとつ丁寧に作ってる。岩盤崩落が起こりそうで起こらない焦らし。油断する人々。この序盤に手を抜かないから、フリが効いてくる。で、クライマックスはとある場所からの脱出・救出劇になるんだけど、なぜそんなことになったのか、設定がうまいし、最後の最後にどうなるのか予想がつかないハラハラを持ってくることで、興味の持続も申し分ない。
 
人間ドラマの部分もですね、特にクライマックスの妻の行動には驚かされました。パニック時の人間の心理をえぐってたと思います。
 
全体として、そら監督もハリウッドから声がかかるわという出来栄えなのは間違いないです。津波の映像があるので、東日本大震災の記憶がまだまだ鮮明な中、鑑賞による心理的負荷は考慮しないといけませんが、これは災害への警戒と備え、そして家族の絆といったジャンルが要請する内容を十分にうまく描いた力作として、僕は強くお勧めます。
 
☆☆☆
 
さ〜て、8月12日(金)に扱うのは、『秘密 THE TOP SECRET』になりました。新井式廻轉抽籤器をいつものように回した結果、候補作に振り分けられた数字ではなく、なぜか「ホラー」という文字の書かれた玉が一度出てくるというハプニングもありましたが、なぜそんなことになったかは、Ciao! MUSICAスタッフと僕の「秘密」です(苦笑)
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