京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『インフェルノ』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年11月4日放送分
『インフェルノ』短評のDJ's カット版です。

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ダン・ブラウンの原作を映画化した2006年の『ダ・ヴィンチ・コード』、2009年の『天使と悪魔』に続く、壇蜜が定義するところの「インテリ版ダイ・ハード」、トム・ハンクス演じるラングドン教授シリーズの第3弾。ラングドンは、アメリカの大富豪にして生化学者のゾブリストから挑戦状を突きつけられます。地球規模の人口増加問題を解決する手段として彼が生み出した人口を半減させるウィルス。そのありかが、イタリアの詩人ダンテの叙事詩『新曲』地獄篇インフェルノをモチーフにしたボッティチェリの絵画に隠された暗号によって示される。フィレンツェヴェネツィアイスタンブールの3都市を巡るうち、ラングドン教授は予想だにしない真実を知ることになる。

ダ・ヴィンチ・コード (字幕版) 天使と悪魔 [SPE BEST] [DVD]

監督はいつものロン・ハワード。ラングドンと冒険を共にする美しき相棒シエーナを、僕もぞっこんフェリシティ・ジョーンズが演じています。
 
この作品、先日、109シネマズ大阪エキスポシティのIMAXで番組主催の試写会を実施しまして、僕もそこで思う存分堪能しました。予告にも出てくるゾブリストがフィレンツェの塔から飛び降りる場面なんて、IMAXのあまりの迫力に、座ってるのに僕も足元がすくみましたよ。
 
それでは、いつものように3分間の短評、いってみよう。

一応、前2作は観ているものの、僕はダン・ブラウンの原作は読んでいません。それでもわかるのは、このシリーズはまず脚本が超大事ってことです。だって、『インフェルノ』も原作は文庫にして上中下巻、計1000ページです。ストーリーの枝葉を刈り込み、映画向きのエピソードとそうでないものを取捨選択し、生まれた「ほつれ」を映画オリジナルのキャラクターや展開で整えないといけない。至難の業です。実際のところ、原作ではひとつ前の物語『ロスト・シンボル』は映画化が脚本の問題で座礁に乗り上げてますから。

インフェルノ(角川文庫 上中下合本版) ロスト・シンボル(上中下合本版)<ロスト・シンボル(上中下合本版)> (角川文庫)

その意味で、今回脚本がうまく機能しているなと思ったのは序盤のフィレンツェです。ラングドン教授、いきなり病室にいるんですよね。ここはどこ? 私は誰? 短期記憶がスコッと抜けた状態。しかも、現代の僕らも知るキリスト教の地獄を克明に表現したダンテの神曲地獄篇さながらの幻覚を見る。まるでホラー映画です。会う人会う人、誰が敵で誰が味方かよくわからない。しかも、冒頭で追われて塔から飛び降りたゾブリストの人口抑制対策の必要性を説く過激なプレゼンをネット映像で見る。そうこうしている間にも、あちこちから追っ手がラングドンに迫る。何だかよくわからないままに逃げながらも謎を解かないといけない。とりあえず信じられそうなのは、病院から辛くも助け出してくれた女医のシエナのみ。
 
とにかくこの序盤の作り込みが凄い。3つの組織の思惑と、絶えず変化するその三角形の力学の中で右往左往するラングドン。中盤以降のどんでん返しへの布石をすべてぶちこんであって、とんでもないスピードで話が進む。ポイントはゾブリストの主張というか、そのプレゼンです。うますぎて、それなりに説得力があるせいで、殺人ウィルスという絶対ダメな解決方法とは言え、絶対的な悪だと思えない。こういう観客のミスリードがあちこちに仕掛けてあるし、ラングドンも記憶障害のせいで「おいおい大丈夫か」と言いたくなるし、他の組織も正義なのか悪なのかグレーだしってことで、謎が謎を呼び絡まりあって進んでいくから、シリーズ最高レベルにハラハラします。
 
そして、これまでと大きく違うのは、キリスト教の歴史のダークサイドに光を当てるんではなく、キリスト教的な価値観と文化はあくまで謎解きというか、簡単に言えば宝探しゲームのモチーフにしているだけで、あくまでテーマは人口増加問題という人類の来し方行く末なんで、日本に住む僕らにとっても身近に感じられるんです。だから、なおのこと、シリーズでは最も入り込みやすい。
 
ただし、観終わってみると、ゾブリストはなぜこんな面倒くさい方法でウィルスをばらまく必要があるんだという謎は残ってしまうんですよね。僕だけかな。脚本がうまいから、とりあえず始まったら終わりまでブレーキがかかることなく進むし、極端な話、追いかけているものが別にウィルスでなくても成立するような、映画の神様ヒッチコックが言うところの「マクガフィン」のような「映画の中ではとても重要なものだけれど、別にそれは何でもいい」みたいなものなんで、いいっちゃいいんだけど。冷静になると、ゾブリストの思惑がよくわからなくなる。
 
で、原作ですよ。どうやら、ウィルスそのものの設定が映画では改変されてる。だから、エンディングも違う。シエナの役柄も他の登場人物との関係性も結構違う。ただ、それをそのまま映画にすると、どうしても2時間では収まらないし、映画的カタルシスに欠ける展開になってしまうということでしょう。
 
結果として、ポップコーンの似合うハリウッド大作としては正解のエンターテイメントなんだけど、物語的深みはやはり原作のほうが遥かにありそうで、ああ、原作をどっぷり味わいたい欲求が抑えきれなくなっています。それも含めて、映画化としては成功なのかもしれないですけどね。
 
☆☆☆
 
それにしても、ドローンって、あんなに早く飛べるんですか!? ボーボリ庭園でのドローンとの追いつ追われつは、たまらなく怖かったです。あれに銃器積まれた日にゃあ、あなた…
 
劇中でキーワードのひとつとなる、チェルカ・トローヴァ、英語にするとSeek and find.で、確か「探し求めよ」みたいに訳されてたように思うんですが、現在のイタリア語だと、頭にwhoにあたる言葉をひっつけて、Chi cerca trova.(キ・チェルカ・トローヴァ)と諺っぽく使われることが多いです。直訳すれば「探す者は見つける」で、「努力すれば報いられる」というニュアンスになります。よく忘れ物をして探しものをしていた僕に、イタリア人の母がむしろ文字通りの意味で「探さないと見つからないわよ」とこの言葉を言い放っていた記憶があります。

さ〜て、次回、11月11日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神ミホさんから授かったお告げ」は、『ボクの妻と結婚してください』です。好みからすればまず観に行かない作品ですが、そんな僕がどう批評するのか。鑑賞したら、あなたも #ciao802を付けてのTweetをよろしく!