京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『ボクの妻と結婚してください。』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年11月11日放送分
『ボクの妻と結婚してください。』短評のDJ's カット版です。

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引きのあるタイトルで話題となった放送作家樋口卓治の同名小説が原作。ウッチャンナンチャン内村光良主演で舞台化、テレビドラマ化されていた物語を、今回は織田裕二を主演に迎えて映画化。監督は、関西テレビの社員にして2011年の『阪急電車 片道15分の奇跡』で初メガホンを取った三宅喜重

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末期のガンで余命半年と宣告されたバラエティー番組の放送作家、三村修治。世の中のできごと・現象を「楽しい」に変えてきた自分の職業経験を活かし、やがて残されることになる家族を想った結果、自分の代わりに愛する妻と息子を支えてくれる新しい夫・父を選ぶことはできないかと動き始めるのだが…
 
修治の妻を吉田羊、修治が見込んだ男を原田泰造が演じています。
 
109シネマズ大阪エキスポシティで月曜日の夜に観てきましたよ。清潔感のある劇場、スクリーンで気持ち良く鑑賞。若いカップルが多かった印象ですが、とにかく泣きっぱなしの人もいました。すすり泣きが漏れ聞こえる中、僕がどんな風に映画を観たのか、それでは、いつものように3分間の短評、いってみよう。

小説、芝居、テレビドラマとかえすがえす語られているわけなので当然ながら魅力があるわけだし、物語そのものを僕がとやかく言うつもりはないんですが、結論から言えば、少なくとも1本の映画としては僕は感心しなかったので、今回はその理由を脚本と演出に絞って説明しますね。
 
文庫で288ページあるし、ドラマでもNHKで6回やってるんで、エピソードには事欠かないはずですね。オリジナル要素を入れるというよりは削っているんでしょう。尺は114分。今思い返してみても、ストーリーは脇道にそれたりすることなく進むんです。無駄はないはずなのに、僕にはとても長く感じられました。事前に読んでいた粗筋から想像できることしか起こらないからです。
 
スタートはこんなシーンでした。スイカの表面、緑の皮と白い部分が大工道具のカンナでみるみる削られて、赤い玉に様変わりしたスイカに女の子が「夢のようだ」とカブリつく。これ、修治の考えたおもしろ企画がバラエティー番組でオンエアされているのを妻と息子が家のテレビで見てるってことなんですけど、こういう放送作家ならではの発想の転換とかウィット、ユーモアをもっと見たかったんですよ、僕は。だって、最大の思いつきはタイトルで言っちゃってるし、未来の夫探しの方法も、まあ想定の範囲内だから、こちらの興味を引っ張っていってくれないんです。
 
特に前半はコメディータッチなんだけど、「タッチ」であるだけで、脚本上のヒネリ、つまりできる放送作家ならではのエピソードがひとつもなくて、むしろ、いい人、いや、人懐っこい人ってことが強調されてるんですね。その弊害として、彼がむしろ、ちょっとどん臭い人にすら見えてしまってるんです。ミス、多すぎませんか、一世一代の企画で。キャリア20年の凄みが見えてこないのは残念でした。
 
あと、エピソードの選択という意味で納得のいかなかったのは、恐らくは夫婦の絆を描きたかったからだろう、若き日のとある苦境ですね。極貧生活を経験していたようなんだけど、息子の年齢から逆算すると、10年経ってないんですよ。どうやって今のハイクオリティーな生活に至ったんですかね? あの後、一切示されないから、すごい気になりました。それ入れるんだったら、きっと面白いに違いない夫婦の苦労話を、ハイライト形式でもいいから見せて欲しかったなあ。
 
生活の話になりましたけど、修治が劇中で結婚生活のすばらしさを説くところがあります。結婚は理想じゃない。生活という現実なんだ、みたいな。ここから演出の問題点ですけど、修治の考えの真逆になってる気がするんです。はっきり言って、生活が描けてません。モデルルームみたいなマンション。ものないなぁ。家具少ないなあ。どう見ても作りものなんです。
 
夫婦が大げんかをする場面を思い出してください。あんなことになってるのに、息子はどこにいるんですか? 寝てても起きるでしょ? 僕なら、絶対に息子が自分の部屋で怯えながら布団にくるまるか、ドアに耳を当てているカットを挟みますけどね。
 
要は、リアリティを出そうという意図がないんです。修治もなんか痩せないし、やつれないし。これは寓話だからファンタジックに描いているって擁護することもできないと思うんです。それならそれで、もっと驚く映像的仕掛けを入れるでしょ。ないです。
 
むしろ、すべてを絵で説明してます。これは脚本演出双方の問題ですが、1から10を通り越して、15くらいまで全部口で喋る。そこに書いてあることすら、読み上げる。だから、映像が言葉に支配されちゃってるんですよ。ラジオドラマじゃないんだから。
 
そして、絵づくりもコメディー演出も、セットもロケ地選びも、そこはかとなくトレンディドラマとまではいかないけど、一昔前のドラマ風なんですよ。そういう意味ではファンタジックではありましたけどね。
 
その結果として、そもそもの夫婦愛のあり方そのものが、はっきり言って、今時どうなんだっていう、何だか古めかしいものにも見えてしまっているのが失点だと思います。
 
終盤でいかにも美談な脚本上のどんでん返しがあるんだけど、あれも「やさしい嘘」というより、「見ていてやるせなくなる嘘」でした。あれじゃ、どこまで行っても修治のひとりよがりに周りが付き合わされてるという解釈だって成り立っちゃうんですよ。
 
命は重いテーマですよね。笑いでくるむなら、『ライフ・イズ・ビューティフル』という傑作があるので勉強してほしいなあ。あと、リアリティー演出だと、日本にも『愛妻物語』とか、スゴいのがあります。

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かなり辛い評論になりましたが、ぜひご覧いただいて、真偽の程をあなたも確かめてください。同じ純愛テーマで『湯を沸かすほどの熱い愛』と見比べるのもいいでしょう。109シネマズへ観に行こう!
 
☆追記☆
 
これは僕の好みの問題ですけど、大声で誰かを呼び止めて振り返らせて大事なセリフを言う、みたいな演出が昔から見てられないんです。これまで主に日本のドラマで何度繰り返されてきたことか。今回だとビルを出てきた原田泰造織田裕二が呼び止めますね。そこでまさかのセリフでした。
 
「僕は死にます!!!」
 
いやいやいや、武田鉄矢じゃないんだから。しかも、そんなとんでもないことをオフィスビルで言ってる割には、後ろの方に映ってるエキストラの視線をこちらに向けることもしないんだよなぁ…
 
とまあ、とにかく今回は本当にキツめの評でした。ラジオでは話しませんでしたが、今年の春、身内に似たようなことが実はありまして、もちろんこういうのって千差万別だってことはわかるんだけど、とにかくこの映画みたいに甘いもんじゃないだろってまず感じたのが率直なところ。「これって美談じゃないですか?」っていう見せ方が辛かったです。

さ〜て、次回、11月18日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「新しい映画の女神メイミさんから授かったお告げ」は、『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』です。4DXにするか、IMAXにするか、マジ迷い中。鑑賞したら、あなたも #ciao802を付けてのTweetをよろしく!