京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『海賊とよばれた男』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年12月16日放送分
『海賊とよばれた男』ひらパーのポスター広告的には『結局やらされた男』)短評のDJ's カット版です。
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出光興産の創業者、出光佐三をモデルにしたと言われる主人公国岡鐵造が、様々な困難を打ち破り、いかに会社を大きくしていったのか、故郷北九州門司で石油業に乗り出した1900年代から戦後までの変遷を辿りながら描く一代記です。
 
2013年に本屋大賞で第1位を獲得した百田尚樹の同名ベストセラー小説が原作で、監督は山崎貴、主演は岡田准一。今回はポスターや公式サイトで驚くほど百田尚樹の名前が小さくなっていますが、それはともかくとして、この座組、そう、『永遠の0』ですね。この番組でも僕がわりと酷評しまして、忘れもしない、一番賛否が分かれた、僕にとっては結構キツかった記憶がある作品と同じ顔合わせ。そこに、今回は山崎貴作品常連の吉岡秀隆染谷将太綾瀬はるか堤真一などなど、日本を代表するキャストがスクリーンを彩っています。
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それでは、なんだかんだ言っても『結局短評する男』マチャオはどう観たのか。『海賊とよばれた男』いつものように3分間の短評、いってみよう。

世界を動かすエネルギーが石炭から石油へと変わるのを見越した若き国岡鐵造。門司の小さな燃料販売店だった国岡商店の舵取りをしていた彼は、その後、店の規模を大きくしていくにあたって、持ち前の知恵と勇気を振り絞り、いつも既得権益に立ち向かっていきます。時に同業者間の紳士協定を破り、時に大胆な営業戦略と商品開発を実行し、時に産業スパイを活用し、時に国際紛争の間隙を縫っていく。
 
正直なところ、僕はもっと「日本人のココがスゴい」みたいな匂いがプンプンする作品かなと予想していたんですが、蓋を開けてみると、そうではなくて、国岡という男は、社員を守る大家族主義的な経営で、国家というよりも、消費者の利益が自分たちの利益に繋がり、それはやがて社会や世界を利することにもなるだろうという理念を持った自由主義経済を良しとする企業家でした。経営の出発点に取ったある手法を周囲からやっかまれて「海賊」と呼ばれた男ですから、彼は基本的に博打を打つようなワンマンカリスマ経営者なので、その都度、次はどうやってこの苦境を脱するんだろうという興味が湧いてきて、戦争映画と比べて地味なドラマながら、脚本の構成を練ることで王道の大河ドラマ的な展開になっていたと思います。これだけでも、十分に観る価値はあるんでしょうが、物足りなさを覚えたのも実は事実。
 
理由は、大きくふたつ。
 
ひとつは、映像的なリアリティの問題。今回は山崎貴監督の強みであるVFXをあくまで限定的にしか使わずにセットやロケを中心に撮影しているんですが、それぞれの時代の匂いとか息遣いが伝わってこなかったんです。限定的だからこそなのか、少し浮いて見えたVFXと同じように、国岡達のドラマがその背景の市井の人々とつながっているようにはあまり見えませんでした。これは細部の積み重ねだと思うんですけど、たとえば衣装や屋内のセットがキレイすぎるんです。わかりやすいところで言うと、社員が戦争から帰ってくるところがありますけど、戻る方も迎える方も、2・3日前に新調してきましたみたいな服装なんですよね。だから、再現ドラマ感が出ちゃう。こういう例はあちこちに見受けられました。結果として、そこに確かに人が生きているという感覚が漂白されていたように思います。
 
もうひとつは、視点が単一である問題。ひとりの革命的な企業家が時代の荒波をくぐり抜けた感動は伝わるんですけど、あまりにも視点が国岡側に寄りすぎていて、たとえば国内外の石油会社の目論見がわからないので、國村隼演じるライバルとのやり取りも、互いにいい演技してるのに、どうにも奥行きが乏しくてあっさりしちゃってます。GHQの場合は、相手方が国岡をどう観ていたのかわかって良かったんですけどね。
 
あと、ひとつ補足すると、マッチョなこの物語で唯一出てきた女性、国岡の妻、ゆき。国岡はなんでゆきに対してあの時アクションを起こさなかったのか描写しないのは、後半の展開を考えるともったいない。あそこはもう一歩感情に踏み込んでほしかった。そうじゃないと、ゆきはキツすぎます。
 
大きくふたつ弱点を指摘しましたが、特に原作を読んでない人、この物語を知らない人は、素朴に好奇心が満たされるはずです。何を隠そう、僕も胸が熱くなる場面がありました。ラストの切なさ、成功したはずなのに虚しさも漂う着地も良かったと思います。
 
僕にとっては『永遠の0』や『STAND BY MEドラえもん』よりも、よっぽど見応えのある作品となりました。

さ〜て、次回、12月23日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様から授かったお告げ」は、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』です。ちなみに、23日のCiao! MUSICAは祝日編成で3時間の短縮バージョンとなるため、映画短評は14時に開始します。あなたも鑑賞したら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!