京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『64 -ロクヨン- 後編』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年7月1日放送分
『64 -ロクヨン- 後編』短評のDJ's カット版(この言い方を恒例化しようとしている節がある)。
6月28日(火)MOVIX京都で昼に鑑賞。


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結構入ってました。基本的に前編を観てない人はいないだろうことを考えると、前編が盛り上げた期待感が功を奏しているってことは言えるでしょう。

たった1週間で終わってしまった昭和64年に起きた未解決少女誘拐殺人事件。時効まで後1年と迫る中、通称64事件を模倣した少女誘拐事件が勃発。当時の刑事、そして現在は県警の広報官を務める三上は、警察組織の複数の軋轢、記者クラブとのやり取り、自分の娘の失踪などなど、山とある問題を抱えたまま、64とnew64双方の事件の行方は…

僕は前編の短評でこんな事を言いました。できごとだけでなくて、テーマもレイヤーがいくつも重なっているせいで、実は肝心の下地の64事件が見えなくなってるし、前編だけだと話が事件からズレにズレるので、もう何が軸なのかわかりにくい。でも、テンポはいいし面白い。一本調子には進まず、大風呂敷を広げたミステリーがどこにどう収斂していくのか…

☆☆☆

後編を観たところ、大風呂敷は畳みきれず、どこにも収まりきってませんでした。

というか、前編と後編で驚くほど話の運び方が違うんです。前編の最後に、64を模倣した少女誘拐事件が起こるんだけど、後編はもうその解決に向かってまっしぐら。戸惑いましたよ。前編であれだけ幹より枝葉を見せてたのに、何なら、根っことか土壌まで見せてたのに、いきなりなんだもん。まぁ、リアルタイムで誘拐が起きてるわけだから、そっから用意ドンで走り出すのはわかるっちゃわかるんだけど、正直なところ、走りのフォームがキレイとは言い難かったため、もちろんゴールはするんだけど、何かドタバタして土煙がまっちゃってよく見えなかったんですけどって感じでしたね。

やっぱり一応ミステリーなわけだから、押さえるところは丹念に押さえてほしかったです。特に出来事の因果関係。64模倣事件の被害者父として突如登場した緒形直人演じる目崎正人の境遇。模倣事件が起きるまでの経緯。たとえば、目崎の長女の携帯はどうやって奪われたのか、など。群馬の記者クラブと東京の記者連中の関係。三上家の内情などなど。前編であれだけ広げた分、後編ではこういったことを端折ってしまってるのが、観ているこちらとしては食い足りないというか、消化不良になっちゃうのは否めないような気がします。

わからないでついでに言えば、三浦友和演じる三上の先輩刑事松岡の立ち位置が揺れてるってことはわかるんだけど、結局彼のモットー、スタンスの変遷と心の揺れのプロセスがわかんないからモヤモヤするねぇ。

僕は前編を結構評価しました。

それは三上という刑事が今は広報官として複数の組織の板挟みに苦しんでもがきながらも成長していくみたいな、ミステリーじゃなくて、組織とそのメンバーの関係性に焦点が当たっているのが新しいし興味深いっていうことだったんです。ところが、後編ではその面白みは捨てて、事件の解決にグッと寄ってる。でも、その割には尺が足りなくて、細かいところが描き切れなかった。本当は全体を通して、長いけど3時間くらいでどちらも描ければ良かったんじゃないでしょうか。ただ、そうなると、前編でのひき逃げ事件とか、そう描かなくてよかったってことになるはずですね。枝葉だから。

こんな風に、構成には全体としてかなり難はあるものの、個々のシーンの絵的な演出や、特に俳優の演技については、豪華キャストだけあってさすがに見応えがありました。犯人をあの1週間に引きずり戻すってことが予告でも言われてたけど、要するに、64事件によって皆時間が止まってたわけですよね。安直な言い方だけど、止まってた時計の針がそれぞれに動き出す瞬間ってのが畳み掛けるように編集されていくところはグッと来ました。特に64の時にポカして警察をやめて引きこもっていた彼がラジオ片手に出てくるとこは目頭が熱くなりました。

そして、こうして後編を観て思うのは、声が鍵になってたことですね。そう、見た目じゃなくて声なんです。僕がラジオで仕事してるってこともあるかもしれないけど、これは面白かったです。

最後にまとめるなら、やはり組織ってのは難しいし恐ろしいってこと。三上の場外乱闘気味のスタンドプレーじゃなくて、僕はもっと組織論の展開の中での解決劇を見たかった。だって、結局三上がいたそれぞれの組織が今後どうなっていくのかってことはほとんど解決してないんだもん。

☆☆☆

目崎が必死に辿り着いた喫茶店の裏の空き地。最初は誰もいなかったのに、気がつけば人だかりができてたんですけど。いくらなんでも、あんな短時間に、しかも、そんなとんでもない事態が起きてるわけでもないのに、野次馬が集まりますかね。取ってつけた感じがしました。

三上さんにひとつアドバイスするなら、平成も14年、つまり2002年になってるんだから、固定電話を買い換えて留守電つけたほうがいいと思うよ。娘さんから電話かかってくるかもしれないから。

大阪府警が殺人などの重罪を含めた事件の捜査を数多く放置し、そのまま時効を迎えていたものもわんさかあるというニュースがちょうど報じられたところでした。あと、押収した覚せい剤などのずさんな管理も表面化。やっぱり、この作品でも組織論をちゃんとやって欲しかった気がする。その点は『日本で一番悪い奴ら』に軍配が上がるかな。

☆☆☆

これまで、Ciao! MUSICAの映画短評コーナー「映画館へ行こう」の原稿は、僕の個人Facebookにアップし、リンクをTwitterでつぶやくなどしてアーカイブしてきましたが、Facebookだと、後の検索がやりにくかったり、そもそもページの閲覧やリンクがややこしいなということで、古き良きブログに戻ってまいりました。これまでの短評をこのブログに移植するかどうかですが、相当暇ならやるのかな。いや、やらないな、たぶん。未来志向でこれからも短評を続けてまいります(笑)

さて、次回7月8日(金)の課題作は、宮藤官九郎監督作『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』です。みんな、映画館へ行こう! そして、#ciao802を付けて、Twitterであなたも短評を!