京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『T2 トレインスポッティング』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年4月21日放送分
『T2 トレインスポッティング』短評のDJ's カット版です。

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あのロクデナシたちが帰ってきた。20年前、麻薬の売買で大金をものにしたレントンは、仲間たちと山分けせずにトンズラ。逃亡先のアムステルダムから、スコットランドの故郷エディンバラの実家に戻ってみると、既に母親は亡くなり、父親がひとり暮らしをしていた。そして、悪友たちは相変わらず。親戚から継いだパブ経営もそこそこに、売春と恐喝で財を成すシック・ボーイ。麻薬から抜け出せずに家族から愛想を尽かされているスパッド。刑務所に服役中で復讐の鬼と化しているベグビー。彼らのすったもんだの再会を描く。

トレインスポッティング(字幕版)

あのカルト作の続編は、ダニー・ボイル監督も、ユアン・マクレガーなど主要キャストもそのまま続投という珍しいパターン。このふたりも、今でこそ押しも押されもしない映画人ですが、思い返せば『トレインスポッティング』がブレイクのきっかけでした。僕が高校3年生の秋に公開され、受験生ということで劇場に観に行く習慣がその頃は無かったんですが、大学に入ってからも、レンタルビデオ店や友達の下宿先で何年間もポスターを見にし続けるほどアイコン化していたことはよく覚えています。僕がそんな前作を観たのは、結局もっと後になってから。正直、熱狂したわけではないですが、ボイルの映像センスと実験精神にはやはりしびれました。
 
そんなわけで、後追いだし、別にフェイバリットというわけではない僕野村雅夫がどんな熱量でT2を観たのか。3分間の短評という名のショート・トリップ、今週もいってみよう!

これは同窓会映画です。同窓会って、昔話と近況報告、どちらの楽しみもあって、互いの空白を埋めるもの。なので、現役バリバリの頃を彷彿とさせるシーンをいかにうまく配合するかがポイントになるんですけど、その意味で、ダニー・ボイルの作戦は実にうまい。『トレインスポッティング』を思い出した時に、印象的なシーンってたくさんありますが、とにかくよく走ってたなって感じるんです。それを踏まえてのオープニングですよ。レントン、走ってますね。ただ、場所がストリートではなくて、ジムのランニングマシンの上っていう。当時を思い起こさせつつ、現実との落差を見せる。身体も重そうで、案の定、スピードについていけず、ずり落ちてしまうわけです。あの頃と違う俺。浮かぶ幼なじみの顔。そして、前作通りスタイリッシュなタイトルがボンと出て、同窓会スタート。
 
それぞれの再会は、どれも最初こそぎこちないものの、だんだん感覚を取り戻してきて、映画の中でまた走るようになるんだけど、それがもうランニングマシンの上とは違って、イキイキしてるんですよ。バカな事をやってればやってるほど、スピードも上がっていく。そして、ボイルの実験的な映像さばきにもエンジンがかかってくる。夜、逃走する車にプロジェクションマッピングを施したり、性懲りもなくおっぱじめられるドラッグでのトリップシーンも奮ってました。ガゼル達が駆け抜ける映像を反転させて壁一面に映したり。それから、全体的にストップモーション、要するに動画なのに急に静止画を挟む編集スタイルも効果的に使ってました。こいつらの傍から見た滑稽さ、プラス、こいつらの取る行動の刹那的・衝動的な要素を強調するようで。そして、止まるっていう意味では、音楽の寸止めな使い方も面白かったです。かかるかと思ったら、ここではかけへんのかい!っていうね。
 
要所要所でこういう「トレインスポッティングの続編を見ている〜!」という感覚を僕らに与えてくれる一方、やっぱ主人公たちがもう初老なんで、とんがりはそりゃマクレガーの体型同様、多少は丸まってます。逆に言えば、映画全体のまとまり、見やすさは格段にアップしてます。前作では、映画という列車が車両によって積み荷バラバラで、車両同士の連結も外れかけ。止まるべき駅もしょっちゅう飛ばしてしまっていたのに対し、今作は特急とは言わないけど、快速急行くらいの速さで、荷物も人もきっちり乗車整理して定時運行って感じ。だから、物語の行方がしっかり気になる。
 
そこで大事になるのが、今回のファム・ファタール、つまり運命の女、あるいは魔性の女というべき、シック・ボーイがかこってるブルガリア美女ヴェロニカですよ。きゃわいい~。僕、彼女大好き。バカっぽいけど、したたかでもある小悪魔ですね。この設定も、やっぱり20年経った今だからこそできるというか、エディンバラにもグローバル化の波が押し寄せているわけで、そのあたりの社会性は押さえてます。彼女は現代の象徴なんですね。前作もそうだけど、時代性と社会性をしっかり背景に透かせてあるから、映画がしまるんです。

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それが端的に出ていたのが、レントンがそのヴェロニカにぶつ演説です。前作でもキーワードになった”Choose life”。「人生を選べ」という、もともとは麻薬根絶キャンペーンの言葉(日本で言うなら、問題にもなった「覚醒剤やめますか。それとも、人間やめますか」ですね)。それを彼らはパロディーにして、昔も今も世の中をむしろ皮肉る。だけど、フレーズが20年経った今ならではなものになっていて、早口なレントンの台詞回しと矢継ぎ早な映像編集が絡み合い、僕は鳥肌モノの感動を覚えました。SNSやリベンジポルノ、リアリティ番組、労働環境、そして、教育… 考えてしまいますもの。
 
Choose life. Choose Facebook, Twitter, Instagram and hope that someone, somewhere cares. Choose looking up old flames, wishing you'd done it all differently. And choose watching history repeat itself. Choose your future. Choose reality TV, slut shaming, revenge porn. Choose a zero-hour contract, a two hour journey to work. And choose the same for your kids, only worse, and smother the pain with an unknown dose of an unknown drug made in somebody's kitchen. And then... take a deep breath. You're an addict. So be addicted, just be addicted to something else. Choose the ones you love. Choose your future. Choose life.
 
20年前に選んだ人生の結果としての今。選択肢はみるみる少なくなっている。淡くてもいい。しがみつける希望は見つかるのか。レコードはまた回り始めるのか。僕はわりと清々しくラストを迎えました。
 
これ1本だけでというよりは、やっぱり前作からの流れを踏まえてですけど、十分に満足のいく続編になっていると僕は思います。

さ〜て、次回、4月28日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『美女と野獣』です。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!