京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『美女と野獣』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年4月28日放送分
『美女と野獣』短評のDJ's カット版です。

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冷たく追い払った醜い老婆が、実は魔女だった。呪いをかけられて野獣となった王子。元の美男子に戻るには、その外見のままで誰かと真実の愛で結ばれないといけない。魔女が残した一輪のバラの花びらがすべて散ってしまう前に。人々からすっかり忘れられた城には誰も寄り付かなくなっていたところ、美しい村娘ベルが現れ、互いはしだいに惹かれ合っていくのだが、そこにはたくさんの邪魔が入り…
 
これまで何度も映画になっている物語ですが、振り返れば、ディズニーアニメ第2の黄金時代と言われた90年前後の代表作のひとつ、91年発表のアニメ『美女と野獣』が決定版でしょう。それを今回はかなり忠実に実写映画化しています。監督はミュージカルの名手ビル・コンドン。主人公ベルには、「ハリー・ポッター」シリーズで誰もが知るエマ・ワトソンが扮する他、先週評した『T2 トレインスポッティング』のユアン・マクレガーが蝋燭立て、燭台に姿を変えられたルミエールを演じるなど、原作がフランスの民話ということもあるのか、ヨーロッパベースのキャスティングになっています。
 
それでは、バラの花が散るよりも短い、制限時間3分間の映画短評。今週もいってみよう!

人は外見で判断してはいけない。よく知られたこの物語の教訓ですが、ここ数年、リベラルな価値観を物語に植え付けてきたディズニーだけに、今わざわざ実写にするからには、あの戒めをアップデートするような思惑があるのだろうと想像して観に行ってきました。結果として、なるほどなと思えた部分も多い一方、ちょっとした不満もあるにはあるっていうのが、僕の見立てです。
 
まずは、なるほどの部分から。僕はこの手のロマンティックなものにそもそも眉をしかめるひねくれ者でもあるんで、美女と野獣が結ばれるのって、「要はギャップ萌えってことでしょ?」とか、心理学で言うところの一種のストックホルム症候群じゃないのって思っていたくらいなんだけど、今作は違いましたね。何って、ベルの内面です。今回の教訓は、見かけうんぬんよりも、未知のものでも気後れせずに接すれば世界は開けるってことじゃないでしょうかね。
 
ベルは前近代的で閉鎖的な村の中にあって(舞台が18世紀だから当たり前だけど)、超進歩的で、読書家だし、子どもたちに勉強も教えるし、好奇心に満ちている。教会の図書室から本を借りる時のウキウキした感じ、そして、まさかのロバを使った洗濯機を発明して、浮いた時間を使って読書したり子どもに読み書きを教えるところが僕はお気に入り。
 
ひとりずば抜けて賢いから、村人たちをバカにしているという見方もできるかもしれないけれど、冒険心旺盛なベルにとっては、女性はこうあるべきとか、狭い中で汲々とした偏狭な人たちに囲まれていることが、むしろ牢屋にも似た環境なのであって、これはそこからの解放の物語であり、王子との恋愛はその副産物くらいの位置づけなんじゃないかって気がするんですね。ベルは冒険の果てに、それこそ内面が野獣化して城へ攻め入る村人たちの心をも解き放つわけです。そういう進歩的・現代的な女性像と同時に、ガストンが体現するマッチョ的な価値観の否定が顕著だったのも印象的でした。
 
あと、魔女のアガットが実はずっと村にいて観察し続けていたっていう設定も、客観的な視点がひとつできて、僕はすごく気に入りました。
 
他にもよくトピックとして挙げられるのが、LGBT的なキャラクターの導入ですね。潔いレベルの悪役、俺様野郎ガストンの腰ぎんちゃくル・フーがはっきりゲイとして登場しました。ただ、ここからがちょっとした不満の要素ですけど、ル・フウって、役名だから仕方ないけど、フランス語だと普通名詞で、イカれた男くらいの意味なんですよ。ベルが名前からして、ビューティーって意味なのを考えると忍びなくて、イカれた男=ゲイっていう図式になってるのが、進歩とは言え、素直にはうなずけないってのと、あと、18世紀のフランスに黒人の貴族がわんさかいるっていう設定も、わかるんだけど、目配せしすぎっていう感じもします。
 
さらに、「それを言っちゃあおしまいよ」ってことだけど、やっぱりアニメの躍動感に比べると、ちょっとなあとも正直思っちゃいました。
 
とはいえ、この古めかしい題材を実によくまとめていて、絵面も洗練されている一級の作品であることは間違いありません。手堅い娯楽作として、あなたも劇場で、止まらないロマンティックに酔いしれてください。


さ〜て、次回、5月5日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『ワイルド・スピード ICE BREAK』です。『T2 トレインスポッティング』『美女と野獣』と来て、「ワイスピ」。すごい流れになってます。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!