京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『ワイルド・スピード ICE BREAK』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年5月5日放送分
『ワイルド・スピード ICE BREAK』短評のDJ's カット版です。

f:id:djmasao:20170505155239j:plain

2000年の第1作『ワイルド・スピード』(原題:The Fast & The Furious)から始まった破天荒なカーアクション映画シリーズもこれで8作目。メインキャラのひとりブライアンを演じてきたポール・ウォーカーを前作「SKY MISSION」で失いながらも決してスピードを緩めることなく、いや、むしろさらにやり過ぎております。映画オリジナルのストーリーで、なおかつ興行収入も右肩上がり。B級も極めればA級になることを体現する稀有なシリーズです。

ワイルド・スピード SKY MISSION [DVD] 

愛するレティや仲間たちと固い絆で結ばれたファミリーを誰よりも大切にしてきたドムが、まさかの裏切り。極悪サイバーテロリストサイファーとタッグを組む。戸惑いを隠せないファミリーだったが、ドムを取り戻し、テロを防ぐため、アメリカ政府の秘密工作組織のトップであるミスター・ノーバディ、そしてファミリー最大の敵だったデッカードと力を合わせる。ドムはなぜ寝返ったのか? ファミリーと世界の命運やいかに。

ストレイト・アウタ・コンプトン (字幕版)  ミニミニ大作戦(字幕版)

ドム役のヴィン・ディーゼル他、ドウェイン・ジョンソンジェイソン・ステイサムのワイルド・マッスル・スキンヘッドが今回も大暴れしている他、シャーリーズ・セロン、そして意外な役柄でイギリスを代表する名女優ヘレン・ミレンが登場します。監督は、このシリーズ初となるF・ゲイリー・グレイ。ミュージックビデオ出身の監督として『ストレイト・アウタ・コンプトン』高く評価されましたが、実は僕の生まれた街イタリア・トリノを舞台にしたカーアクション映画『ミニミニ大作戦』のリメイクも手がけていました。
 
それでは、制限時間3分間。アクセルベタ踏みの映画短評。今週もいってみよう!

ポール・ウォーカーを「SKY MISSION」で文字通り失ってしまったので、どの段階でどの程度まで構想されていたのかはわかりませんが、今回から新たな三部作という位置づけで再始動ということがアナウンスされているってのを、もうオープニングのキューバのシーンから体現してくれます。PitbullのノリノリなHey Maをバックに、ラテンのイケイケなお姉ちゃんたちが水着以上に眩しいホットパンツを次々に見せつけるサービスシーンから、いきなりいとこの車を賭けたドムとキューバ人のカーレースが始まる。「レースで大事なのは、車の性能よりも、誰がハンドルを握るかだ」とか何とか言うんだけど、そこでドムはいきなりブライアン仕込みのテクを駆使するという憎い展開。このシリーズ、お話の規模がどんどん大きくなっているので忘れがちだけど、そもそもはドムとブライアン、そしてカーレースから始まってるわけで、原点を忘れないっていうあたりを開始10分くらいでいきなりフルスロットルで楽しませてくれるんです。
 
そこから、今回のストーリーの核となるドムの裏切りのきっかけが示されるんですが、ここ上手いなと思うのは、もちろんドムがそんな事するにはそれ相応の理由があるんだろうって誰もが思うわけじゃないですか。サイファーから「あるもの」をキューバの路上で見せられて、まんまと寝返るんだけど、その「あるもの」が何なのか、途中まで巧妙に伏せられているのみならず、これは終わってから振り返ってなるほどなと気づく部分なんだけど、このキューバパートでの些細な会話や人物がちゃんと後々思い出されるように伏線として機能させてあるんです。だから、僕らはファミリー以上に理由は知ってるけど、サイファーほどは知らないっていう、映画を楽しむには一番面白い情報量のまま先へ進んでいくんですよね。さらに言うと、この適切な情報の出し方のおかげで、裏切りのドラマがよりダイナミックかつエモーショナルに機能する。だって、途中であのドムが泣くからね! びっくりだよ。
 
こういうように、今回、僕は大味な映画に見えて、実は脚本の微調整が周到に施されてるんだと思っています。特にみんな主役級の濃いキャラクターたちの関係性には気を遣っているからこそ、メインから外れた枝葉のエピソードも生き生きとしてくる。
 
コミカルなシーンも多かったですね。なにしろ手数が多い! キャラ同士のキャッキャしたジョークの応酬。たとえば、ライバルであるホブスとデッカードがふたりで監獄で大暴れする場面なんて、筋肉バカがいがみ合いながら看守や罪人をなぎ倒していくんだけど、それぞれの特徴と関係性を逐一反映した丁寧な構図設定とカット割りで惚れ惚れしました。ホブスがゴム弾を胸筋で跳ね返すみたいな漫画なノリも、ここではOK! ホブスならできる!って思えるもの。
 
そして何より、もちろん、カーアクションですよ。今回も、そんなアホなの連発です。制作陣がツッコミ待ちしてるのが画面から伝わってくるよう。このシリーズ、いつも予告で見せ場を気持ちいいくらいネタバレしてるんだけど、どのシーンもアイデアがフレッシュで完全に振り切れてる、あるいは突き抜けてるから、分かってても「スゲー」「そんなアホな」って楽しめるんですよ。ある理由から氷の上で水上スキー状態になるところなんて、もう僕久しぶりに声を出して笑ってしまいました。最高です。
 
世界あちこちの景色。人種のミックス感。バカさ加減。もはや地球を救うレベルの規模感。騙し騙されのスパイものの魅力。これはもう、B級映画のテイストを残したままA級へとレーンチェンジした、アベンジャーズや007シリーズに匹敵する、エンタメ映画の最前線です。別に過去作観てなくてもいいから、ワイスピにあなたもライド・オンしてください。


さ〜て、次回、5月12日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『追憶』です。監督は降旗康男、カメラは木村大作。『鉄道員(ぽっぽや)』のコンビですね。高倉健の代わりに集った岡田准一小栗旬がどんな演技を見せてくれるのか。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!