京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『メアリと魔女の花』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年7月14日放送分
『メアリと魔女の花』短評のDJ's カット版です。

f:id:djmasao:20170714190749j:plain

田園にたたずむ赤い館村に引っ越してきた11歳の少女メアリ。かなりのうっかり者で、天然パーマの赤毛にそばかす。そんな自分の性格にも姿にも、コンプレックスを感じています。ある日、猫に連れられるようにして分け入った森の中で、7年に1度しか咲かない不思議な花「夜間飛行」を発見。それは、その昔魔女の国から盗み出された禁断の花。一夜限りの魔法を手に入れたメアリは、空の上にある魔法世界の最高学府エンドア大学へ誘われるのだが…

借りぐらしのアリエッティ [DVD] 思い出のマーニー [DVD]

監督は、スタジオジブリ出身の米林宏昌。『千と千尋の神隠し』や『崖の上のポニョ』などで原画を担当し、『借りぐらしのアリエッティ』で監督デビュー。『思い出のマーニー』では脚本も手がけて、アカデミー賞長編アニメーション映画賞にノミネートされましたが、ジブリはご存知のように制作部が解散。米林監督は、同じくジブリにいた西村義明プロデューサーと新たにスタジオポノックを設立。その記念すべき船出となるのが今作です。原作は、イギリスの女性作家メアリー・スチュアートが1971年に発表した『小さな魔法のほうき』。今回の映画化にあたり、KADOKAWAから『新訳 メアリと魔女の花』が出ています。

新訳 メアリと魔女の花 (角川文庫)

メアリを杉咲花(すぎさきはな)、村の男の子ピーターを神木隆之介が演じる他、天海祐希(ゆうき)、小日向文世大竹しのぶ、そして満島ひかりなど豪華キャストが声を担当しています。
 
それでは、10年に1度だから「魔女の花」以上にレアなサボテンの花を今週咲かせた僕マチャオが、制限時間3分間の短評を今週もスタート!

まず、この映画をジブリというか駿のパクリだと言っている人に僕は言いたい。おやめなさいと。日本人はすぐパクリだとレッテルを貼って貶すんだけど、百害あって一利なしです。創作活動を貧しくこそすれ、豊かには絶対にしませんから。そもそも、米林監督はジブリに長年いたわけで、そりゃ、モロに影響下にあるわけです。そんな人が、ラピュタっぽい場面、千と千尋っぽい、何より魔女の宅急便っぽいとか、百も承知に決まってるじゃないですか。その批判を覚悟の上で作ってるんだから、比較するのはいいけど、パクリだからダメだと一刀両断するのはもったいなさすぎます。
 
そんな前置きをしつつ、この映画は大きく分けてふたつの解釈ができると思います。まずは、駿もテーマにしてきた科学万能主義への批判です。具体的には、もう誰の目にも明らかですが、原子力です。メアリが迷い込む魔法の国では、魔法と科学の融合が研究されていて、倫理的に問題のある実験が行われていたりする。ま、魔法使いたちに倫理を問うていいものかどうかは別問題にしましょう。とにかく、メアリなど人間たちからすれば、受け入れがたいことが行われている。クライマックスでは、詳しくは言いませんが、はっきり311の原発事故を想起させる展開が用意されています。
 
メアリは「夜間飛行」を見つけることで、後天的に、一時的に魔女になります。エンドア大学へ行ってみると、先天的で変えられない、自分の嫌いな赤毛を羨望の眼差しで皆から見られ、「私にもいいとこあるじゃん」っていうか、短所は見方を変えれば長所であることを学ぶわけです。大事な成長ですね。ただ、逆に、魔法は彼女にもともと備わっている能力ではない。急にほうきで空を飛べるようになったけど、それは核物質の如き「夜間飛行」の力の賜物。褒められて調子に乗ったメアリは、そこからある嘘をつくことによって、魔法=世の中を自在に操ることができる(はずだと魔法使いたちがその応用を研究している)技術の研究開発を一気に進めさせることになってしまい、各キャラクターを巻き込んで大騒動へと発展するわけです。
 
つまり、ここで描かれるのは、魔法というものの危険性。科学の盲信と置き換えてもいい。探求すること、研究すること、知恵を結集して工夫することは人間のすばらしい能力だけれど、自分で制御できなくなるようなものを作り出し、そこに希望を見出すのはいかがなものかという警鐘ですね。取り返しのつかないことになるぞという。
 
このあたりが、真っ当でストレートな解釈でしょうが、もうひとつ、後半の展開や、ここで言えないのがもどかしいけど、あるキーとなるセリフを、アニメという魔法を操ってきたスタジオジブリからの米林監督の脱却宣言だと捉えた人もいるはずです。
 
ここまでは言っていいかな… 魔法を解く魔法というのが何度か出てきますが、ここで言う魔法は、呪いと置き換えてもいいでしょう。メアリがコンプレックスを乗り越え、自分のルーツを受け入れながら、自分で活路を見出していく様子に、監督がまったく自分を重ねなかったわけがない。その意味で、ジブリパクリと言われるような要素を敢えて入れたことも理解できます。頼もしいぜ、米林監督!
 
がしかし、1本の作品として、僕が手放しに褒めるかというと、そんなわきゃない!
 
脚本レベルでの僕が気づいた問題点をザッと挙げます。魔法の国のマダムとドクターが、かつて「夜間飛行」を発見した時に抱いたとされる野望と、それによってもたらされる危機がよく描けていないので、クライマックスの恐怖がいまいち伝わりきらない。エンドア大学のディテールは何となくわかるんだけど、魔法の国の全体像がさっぱりわからない。最後に、あの本! あれがあるなら、大学要らなくないですか? そして、メアリは独り言が多すぎる! 「マーニー」の時のアンナにも感じたことだけど、どうにも言葉が多すぎます。セリフを減らして、キャラの動きで感じさせてほしいところ。は〜、スッキリした。
 
その動きで足りなかったのは、意外に思われるかもしれないけど、スピード感でしょうか。絵そのものの話じゃなくて、キャラとカメラの動きなんです。かなり動いているのに、落下シーン以外でスピードを感じなかったということは、何か技術的にブラッシュアップの余地がある気がします。もっと、ロジカルなアクションの組み立て方をすると、生き生きとしてきて、それがシーンの躍動感、ひいては作品全体の躍動感につながるんじゃないでしょうか。トータルにのっぺり感じてしまう人がいるのは、きっとその辺が理由ではないかと僕はみています。

Suchmosは新レーベルにFirst Choice Last Stanceというかっこいいフレーズをあてましたが、米林監督のスタジオポノックの最初の選択も決して悪くないどころか、いい船出だと僕は思います。主題歌『RAIN』を引用するなら、「雨は草木を育てていくんだ」ということなんで、ポノックの映画制作にも豊かな実りがありますように。次作も楽しみにしています。


さ〜て、次回、7月21日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『カーズ/クロスロード』です。「あのマックイーンがベテランレーサーに」みたいなスポットがたくさん流れていますが、改めて言っておくと、擬人化した車の話なので、レーサーというよりはランナーなんじゃないか。そんなくだらないことを番組後に考えていた僕です。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!