京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『カーズ/クロスロード』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年7月21日放送分
『カーズ/クロスロード』短評のDJ's カット版です。

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レーサーとして抜群の戦績を誇るライトニング・マックイーンにも、陰りが見え始めていた。彼を文字通り追い抜いていったのは、最新のテクノロジーを駆使した若手ジャクソン・ストーム。そんな時、マックイーンは大きなクラッシュを起こします。引退がささやかれる中、彼はクルーズ・ラミレスという女性トレーナーをタッグを組み、再起をかけるのだが…
 
ディズニー・ピクサー、人気シリーズの3作目。これまで監督を務めたジョン・ラセターから、監督は若手のブライアン・フィーに世代交代しています。先週は『メアリと魔女の花』を扱って、宮﨑駿率いたスタジオ・ジブリからの米林宏昌監督の独立と船出について触れましたが、奇しくも、今作でも似たような制作背景があるばかりか、作品のテーマそのものが、世代間のバトンの受け渡しになっているわけです。
 
それでは、制限時間3分間の短評を今週もスタート!

カーズ2の主人公がレッカー車のメーターというスピンオフ的な位置づけだったので、今回は実質的には1の続編になってます。なので、これから観に行く方は1はおさらいしておいた方がより楽しめるでしょう。で、その1を振り返ると、もう既に今作につながるテーマがあったんですよね。若き天才だったマックイーンは、高速道路ができてすっかり寂れてしまったルート66にある田舎町の住人たちとの交流を通じて心持ちが変化する。時代の流れと、そこで忘れられている価値の見直し。モータースポーツらしい、チームワークや友情の大切さ。

カーズ (字幕版) カーズ2 (字幕版)

今回は若かったマックイーンが、もう王者になって久しい状況からスタート。リアルタイムで1から11年経ってますから、スポーツ選手の現役生活のスパンからいっても、モータースポーツの技術革新の面からいっても、とても現実的な設定で、なるほど、うまいです。今回も、やはりかつての価値の再評価が出てきて、場所は変えてあるけれど、独特のトレーニング方法も含め、ここも1を踏襲しています。
 
大きな違いは、今回相棒となるトレーナーのクルーズ・ラミレスが鍵となること。科学的で合理的なトレーニングを重んじるんだけれど、マックイーンと一緒にいるうちに、実はかつてレーサーを目指していたけれど諦めていたということが明らかになります。これまでは裏方としてスタジオに勤務していた今作の監督、ブライアン・フィーと重なります。ラミレスという名前からもわかりますが、ヒスパニック系の女性なんですよね。イタリア車のルイージなど、人種構成というか、車種構成というか、さすがはディズニー。「正しい」としか言いようがないです。
 
この作品、結構アッと声を出してしまうレベルのオチがありまして、それはさすがに言えないんだけど、要するに、傑出したデータ分析と技術力を誇る新世代に対抗してレーサーとしてサバイブできるのか、引退を先延ばしにしてまた黄金時代を作れるのかというサスペンスに対して、わりと驚きの着地をしてきます。そこは、はっきり意見が分かれます。僕はどう思っているかと言うと、世代交代というテーマに対して、それは「正しい」メッセージではあると思うけれど、映画としては首をひねらざるを得ないんです。
 
僕は観終わって、今回すごくモヤモヤしました。シーンごとに盛り上がるし、ちょっとセリフが多いけど、そりゃピクサーだけあって、作り込みは世界最高レベルです。CGアニメの、特に自然描写については、そして時には車のリアリティまで、これは実車じゃないのかと目を疑いたくなるレベルに達しています。さらに、ピクサーそのものの世代交代ともあいまって、流れそのものはいいんですよ。でも、何だかカタルシスを感じきれない。
 
近いテーマを持っていた『ローガン』とそこがはっきり違うんです。アメコミヒーローがその枠を揺さぶってまで表現していたのに対して、カーズ3は、むしろ、ピクサーの十八番である、物の擬人化とCGアニメの実写への接近を究めた結果、逆に魅力が損なわれてしまったような… 

【映画パンフレット】LOGAN ローガン 監督 ジェームズ・マンゴールド

先週、女神様からのお告げが下った時に、レーサーって普通に言ってるけど、これは人じゃなくて、人っぽい車の話だからねって、笑い混じりに喋りました。今回は観ていて、「この世界って、寿命とか、生と死の概念はどうなってるの?」って初めて思いましたからね。比喩というエンジンを噴かせすぎて、映画そのものがオーバーヒートしているんです。これはもう、脚本だけの問題ではなくて、アニメ論にも発展するトピックなので、それはまたどこか別の場所で。
 
とはいえ、そして、ともかく、高すぎる次元での話です、これは。特に大人はグッとくるはず。子供は子供でレース描写にハラハラするはず。これでおそらくもうチェッカーフラッグが振られたであろうカーズです。109シネマズでご覧ください。
 
☆ちょっとした追記
ルイージの声の吹き替えはジローラモさんでした。万が一、次があるようなら、僕もイタリア車に声優として乗り込ませてちょうだい!
 
・車のプロレスさながらのデモリション・ダービーのシーンがすごく好きです。日本では馴染みもないし。


さ〜て、次回、7月28日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『怪盗グルーのミニオン大脱走』です。僕は正直、ミニオンよりも「ひつじのショーン」派なんです。2年前の夏、前作はわりと厳しめに評しましたが、今回はどうでしょうねぇ。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!