京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『怪盗グルーのミニオン大脱走』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年7月28日放送分
『怪盗グルーのミニオン大脱走』短評のDJ's カット版です。

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ユニバーサル・スタジオとイルミネーション・スタジオがタッグを組む人気アニメ「怪盗グルー」シリーズ第3弾。このコーナーでは、2年前にスピンオフというか、シリーズ前日譚となる『ミニオンズ』を扱いました。街中で見かけるポスターを観ても、ミニオンばかり押してるんですけど、邦題にあるように、あくまでも主役は怪盗グルーです。ミニオン達はサブキャラです。
 
悪事から足を洗い、反悪党同盟に所属していたグルー。今作の悪役バルタザール・ブラットによる世界一のダイヤ強奪を阻止できなかったミスから、反悪党同盟を追い出されてしまいます。悪さをせずに家族と仲良く暮らすグルーに魅力を感じなくなったミニオンたちは、新たなボスを求めて旅に出ていったきり… そんな折、グルーにはドルーという双子の弟がいたことが判明。ブラットをとっちめようと力を合わせるのだが…
 
監督は、もとピクサーで、『ミニオンズ』でもメガホンを取ったカイル・バルダです。
 
それでは、制限時間3分間の短評を今週もスタート!

僕が『ミニオンズ』評を振り返ると、シーンひとつひとつはよくできていても、それが有機的につながった物語になっていない。あれは人間の言葉を話さないミニオンが主人公だったので、セリフに制約がある分、ストーリーテリングの難易度が相当高かったわけですけど、今回はあくまでも怪盗グルーシリーズですから、話は比較的まとめやすいはずです。ところが、今回も似た欠点を持っているように思います。個々のシーンの組み立ては、アニメならではの飛躍もあるし、同じイルミネーションの快作『SING/シング』ばりに音楽使いもハマってるし、見ていて愉快です。いわゆるスラップスティックなドタバタのノリも冴えてる。ディズニー・ピクサーより、笑いの種類が悪いから、大人もニンマリできる。でも、シーンとシーンの継ぎ目とか、どのシーンをどの順番でどれくらいの尺で組み立てるかという脚本全体の構成は、やっぱり強引です。
 
特に今回とある理由で逮捕までされてしまうミニオンたちのエピソードは、邦題ではメインだけど、たとえばあらすじを作るなら、もはや省けるレベルなんですよ。いや、あの部分の話は笑えるし、ミニオンたちの乗り物なんて、愉快だからもうちょっと観たいくらいだったんだけど、物語として必要なのかと問われると「さほど…」と言わざるをえないです。この感じ、何か最近味わったぞ… どの映画だろう… 『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』のジャック・スパロウだ! ストーリー的にはたいして必要ないレベルなんだけど、一応主役みたいな。ま、ミニオンは主役じゃないけどさ。
 
ただ、フォローしておくと、物語の意図はわかります。こうありたいという理想とそうなってはいない現実のギャップを埋めようとする物語。悪役のバルタザールが代表で、自分の輝いていた80年代からファッション、音楽、価値観がアップデートされないままでいて、現実はもう21世紀になってるのに、彼の中では時代が止まったまま。かつてテレビで子役スターだったのに、あっさりと見捨てられたという恨みが噴出する。つまり、こんなはずじゃなかったのに、世間はどうしてわからないんだという。
 
同様のことが、グルーと生き別れたドルーにも言えます。ドルーにしてみれば最高の悪党だった父の遺志を次ぎたいという理想を胸にいだいているけれど、あまりに鈍くさく、悪党としてのスキルがないため、現実はまったく理想に追いつかない。ミニオンたちは、理想の悪党を探しているから、今回は更生したグルーに愛想を尽かして旅の途中。そしてグルーの子供たちにも、同じく理想問題がありましたね。
 
このテーマで見ていくと、実はグルーだけが、その理想に近づいているから、どうにも映画全体のエネルギーが弱いんですよ。彼の理想は、少しずつ増えた家族と仲睦まじく暮らすことでしょ? ほとんど叶ってる。強いて言えば、正義のために働くと、今ひとつ活躍できないっていう。だからこそ、今回はグルーとドルーで、欠点を補い合って、とりあえず共通の敵であるバルタザールに向かう。こんな風に、一応、それぞれの葛藤が繋がったり交錯するようにしてはいるんだけど、肝心の主役グルーの理想への推進力が弱いので、話が転がりきらない。
 
って、このシリーズにそういうロジカルな展開を求めるのは野暮だって言われたらそれまでなんですけど、僕は気になりました。アニメならではの奇想天外な飛躍も、キャラクターの魅力も、ファレルを引き込んだりする音楽使いの上手さもトップクラスのイルミネーション・スタジオなんで、ここはひとつ、脚本をブラッシュアップできる人材を調達してから、とりあえずの続編『ミニオンズ2』に着手してほしいところです。そうすれば、さらなる高みへ一気に進めるし、僕はこういう悪ガキ心を呼び覚ます毒っ気のあるアニメが好きなんで、そんな最強イルミネーションの作品を観てみたい。『SING/シング』を超える代表作をミニオン絡みで観てみたいという理想を最後に表明しておきます。

さ〜て、次回、8月4日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』です。なんか、Twitterでの短い広告動画に出てくる、あのおびただしい数の鳥たち! ヒッチコックの『鳥』を思い出して怖いんですけど〜。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!