京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年10月20日放送分

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SF映画の金字塔、1968年の『猿の惑星』の前日譚として2011年にスタートした今回の3部作。『創世記(ジェネシス)』『新世紀(ライジング)』に続く完結編です。認知症の特効薬の実験中に発生した猿インフルエンザが蔓延し、人類が極端に少なくなった世界。高度な知能と言語を獲得した猿と人類の全面戦争が勃発。それから2年。猿のリーダーであるシーザーが率いる群れは、専守防衛に徹して森の奥深くで暮らしていました。ある夜、人間側の大佐の奇襲を受けて妻と息子を殺されたシーザーは、仲間たちを安全な場所へ移動させる一方、少数精鋭グループで、大佐への復讐の旅に出ます。道中、口のきけない人間の少女なども加わり、ついにシーザーは大佐の本拠である要塞にたどりつく…
監督は、前作に続いてマット・リーヴス。『クローバーフィールド/HAKAISHA』の監督ですね。CGは猿の毛並みまで含め、この3部作においても進化をしていますが、その動きはモーションキャプチャーがさらに微細な筋肉の動きにまで対応したパフォーマンスキャプチャーで人が演じています。シーザーを演じるのは、パフォーマンスキャプチャー界の巨人アンディ・サーキス。演技でのアカデミーを獲る可能性もあると噂されているし、僕はそうなると良いなと思ってるくらい。
 
ちなみに、Ciao! MUSICAでは、3年前の9月に前作を扱っていて、僕は「脚本の教科書に採用したいくらいによくできてる、今年屈指の作品だ」と評していましたが、今回はどうか。
 
それでは、3分間の映画短評、今週もいってみよう!

前作の『ライジング』は、戦争発生のメカニズムを確かな説得力で描いてみせていましたが、今回はその戦いがどう収束して、あの『猿の惑星』へとゆるくでも繋がるのか。ストーリーの燃料は復讐です。大きな戦闘というより、小競り合いがもうずっと続いている状態。すると今度は復讐、報復という概念が登場するわけです。
 
これまで、Think before you act. 「行動する前に考えろ」と発言していたシーザーですが、妻子を殺され、今度ばかりは冷静さを保ちきれません。かつて猿同士の内戦の引き金を引いてしまったコバのことを、うなされるように思い出しながら出した結論は、リーダーとしての自分と個人としてのシーザーを切り分けること。仲間の安全を確保しつつ、単独で敵討ちに出かけようとしますが、仲間は放っておかない。旅が始まると、ひょんなことから人間の少女を助けますね。彼女の存在がこの復讐の物語の鍵でした。猿たちに溶け込み、口はきけないけれど、猿語の手話を体得する少女。やがてはお話のゴール、つまり復讐対象の大佐とシーザーの戦いに期せずして関わっていきます。
 
復讐がストーリーの燃料なら、テーマは共生じゃないでしょうか。大佐は猿を排除しなければ人間の未来はないと思ってる。さらに、ある種の人間も排除しないとダメだと決め込んで要塞を築いている。猿と人間双方を敵に回して排除を企み、一部の純粋な人間だけで生き残ろうとした結果、皮肉にも人間らしさを失っている。猿たちの強制労働の場面もありましたけど、明らかにファシズムでしたね。他方、シーザーたち猿には種類としても色んなのがいるし、助け合っていて、人間の少女まで匿う。最終的にどちらが生き残ることができるのか。それはこの3部作が前日譚なので、もう結論は出てますね。「猿の惑星」が誕生するわけです。ただ、最後のあの出来事にはご都合主義を感じる向きもあるかもしれませんが、僕はこう捉えました。文明を軽く凌駕する自然の脅威というものがあるのだと。
 
豊かな映像運びにも触れておきましょう。前回に続き、スタートから本題に入るまでの手際が良かったなぁ。あの熱帯雨林での人間と猿のゲリラ戦パート。泥沼化したベトナム戦争を描いた『地獄の黙示録』を連想する人は多いはず。そう言えば、大佐の存在も『地獄の黙示録』のカーツを彷彿とさせました。復讐の旅に出ていくところは、仲間が増えていくRPGのような冒険でしたが、映画ジャンルで言えば西部劇です。途中、『アナと雪の女王』でエルサが閉じこもってる雪の城みたいなとこが出てきたのはとりあえず脇へ置くとして、あのバッド・エイプと合流してから、今度は薄くコミカルな味付けの脱出劇になっていきますが、あれはどうしたって『大脱走』でしょう。そして、あの檻の中での一連のシーンは、磔描写もあったように、これまた何度も映画化されているキリストの物語を思い出してしまいます。邦題は聖戦記でしたよね。聖書からの引用もありつつ、だんだん宗教性を帯びていくんですよね。このように、既存の映画を下敷きにしているからこそ実現した豊かな映画作品だと言えます。

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三部作を貫いているのは、恐怖にかられて視野の狭くなった人間の愚かさが生む戦いの悲劇でした。恐怖を利用して権力を握った者が何をしでかすか。ひとたび戦争が始まれば復讐の連鎖も始まるのだということなど、SFでだからこそ成立する現実との程よい距離感で諭してくれるリブートでした。
 
でも、あの68年の名作の舞台となる時代まで、この前日譚から2000年が経過する計算です。その間、地球に何があるかはわかりませんが、人間と猿がもしかすると共生できるかもしれないという希望の予感はありましたね。三部作のシメとして、悲しみを希望の光が包むすばらしい形だったと思います。
 
Think before you act. あさっての選挙もそうですね。行動する前に考えろ。有権者も政治家もそうです。

さ〜て、次回、10月27日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『アトミック・ブロンド』です。シャーリーズ・セロンの新たな代表作となるか。僕好物のスパイ物ということで、かなり楽しみにしております。あなたも #ciao802を付けてのTweetをよろしく!