京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

映画『火花』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年12月1日放送分
映画『火花』短評のDJ's カット版です。

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中学時代の同級生とスパークスというコンビで漫才をしている徳永。芽が出ずにくすぶっていたところ、営業先の熱海の花火大会で中堅の先輩芸人、神谷と出会います。「あほんだら」というコンビでぶっ飛んだ笑いを追求する神谷のスタイルに惚れた徳永は、その夜に弟子入りを志願。「俺の伝記を作ってくれるなら」という条件を受け入れた徳永と神谷の、コンビもキャリアも超えた芸人同士の熱い友情関係が始まります。漫才を愛し、漫才にすべてを捧げるふたりの、10年にわたる交流の変遷を描く青春絵巻です。
 
原作は、言わずと知れた又吉直樹芥川賞受賞作。昨年、Netflixオリジナルドラマ全10話が配信スタートして、こちらにはCiao! MUSICAお馴染みの白石和彌監督も関わっているんですが、それに続いて、今度は板尾創路監督のメガホンによって劇場映画化。徳永を菅田将暉。神谷を桐谷健太が演じる他、徳永の相方に2丁拳銃の川谷修士、神谷の同棲相手に木村文乃が扮しています。
 
それでは、中学時代に漫才コンビを結成して、修学旅行先の箱根の旅館の楽屋で緊張に打ち震えていた僕がどう観たのか。3分間の映画短評、今週もいってみよう!

 板尾監督がビッグバジェット作品で初メガホンということで、どんな映像から始まるのか、それがまず気がかりだったんですが、いきなり僕は心掴まれました。黒い画面を2つの花火が上っていく。そこに、スパークスのふたり、徳永と山下がかつて交わした言葉だけが重ねられる。これは原作にない場面のようですが、とても映画的な叙情があってすばらしいなと感心しました。漫才師として一花咲かせたいふたりの夢を、これだけで想起させてくれるわけです。だけど、花火は不発に終わるかもしれない。うまく弾けたとしても、それはもっと大きな花火にかき消されるかもしれない。それでも、ふたりは闇に向かって自分たちを燃やして光を放った。タイトルでもある火花というメタファーを、簡単に実物を見せられてしまう映画で見事に表現するオープニングでした。これはお笑いという特殊な世界をモチーフにしてはいるけれど、エッセンスとしては、人生を何かに捧げる、夢中で何かを追い求めて生きる若者の葛藤と挫折を描いた、普遍的な青春物語なわけで、その切なさの予感をのっけからさりげなく映画的に提示してみせる板尾監督の手腕には目を見張るものがありました。

 

 小説と違って、そのまんまを生き生きと見せられるという映像の特性を、この物語で最大限に発揮できるのは、もちろん漫才のシーンです。だから、そこはたっぷり見せる。監督も漫才師なわけだし。原作以上にキャラクターを膨らませた徳永の相方山下に、2丁拳銃の修士さんというプロを配役した意図もそこにあるはずです。この映画で誰もが固唾を呑んでしまうのが、クライマックスで披露される「思ってることと逆のことを言う漫才」です。字面でしか表現できない小説を映画なら超えられると踏んだからこその名シーンでした。

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 でも、僕が本当に感動したのは、その後です。挫折した徳永と神谷が、10年前にふたりの出会った熱海に戻り、例の居酒屋で話し込むところ。漫才はひとりで作ってるんじゃない。まずふたり以上いないとできない。売れる売れないという淘汰はあるけれど、売れた奴らも、売れなかった奴らのがんばりがあったからこそ輝けるわけで、そう考えれば、テレビに出られなかった奴らだって絶対に無駄じゃないんだという趣旨の会話が繰り広げられる。これって、音楽にも、僕らラジオパーソナリティーにも、いや、どんな人にも当てはまる人間への肯定じゃないですか。10年経って、ふたりがその境地に辿り着くことに僕は涙しました。そう。「生きている限り、人生にバッドエンドはない」という強いメッセージです。冒頭で徳永と山下が闇夜に花火を打ち上げたことは無駄じゃなかったんです。

 

 シーンによってはソフトフォーカスがトゥー・マッチだとか、伝記の件がうやむややなとか、話運びのリズムがうまくいっていないところがあるんじゃないかとか、評をまとめる前は色々と茶々を入れようと考えてたんですが、思い返した時に浮かんでくる今挙げたシーンたちのほとばしりが強すぎて、結局のところ心を揺さぶられている自分に気がついたしだいです。本来なら評論としてはもっと冷静であるべきですが、僕はこの作品を劇場で観たことにまだ興奮しているのが現状です。

 

 特に神谷に対してだと思いますが、「感情移入しづらい」との声が出るのもわかります。ただ、僕はあの「お前、それダメだろ」って行動に対して、倫理観を振りかざす前に、人間臭さを感じて憎めないままなんです。

 いずれにしても、物語そのものに惹かれました。原作にも、そしてタイムスパンがまったく違うNetflixのドラマにも触れたい。また個人的に比較しながら、こいつらにまた会いたい! そう思いましたね。


さ〜て、次回、12月8日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『探偵はBARにいる3』です。僕がかなり好きなシリーズ最新作来た! 大泉洋さん、そして松田龍平さんとは、先日の大阪キャンペーンでご一緒したので思い入れもあるのですが、つとめて冷静な眼で改めて鑑賞してきます。観たら、あなたも #ciao802を付けてのTweetをよろしく!

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