京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『カンフー・ヨガ』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2018年1月5日放送分
『カンフー・ヨガ』短評のDJ's カット版です。

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ジャッキー・チェンが製作総指揮と主演を務め、『ポリス・ストーリー3』などジャッキーとこれまでもタッグを組んできたスタンリー・トンが監督するアクション・アドベンチャーです。
 
主人公のジャックは中国を代表する考古学者。彼は、同じく考古学者でヨガの達人でもあるインド美女のアスミタから、1000年前のインドと中国の間で起きた混乱の最中で失われてしまった財宝探しをもちかけられます。ふたりは仲間たちと一緒に旅を始め、中国、インド、ドバイ、アイスランドと世界を巡っていくことになります。
 
中国とインドの合作ということで、当然ながらインドの人気俳優であるソーヌー・スードも出演。ちょうど1年前に中国でまず封切られて、その後インドなどアジア各地、そして欧米にも公開が広がり、ジャッキー・チェン主演映画としては過去最高の興行収入を叩き出しています。
 
それでは、3分間の映画短評、精神統一して今週もいってみよう!

もともとサービス精神旺盛なジャッキーですが、「観客が喜びそうなものを全部入れてしまおう」という発想で、ただひたすら足し算をして作られた作品です。
 
タイトルからそうじゃないですか。カンフー+ヨガ。それから、人気グループEXOのメンバーもキャストに加える美男美女も足してます。男女問わず、インド人も中国人も、めっちゃきれいです。ここまできれいな人ばかり出る映画も久しぶりですね。演技力より、圧倒的な美しさ。そんなキャスティング。モチのロンで、軽〜いラブコメテイストも足しときます。

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足し算要素を、僕も足し算形式でどんどん挙げていきますよ。千年前の中国唐とインド天竺の壮大な戦闘シーンも足した〜。象とか出てきて盛り上がるでしょ? そこに、みんな大好きなゲームっぽいCGを足した〜。
 
カーチェイスももちろん足した〜。ドバイの王室が高級車とかバンバン提供してくれたんで、どんどん画面に出した〜。あと、猛獣が出てきたらさらに盛り上がるだろってことで、とりあえずライオンもジャッキーの車に乗せといた〜。動物もどんどん足していくよ。コブラにハイエナに狼。高い壁に囲まれたハイエナだらけの場所から脱出するぞ。狼が来たら、組手を見せつけて「俺たち強いんだぞ」とアピールして撃退するぞ。
 
インド映画おなじみの大人数のダンスシーンも、足さないわけがない。せっかくだから、きんきら☆きんの宮殿で踊っとこう。
 
と、まだまだあるけど、もう割愛! 映画は大衆娯楽なんだから、お客さんが好きそうなものをどんどん出してフルコース、いや、ここは中国なんだから満漢全席でもてなそうというスピリットは間違ってないんですよ。ただ、観ていてさすがに気になってきたのは、足し算の繰り返しでしかないことです。多くの観客が望んでいたのは、掛け算じゃないのかと。少なくとも僕は、カンフーとヨガを掛け合わせたものが見たかった。ジャッキーはほぼヨガしないですからね。
 
ジャッキーは元気そうだし、63歳という年齢を考えたらありえないアクションを見せてはくれます。それだけでもいいじゃないかという声を僕は否定しません。明らかに設定もインディー・ジョーンズだし、ジャッキーが「インディー・ジョーンズみたい!」って劇中で興奮して自分で言うくらいなんで、パロディーなわけです。全体的に肩の力を抜いた演出にしてあるのもわかる。そこに脚本の整合性がどうだとかツッコミを入れるのがヤボだって気持ちは僕もわかる。
 
しかし、ここまで勢いだけで撮られた映画を久しぶりに観たもんで、呆気にとられているのも事実なわけです。しかも、僕にとってのジャッキー・チェン前作が、このコーナーで評した佳作『ポリス・ストーリー/レジェンド』だっただけに余計にですよ。
ポリス・ストーリー /レジェンド(字幕版)
もっと面白くする方法はいくらでもあったと僕は思います。スタンリー・トン監督とのタッグは、まだジャッキーが若くて動きがキレキレの時だったら、成立してたんですけど、今はもう違いますよね。『ポリス・ストーリー/レジェンド』はそのあたりを踏まえて映画ができあがってました。スタンリー・トンは脚本がうまい人ではないし、少なくともひとりで書かせるんじゃなくて、共同脚本を誰か付けるべきですよ。ジャッキーのアクションシーンさえあればそれで良しとはならないからこそ、知恵を絞らないと。これまでと同じようなノリのままやってるから、安易にCGを乱用してしまうようなことになる。
 
ライオンと一緒のカーチェイスにいたっては、もうクラクラ来ましたね。なんでこんな事になってるんだと… 見せ場のための見せ場ばかりが続く上、とにかく足し算方式でできあがってるので、シーンとシーンの糊付けは甘々なんです。あちこちで剥がれかかってる。どうせなら、もっとしっかり作りましょうよ。こちらは素直に笑いたいのであって、苦笑いはしたくないんです。だって、エンドロールの途中でサントラが終わってしまって、最後の1分くらい、無音でクレジットが流れるんですよ? いつの時代やねん! 合わせようよ、そこは。
 
ジャッキー・チェン作品には思い入れのある方も多いです。僕も何本か忘れがたいものがある。だからこそ、60代のジャッキーはもっと丁寧に映画作りをしてほしいと強く願います。

さ〜て、次回、1月12日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『キングスマン:ゴールデン・サークル』です。やった〜! 前作をこのコーナーで扱えずにヤキモキしていただけに、スパイ映画好きの僕だけに、テンション最高潮です。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!