京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『レディ・プレイヤー1』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2018年4月26日放送分
『レディ・プレイヤー1』短評のDJ's カット版です。

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2045年。貧富の差が拡大し、荒廃した世界。人々は現実に楽しみや希望を見いだせず、VRの世界OASISに逃避する日々。なぜなら、OASISはゴーグルをつけさえすれば、誰でも何にでもなれるから。そこでは理想がリアルに体験できるから。ある日、亡くなった開発者ジェームズ・ハリデーの遺言のようなメッセージが発信されます。このOASISに隠された3つの謎を解き明かした者に、彼の莫大な遺産、並びにOASISを運営する権利が授けられるというもの。17歳の孤児ウェイドはその謎解き、宝探しに躍起となるうち、美女アルテミスなど他の仲間と出会うのだが、巨大企業IOIがその行く手を阻みます。
 
2011年に出版され、エイティーズ・ポップカルチャーへの賛辞を前面に出して世界的ヒットとなったアーネスト・クラインの小説『ゲームウォーズ』を、スティーブン・スピルバーグ監督が映画化。アニメ、ゲーム、映画、音楽。OASISの中にこれでもかと詰め込まれたオマージュの数々には、ガンダムメカゴジラAKIRAストリートファイターハローキティなどなど、日本のものもたくさんあります。
 
スピルバーグ、現在71歳。日本では『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』が先月公開されたばかり。スピルバーグ最新作をハシゴできてしまうこの状況にまず驚きです。
 
それでは、なんとなくゴーグルみたいなのを付けて観たいと思い、3D吹き替えで鑑賞してきた僕による3分の映画短評、今週もそろそろいってみよう!

80年代に百花繚乱したポップカルチャーの数々。諸説ありますが、70年代から日本ではオタクという言葉が生まれ、現実にうまく適応できない人達が、一種の逃げ場として、シェルターとして、フィクションの世界に耽溺するという現象が見受けられるようになりました。二次創作など、独自の文化とコミュニティを生み出してきたオタクたちですが、インターネットが登場してますますその数を増やし、それぞれにコミュニティを形成。果てはクール・ジャパンなどという政府の掛け声も生み出すほど、オタクの地位向上というか、ネガティブなイメージで語られることも減りながら現在に至ります。
 
こうしたポップカルチャーはテクノロジーの進化と切り離せないもの。僕も先月オースティンのSXSWで確認しましたが、もうVRはすごいことになってました。たとえば、イライラしている人がゴーグルをして仮想世界に入り、そこにあるテレビとかパソコンとか電化製品を壊しまくってスカッとするアトラクションとかあったんですよ。いくら見本市とはいえ、傍から見ていた僕は正直その姿に吹き出してしまいました。と同時に、近い将来、時間があればVRの中へ入り込む人が大勢出てくるんだろうなと思ったわけです。もちろん、100年を越える歴史を持つ映画だってそういう装置には違いないんだけど、ゴーグルひとつで文字通りの別世界へ飛んでいけるとなると、発想は延長線上にあるとはいえ、一線どころか二線か三線越えてるのではなかろうか。

未知との遭遇 ファイナル・カット版 (字幕版)

前置きが長くなりました。これは映画作家スピルバーグのひとつの到達点だと僕はみています。初期の名作『未知との遭遇』で主人公が最後に何をしたかを思い出してください。多くのスピルバーグ作品の主人公にとって、現実の世界というのはキツいものであって、自分のいるべき場所ではなかった。ここではないどこかに自分が幸福になる場所があるはずなんだ。フィルモグラフィーの節目節目で、映画史に残る技術革新を形にしながら、テーマとしてはそういう映画を撮ってきた人です。この『レディ・プレイヤー1』は、自分が一気に世界に名を轟かせた80年代を、自分の作品も含めて総ざらいしつつ、最高だよね〜アガるよね〜と観客をもてなすだけじゃないんです。むしろ、ちょっと待てよ。俺たちはフィクションを見て「リアルだ」とか何とか言ってるけど、現実をなおざりにしていいのかよっていうところへと導いていく。そこがこれまでのスピルバーグと違うところじゃないでしょうか。

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冒頭のシーン。ヴァン・ヘイレンのJumpをかけながら、2045年の貧民街の様子を見せていきます。積み上げられたトレーラーハウス。高いところに住んでいる主人公ウェイドが、まさにジャンプを繰り返して地上に下りていく。その途中、そこらのトレーラーハウスには、ゴーグルを付けて現実逃避している人々のなかなか滑稽な様子が映る。ここでもうスピルバーグはテーマを早くも提示してると思うんです。ヴァン・ヘイレンのあっけらかんとしたアガるサウンドにも関わらず、現実のウェイドのジャンプは後に出てくるOASISの中のように華麗なるものではないし、何より空もそのスラムもすべてが灰色。このギャップですよね。
 
スピルバーグは正面切ってCG技術の粋を尽くしながらOASISを描きました。自分でもゴーグルを装着して演出したそうです。一方、現実の場面ではフィルムを使って撮影。ハイブリッドな映画作りをしています。
 
この作品を「プロフェッショナルな廃品回収リサイクルボックス」だとするアメリカの評論家がいます。マニアックで閉じられていて、二次創作の延長にすぎないということでしょう。

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僕は違うと思う。一匹狼だった主人公が友情を育んで力を合わせ、敵と戦い、謎解きをして成長するという、少年ジャンプ的でもある極めて王道のストーリーラインを軸に、何度観ても発見がありそうなサブリミナルレベルのものまでぶち込んだサブカルまとめ情報を巧みに入れつつ、でもそれだけじゃダメなんだ。フィクションは絶対に人間に必要だけれど、フィクションを絶対視してはいけないんだというところに着地してみせた。
 
OASISの創設者であり、OASISの中ではアノラックとして『ホビット』のガンダルフの姿で登場するジェームズ・ハリデーは、スピルバーグの自己投影でしょう。これは技術的に画期的かつ個人的な作品であり、映画史にも太字で刻まれるような重要な1本になっている。結論として、やっぱりスピルバーグは凄い!

サントラも話題となっていますね。僕はこの曲がかかるところで結構グッと来ました。

 

あ、そうそう、今回僕は吹き替えで鑑賞したんですが、クレジットに日髙のり子と三ツ矢雄二の名前を発見! こ、こ、これは… 『タッチ』やないか〜〜! あだち充ファンとして、ニヤリな瞬間でしたよ。

さ〜て、次回、5月3日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『君の名前で僕を呼んで』です。80年代の北イタリアが舞台。監督はイタリア人のルカ・グァダニーノ泣く子も黙るアカデミー脚色賞受賞作。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けてのTweetをよろしく!