京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『ワンダー 君は太陽』短評

 FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2018年6月21日放送分
『ワンダー 君は太陽』短評のDJ's カット版です。

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スター・ウォーズ』が大好きで、将来の夢は宇宙飛行士。得意教科は理科。そんな10歳の男の子、オギーことオーガスト。どこにでもいそうな子どもだけれど、実はトリーチャー・コリンズ症候群を抱えていました。これは遺伝子の疾患によって、普通の人とは違う顔で生まれてくるというもの。オギーは、27回もの整形手術を経験しながら、ずっと自宅学習をしてきました。そんなオギーは、両親の決断によって、みんなと同じ学校へ通い始めます。これは、オギーの葛藤と成長、そして彼を取り囲む家族や友達との関係の変化を描いていきます。
監督は、スティーブン・チョボスキー、48歳。正直、あまり名前は日本では通ってないんですが、彼は作家、脚本家、映画監督と3つの仕事を横断しながら活動しています。YA、ヤングアダルト小説に分類される自分の小説を自分で脚本にしてメガホンも取ったのが、代表作『ウォールフラワー』。エマ・ワトソンが出てた青春映画で、サントラもすばらしかった。それから、脚本家としての代表作は、昨年公開の実写版『美女と野獣』ですね。
 
今回はアメリカの女性作家R.J.パラシオの原作小説をチョボスキーが脚本にして演出しました。オギーを演じるのは『ルーム』の演技もすばらしかったジェイコブ・トレンブレイくん。そのお母さんを、ジュリア・ロバーツが演じています。
 
それでは、3分間の映画短評、今週もそろそろいってみよう!

「難病もの」と呼ばれるジャンルがあって、そういう作品が「泣ける」と評判になることも多いですね。この「泣ける」っていう枕詞で注意したいのは、いわゆる「感動ポルノ」と批判される「お涙ちょうだい」演出に基づいた作品が混じってくるからです。なぜ批判されるかって、それは、映画だって芸術と言えど商売でもあるわけで、要は病気や障害を表面的に利用して金儲けするなよってこと。確かに、安っぽい感動を押し売りするものも結構あって、それに辟易した結果、「難病もの」を避ける人もいます。あと、単純に観ていて辛そうだからヤダ、みたいなね。
 
僕はこの『ワンダー』は、そうした批判には当たらない爽やかな映画だと思う。「君は太陽」という邦題の副題に僕は実は当初警戒したんです。君は眩しい存在だよ、みたいなね。子どもや障がい者を変に美化してしまうケースもありますから。見てみると、違いました。これは太陽系の比喩なんですね。太陽の周りには、色んな惑星があって、互いに影響を与え合いながら存在している。それを、オギーとその周囲の人間関係になぞらえたセリフから取ってるんです。確かにオギーは確固たる主人公ではあるけれど、実は母、姉、友達など、それぞれの名前を付けたチャプターに映画がゆるく分かれて進行していきます。意外にも群像劇だったわけなんです。だから、オギーに対してその周囲がどんなことを考えているのか、そして彼らにも彼らの人生、悩みが当たり前にあるってことが描かれる。
 
高校に入った姉は、幼馴染の大親友の女の子が高校デビューして急に口をきいてくれなくなって戸惑っていたり、母はオギーが生まれて以来、自分の修士論文を棚上げし続けていたり。オギーを中心に据えたこの物語は、あちこちで軋轢が生まれながらも、彼らがそれぞれにそのトラブルを想像力と工夫、そしてちょっとした勇気と優しさで乗り越えていく様子を見せるうち、オギーがそれこそ太陽のように人々の心を温めてるんだと教えてくれます。チャプター分けしてあることで、ひとつの出来事を別のアングルから見直すという映画的な語り口になるのも良かったです。
 
こうした構造なので、オギーの心理を深く拾いきれていないというのは、その通りです。でも、監督の狙いはそこじゃない。あくまで、オギーのような人物がいる場と人間関係、その磁場のようなものを捉えることで、人間というのは、「近寄ってみればみんなどこかおかしい」んだと相対化してくれているんです。見た目の違いは、そりゃ大きいけど、それだけが全てじゃないってことですね。オギーみたいな障害を持つ人を、英語でフェイシャル・ディファレンスと呼ぶそうですが、レベルは違えど、僕も80年代の日本で過ごした小学生時代、似たような想いとか悩みはありました。オギーは宇宙服のヘルメットをかぶってたけど、僕は阪神帽を目深にかぶってた。そういう目に付きやすい「しるし」でなくとも、多かれ少なかれ、みんな何かのディファレンスがあるわけです。でも、うまくやれば、だんだん一緒になって豊かな人間関係を育むこともできるって教えてくれています。
 
もちろん、本当はね、ここで描かれていないような苦労とか経済的な問題とか、トリーチャー・コリンズ症候群当事者にはあるはずです。そこに冷徹に焦点を当てる、たとえばドキュメンタリーだってあるべきです。だけど、この映画はもっと大きな視点で、僕たちが周囲に対して、be kind、親切に、やさしくあろうよ、そしてユーモアを大切にしようっていうことを訴えることを目標にしているから、これはひとつの入門として十二分に意義ある素敵な作品です。

さ〜て、次回、6月28日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『空飛ぶタイヤ』です。DEAN FUJIOKAさんが、折しも来週火曜日に番組出演。なんだけど、いつものように、あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての忌憚なき感想Tweetをよろしく!