京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2018年9月6日放送分
映画『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』短評のDJ's カット版です。

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ギリシャエーゲ海に浮かぶカロカイリ島。シングルマザーであるドナの娘ソフィが、自分の結婚式を前に父親探しを行おうと、可能性のあるドナの元彼3人を島に呼び寄せたことで巻き起こる騒動を描いたのが、2008年に完成した前作でした。スウェーデンの男女混合4人組ポップ・グループABBAのヒット曲で彩られたブロードウェイ・ミュージカルを映画化したもの。
 
今回は映画版オリジナルの10年ぶりとなる続編です。監督は交代しまして、脚本家でもあるオル・パーカー。『マリーゴールド・ホテル』シリーズとか『17歳のエンディングノート』を手がけた人物です。そして、僕がキーパーソンだろうと思っているのは、原案と製作総指揮のリチャード・カーティスです。『ラブ・アクチュアリー』とか『アバウト・タイム』とか、群像劇や過去の描き方が得意で、何より音楽のセンスがある人ですからね。

マリーゴールド・ホテルで会いましょう (字幕版) アバウト・タイム ?愛おしい時間について? (字幕版)

 物語は、前作からどうやら数年後の模様。母ドナとの念願だったホテルのリニューアルを終えて、支配人とオープニング・パーティーの準備に奔走するソフィ。「3人の父親」やドナの親友たちなど、招待状を次々と発送。一方、ホテルビジネスを学ぶためにニューヨークで暮らしている夫のスカイは、むしろNYで一緒に暮らさないかと提案され、ふたりの人生設計は一致しません。そこへ、ソフィの妊娠が発覚。そんな中、カロカイリ島を嵐が襲い、島もホテルもあちこちに被害を受けてしまいます。パーティーは無事に開催されるのか。ソフィは母ドナが自分を身ごもった頃に思いを馳せます。

 
ソフィ役のアマンダ・セイフライド、ドナ役のメリル・ストリープ、さらには3人の父親を演じるピアース・ブロスナンコリン・ファースステラン・スカルスガルドなど、前作キャストは続投。そこに、若きドナ役としてリリー・ジェームズが加わった他、シェールやアンディ・ガルシアなどの大御所も登場するなど、新旧のキャストが大所帯でわいわいやっております(それにしても、ジェームズ・ボンドキングスマンが混じってるってのが豪華すぎ。そして、ドナはスパイ好き?)。
 
それでは、ミュージカル好きからは程遠く、ABBAへの思い入れも平均以下で、前作の公開時は迷うことなくスルーしていた僕がどう観たのか。ちゃんと前作も観てから劇場へ向かいました。制限時間3分の映画短評、今週もそろそろいってみよう!

はっきり言っちゃいますけど、前作の方は終始半笑いで観ました。ドタバタというか話はガタガタだし、過剰なテンションとちょいちょい入るブリティッシュな下ネタにも乗れず、歌唱パートも物語と噛み合っているのやら何やらよくわからず、画作りも編集もとにかく強引。ここまで来ると、何か実験映画でも観ているのではないかという印象でした。ただ、もちろん、そもそもの曲の良さと、無邪気にはしゃぐ大人たちを見ていると、「まあ、いいじゃん」と思えてしまう不思議もあった。
 
そこから考えると、今作は飛躍的に映画としての完成度は上がり、わかりやすくおもしろくなり、より広い世代の心をくすぐる1本になっています。正直びっくりしました。前作終始半笑いだった僕が、まさか落涙するとは!  しっかり感動させられたし、笑わせられた。
 
まず物語としてよくできてるんですよ。ここはやはりリチャード・カーティス参加の成果でしょう。過去と現在を並行させることで、若者たちの葛藤と成長、親になることの不安と感激は、世代や環境が巡っても変わらないんだなってことを悟らせる。あの頃があって今の私がいるってことを確認して受け止め、仲間たちと共有し、その感慨を胸に未来に希望を持つことがどれほど人を幸せにするのか。若気の至りも含めて、若いってことのすばらしさと、歳を重ねることの喜びをどちらもうまく盛り込んでいます。
 
お話の段取りとしても、パーティーで集合できるのか、子どもが生まれるけれど夫婦関係の行方は?っていう現在パートにピークが予め配置された上で、過去パートでは「ドナさん、あんたモテモテやったんやなぁ」っていう、あの3人とのロマンスがしっかり出てくる楽しさも挟んでいって、最後にはすべて揃って大団円としっかりまとまってます。
 
しかも、あらすじでは僕が伏せた、ある驚愕の事実が開始早々判明するんだけど、もう「それはズルいよ」ってくらいにその事実が映画全体を引き締める出汁として機能するから、まんまと落涙させられるんです。もう最後にあの人が登場するくだりなんて、タメにタメただけに演出の効果てきめんでした。
 
ただね、前作が好きだったという人ほど、納得はいかないかもしれないです。だって、前作との整合性なんてどこ吹く風ですからね。特にドナが関係を持った男3人の設定なんて、ほぼ前作無視なんだけど、僕に言わせれば、どうでもいいです。あれは手の施しようがないレベルでガタガタで行き当たりばったりだったから。
 
そう言えば、3人のひとりハリーの現在のパートで、東京で会議をしてるっていうズッコケ日本演出の場面があるんだけど、会議室の壁にかかってる書道になぜか「整合性」って書いてあったのはセルフツッコミなのかっていうくらいに、整合性はないけど、とにかくそこは無視してください。

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こうした物語的なできの良さ以上に僕の気に入ったのは、過去と未来のシーンの入れ替え方です。ドナとソフィが取る同じアクションをきっかけにパッとタイムスリップしたりっていうのが、いちいち気が利いてるんですね。そして、肝心のミュージカルパートも映像的な工夫がいっぱい。大学の卒業式、レストラン、船着き場などなど、前作みたいにただただ歌って踊るだけじゃなくて、ちゃんとその場所の特性と物語的な流れを活かした内容、振り付け、カット割りになっているので、映画的醍醐味が格段に増しています。
 
まあ、一応言っておくと、嵐のシーンをだけはそうした工夫がまったくなくて、僕の目は死んでましたけどね。
 
それでも、全体的にキャスティングもキャラ立ちも最高。シェールやガルシアといったゲストもおいしいところを持っていく。傑作と呼ぶのは躊躇するけど、僕も含めて多くの観客の心を捉える愛おしく忘れがたい作品です。迫力の大画面と大音量が味わえる映画館での鑑賞が一番。マチャオが珍しくミュージカルを強くオススメします。

 

それにしても、邦題から「アゲイン」を取っちゃダメでしょ。ヒア・ウィー・ゴーまで来て、なんでアゲインを省くんでしょうか。なんなら、アゲインだけでもいいくらい大事な単語でしょうが。ま、カタカナにすると長かったんだろうな。でもさ…
 
ちなみに、イタリアでのタイトルはCi risiamo!
その場所に再び集うという意味内容もあるけれど、ニュアンスとしては「またやってるよ」って感じもあって、これはこれで素敵でしょ。やっぱり、タイトル大事。

さ〜て、次回、9月13日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『SUNNY 強い気持ち・強い愛』です。過去と現在が行ったり来たりの構造が似ていて、しかも音楽映画だと『マンマ・ミーア』と共通点も多いこのリメイク。オリジナルは2011年の韓国映画でしたね。鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく!