京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

映画『ヴェノム/VENOM』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2018年11月8日放送分
映画『ヴェノム/VENOM』短評のDJ's カット版です。

f:id:djmasao:20181108174428j:plain

医療や宇宙開発など、最先端の科学研究で知られるライフ財団が、その裏で人体実験を行っているという噂を聞きつけたジャーナリスト、エディ・ブロック。真相を暴くべく、代表に突っ込んだ質問をしたところ、彼は業界を干され、財団の訴訟に関わっていた弁護士のガールフレンドに振られ、社会的に転落してしまいます。自暴自棄になっていたエディのもとに、ある日届いたのは、ライフ財団研究員からの内部告発。施設に忍び込んで人体実験の証拠を押さえるうち、彼は財団が宇宙から持ち帰ったシンビオートと呼ばれるドロドロした生命体と接触。そのまま寄生されて特殊能力が身につくと共に、その声が幻聴のように聞こえるようになります。
 
スパイダーマン映画化の権利を持つソニー・ピクチャーズが、マーベルのキャラクターを使って新たに構想するユニバースの1作目と位置づけられています。要するに、このヴェノムもそうですけど、スパイダーマンにまつわるキャラクターを、スピンオフというよりは、それぞれ単体で勝負するシリーズにしていきつつ、スパイダーマン本体とも、それこそ蜘蛛の巣のように複合的に繋げていこうということだと思います。

スパイダーマン3 (字幕版) ゾンビランド (字幕版)

 サム・ライミが2007年に手がけていた『スパイダーマン3』に敵として登場したヴェノムではありますが、はっきり言って、事前の知識は特に要りません。これが新しいユニバースの1本目なんで、構える必要なし。主役のエディを『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のトム・ハーディが、ガールフレンドをミシェル・ウィリアムズ、そしてライフ財団のトップであるドレイクを『ナイトクローラー』や『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のリズ・アーメッドが演じています。そして、監督は『ゾンビランド』や『L.A. ギャング ストーリー』のルーベン・フライシャーです。

 
それでは、相も変わらずアメコミに対していつもわりとフラットかつクールめな僕野村雅夫がどう観たのか。制限時間3分の映画短評、今週もそろそろいってみよう!

マーベル史上最も残虐とか謳われてたし、ポスターのビジュアルもしっかり気持ち悪いし、ヘタレな僕は『クワイエット・プレイス』の時みたいに、また両手で顔を覆うことになると思って覚悟して出向いたんですけど、あれはキャッチコピーのミスリードですね。思ったよりはグロくない。もちろん、ネバネバした形の定まらないやつが人間の身体に寄生するっていう気持ち悪さはあるけど、PG12指定なんで、『デッドプール2』よりもマイルドということになりますね。血しぶきなんて、まったく出ないですから。ただ、それを良しとするかどうかは、好みの分かれるところでしょう。描写に腰が引けているという見方もできるでしょうが、僕としては、むしろこれは『スパイダーマン』の世界観としては、ありだと思ってます。

スパイダーマン:ホームカミング (字幕版)

ほら、スパイダーマンはこの間のホームカミングもそうでしたけど、とにかくゴチャゴチャとくっちゃべってるじゃないですか。その軽口が、ユーモア、ウィットに溢れていて面白いっていう。ほら、ホームカミングだったら、ハイテクスーツに人工知能的なものが内蔵されていて、それまではスパイダーマンひとりの小言だったものが、途中から対話になる面白さがありましたけど、今回はエディとヴェノムの漫才みたいな掛け合いがひとつの大きな魅力になっていきます。はっきり、バディーものなんですよね。
 
ジャーナリストとして、テレビカメラの前では舌鋒鋭いエディが、実は普段はそこそこ腰の引けた男であるというギャップがまずあって、そこにヴェノムとドッキングして特殊能力を身につけることで、以前なら見て見ぬ振りをしていたような身の回りの悪事にも解決に乗り出す。あのガタイのいい男が、意外と腰抜けで、その実人格者でヒューマニスト。そういうエディの魅力を、すったもんだを繰り返しながらヴェノムが引っ張り出すのが面白いです。
 
たとえば、ある目的で高層ビルに潜り込む必要が生じた時に、ヴェノムがその能力を発揮して一気に壁をよじ登るんだけど、エディからしたら、そういうのは怖いからやめてほしい。だから、帰りは窓を突き破って空中へダイヴしようとするヴェノムを抑え込んで、普通にエレベーターで降りるとか爆笑でした。
 
アクションも基本的に楽しかったです。舞台となる坂の街サンフランシスコの特徴を要所でうまく画面に活かしていました。バイクチェイスのシーンもそうだし、ただエディが歩いてるだけでも、坂道の線が画面を斜めに横切ることで何となく不安に感じさせるとか、さりげないところにも工夫がありました。

f:id:djmasao:20181108185435j:plain

ただ、脚本ははっきり言って、かなり力づくです。決定的なところとして、シンビオートというエイリアンが結局何なのか、そしてヴェノムの考えていることとその変化がよくわからないんです。たとえば、お腹空いたっていうんだけど、特に手当たり次第って感じもないし… 寄生する先、宿主との相性があるっていうんだけど、その説明も曖昧。そして、途中からえらくものわかりがいいんですよね、ヴェノムは。なんでそうなったの? 
 
どうやらシンビオートにも社会があって、そこには世渡り上手もいれば、負け犬もいるっていうんだけど、それならそれで、少なくとも中盤くらいのところで、シンビオートの中のエリートであるライオットがどんな奴かってことをヴェノムに語らせるなりなんなりしておかないと、クライマックス直前になって急にそんな話しされても、ついていけないですよ。そのクライマックスも、いきなりものすごいハンドルの切り方をするので、振り落とされそうになります。だって、いきなり地球レベルの危険が湧いてきて、それを阻止するためのタイムリミット5分て! 短か! バイクとドローンのチェイスシーンの方がよっぽど長いやん!
 
あと、ガールフレンドがいけ好かないので、エディは振られてもI Miss Youってなってるけど、僕からすれば、あんな強欲弁護士は放っておけと言いたい。
 
本編は90分ちょいしかなくて、そのコンパクトさは僕は好きでしたけど、せっかくの面白いキャラクターと設定を活かすための脚本が練りきれていないかなと僕は思ってます。次作でその設定や物語展開の面白さを提示できないと、興味が先に立って集中力が持続した今回のようにうまくはいかないぞと釘は差しておきます。とはいえ、なんだかんだで笑って観てたので普通に次も観たいんですけどね。

リスナーからの感想が一際多かった今週。詳しくはTwitterで #まちゃお802 で検索をかけてみて覗いてみてほしいんですが、うちのディレクターの一言がうまかったです。

バディーものっていうか、「二人羽織り映画」! 確かに!


さ〜て、次回、11月15日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『ボヘミアン・ラプソディ』です。曲が32も使われて、フレディの波乱万丈の人生に「心臓に鳥肌が立つ」らしいです。どんだけ~! あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく!