京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2018年11月29日放送分

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J・K・ローリング文学史に残るベストセラー小説とその映画『ハリー・ポッター』シリーズの前日譚的な位置づけの、こちらは大人版というべき「ファンタスティック・ビースト」。Ciao MUSICAの頃、2016年11月25日に短評した『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』を皮切りに、こちらは全5部作の予定で製作が進められていまして、今作は2本目となります。
 
90年代にハリー・ポッターが使うことになるホグワーツ魔法魔術学校の教科書『幻の動物とその生息地』を編纂した、魔法動物学者ニュート・スキャマンダーが一応の主人公。彼は世界中を旅して魔法動物を集め、4次元ポケット的な不思議なトランクに詰め込んでいます。前作は1926年のニューヨークを舞台にしていましたが、今回はあの騒動を経て、翌1927年の物語。ロンドンに戻っていたニュートは、魔法動物を調査するため、今度はパリへ向かう準備をしていました。そこへ訪ねてきたのが、魔法使いのクイニーと人間のジェイコブ。結婚を視野につきあっているふたりでしたが、魔法使いとノーマジ(人間)の結婚は認められておらず、苦悶したふたりは大喧嘩。クイニーはパリで闇祓いをしている姉ティナの下へ向かいます。一方、アメリカで捕らえられていた闇の魔法使いグリンデルバルドが、ヨーロッパへ移送中に脱走して、やはりパリへ。ダンブルドア先生は、「黒い魔法使いを倒せるのは君だけだ」と教え子のニュートに告げるのですが、果たしてグリンデルバルドは何を企んでいるのか?

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監督はハリー・ポッター5作目から一貫してデヴィッド・イェーツ。そして、このシリーズの脚本は、原作者J・K・ローリングが自ら執筆しています。ニュートをエディ・レッドメインダンブルドアジュード・ロウ、ティナをキャサリン・ウォーターストン、ジェイコブをダン・フォグラーが引き続き演じる他、今回は黒い魔法使いの親玉的なグリンデルバルド役のジョニー・デップが大暴れします。
 
それでは、制限時間3分の映画短評、今週もそろそろいってみよう!

前作を僕がどう評価していたか、先に軽くまとめます。魔法動物たちの顔見世興行としてシリーズの幕を開けながら、人間と魔法使いの世界を大胆に交錯させて、むしろ人間の現代史のダークな側面を浮かび上がらせながら描いた、チャーミングで苦い味わいの、なかなか見事な1本でした。
 
このシリーズは1945年がゴールとなると発表されています。第一次大戦の終わりから、第二次大戦が始まって終わるまでってことですね。今回は黒い魔法使いの親玉グリンデルバルドがパリで何をするって、ヒトラーばりの演説を打って、魔法使いが人間たちをどう扱うべきかという内容で、ここがポイントですけど、魔法使いたちの分断を煽るわけです。さらに、人間たちがどういう奴らかってことを説く場面で、まるで第二次大戦を予知するかのように、戦車やら原子爆弾のようなキノコ雲まで見せていく。ローリングはこのシリーズで「人間とは何か」と解釈することを大きな目的としているようですが、こうした僕たちの闇、業の部分をグリンデルバルドに重ねながら、いよいよ本題に入ってきたなという印象です。

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前作で大きなウェイトを占めていた魔法動物たちのキャラ紹介が、今作ではこれから歴史の渦に運命的に巻き込まれていくだろう魔法使いたちのキャラ紹介にスライドしています。なので、前作のあのかわいらしく滑稽なやり取りは鳴りを潜めていて、代わりに魔法使いたちそれぞれが胸に抱える葛藤と背負っているキツい運命が続々と語られていくので、明らかにダークかつシリアスなファンタジーへと様変わり。結構、面食らう人も多いと思います。必然的にニュートやジェイコブの存在感は相対的に薄くなり、グリンデルバルドが一応の主人公に昇格した格好です。このあたり、はっきり言って、構成がうまいとは言い難いです。どれがサイドストーリーなのかメインなのか、かなりわかりにくいので、映画全体の求心力が弱いんですね。

 
加えて、前作では観客にあまり要求していなかった観客のハリー・ポッター知識がかなり問われるんです。僕みたいなハリポタ弱者にとっては、「その魔法は何?」とか「そんな動物おったんや」とか、かなり戸惑いました。もちろんシリーズなんで、観てない方が悪いってことなんだろうけど、全体としては情報の交通整理がうまくいっていないと言われても仕方はないと思います。軸が見えにくいし、エピソードも小ネタも多いので、セリフがどうしても増えちゃってるし、説明不足も目立つ。これは前作でも言ったことですが、魔法の万能っぷりが度を越しているところもあって、「そんなことができちゃうんだったらさ」とぼやきたくもなります。最後に次作へのフリとして出てくる強大なパワーも、もう魔法がインフレを起こしてるんでビビらないんですよ。ドラゴンボールがZになった時に近いというか、天下一武道会でキャッキャやってた頃が懐かしいなという記憶を僕はなぞることになってしまいました。
 
とはいえ、大人気シリーズです。やっぱり続きは観たい。次が出る前に、僕もハリー・ポッターの原作に手を延ばそうかなと考え始めているところです。

ハリー・ポッターシリーズ全巻セット

さ〜て、次回、12月6日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『くるみ割り人形と秘密の王国』です。クリスマス・シーズンに入っていくので、ファンタジーが続きますね。ディズニーですよ。できばえやいかに? あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく!