どうも、僕です。ポンデ雅夫こと、野村雅夫です。僕たち京都ドーナッツクラブが字幕制作を担当したイタリア映画『愛と銃弾』が、現在、全国で順次公開されています。大阪は2月1日からシネ・リーブル梅田、そして京都は2月9日から京都シネマでの上映がスタートします。僕たちもそれなりの数の字幕を翻訳してきましたが、実は全国で一般公開されるのは、この作品が初めて。しかも、監督の前作を買い付けてイベントで上映していたのも弊社でございまして、感慨もひとしおですし、何よりも作品に惚れ込んでいます。
そこで今回は… 東京での公開に先駆けて、僕がTBSラジオ「アフター6ジャンクション」に電話出演して宇多丸さんにご指南した内容をまず改めて記載しつつ、メンバーのチョコチップゆうこによるレビューをお届けします。どうか、この作品が多くの方の耳目を集めますように!
舞台は、イタリアを代表する大都市、ナポリ。街を牛耳る裏社会のボスのヴィンチェンツォが、敵対するファミリーに襲われるんですが、何とか一命を取りとめます。ただ、彼はもうマフィア(ナポリのこうした反社会的組織はカモッラと呼びます)の大物であることに疲れているんですね。そこへ、映画マニアの妻がこう持ちかけます。『007は二度死ぬ』みたいにしようよ。つまり、表向きは死んじゃったことにしてしまって、葬儀も盛大にやって、その後でひっそりと海外へ逃亡しようと。それぐらいの資金もあるし。この計画を知るのは、ファミリーの腹心数名だけ。すべてを秘密裏に運ばないといけない。ところが、ひっそりとヴィンチェンツォを運び込んだ病院で、女性看護師に姿を見られてしまうんですね。あのオンナを消せ。そう指示された腹心のひとり、ヒットマンのチーロが彼女を見つけ出した時に、気づくんです。この女、俺の元カノじゃないか。そこで、なぜチーロが裏社会に足を踏み入れたのかなど、苦々しい記憶が、彼女との甘い思い出と共にフラッシュバック。チーロは彼女を殺すなんてできずに、バイクで彼女と現場を逃走。ヴィンチェンツォ一家、敵対するファミリー、そしてはぐれたチーロと彼女。それぞれの運命やいかに…
京都ドーナッツクラブの拠点である関西を離れて1年、イタリア好きに囲まれていた生活から飛び出してみると「イタリア映画を観たことがない」という話を聞く頻度が多くなった。そうか日本ではまだまだイタリア映画はマイナーなのかも知れないと思い知った。
ではイタリア映画のイメージはと聞くと、「ヨーロッパの映画って暗そう」「戦時中の話が多い気がする」「やっぱりマフィアかな」というコメントが返ってきた。陽気な国、太陽の国、などとよく言われているイタリアという国のイメージと違ってなんだか重々しい。
もちろんある国の映画を一括りに語ることはできないが、改めて「ジャンルなんて関係ないよね」と思わせてくれたのがこの『愛と銃弾』だ。
物語の舞台はナポリ。主人公のチーロは、魚介王ヴィンチェンツォ率いるマフィアの一員で殺し屋として暗躍している。その魚介王の秘密を目撃した女性を殺害する命を受けるが、その目撃者が今なお愛する元恋人だったと知り二人で逃亡を図るところから物語は動き出す。
そんなあらすじを聞くとマフィア映画かアクションもの、またはラブロマンスかと予想されるが、開始数分でその予想は揺らぐ。死体が歌いだすのだ。声高らかに。そこから始まる怒涛の歌にダンス。あれ、これミュージカルだったかなと混乱し始めた頭にはマフィアの抗争で乱れ飛ぶ銃弾の音が響く。いったいこの映画は何なんだ、次は何が飛び出すんだ、そんな期待と共に物語は進んでいく。
本作の至る所に散りばめられているのは、イタリア国内外の数多くの映画へのオマージュだ。映画好きの人がにやりとしてしまうシーンがたくさんある。元ネタのいくつかは登場人物がご丁寧に説明してくれるのだが、私がくすりと笑ってしまったのは自他共に認める映画好きである魚介王の妻マリアのワンシーンだ。DVD鑑賞中に涙しながら登場人物になりきって暗記している台詞を口にする彼女の姿を見て、イタリアの名作ニューシネマパラダイスの一場面、映画館で観客が台詞を次々に口にするシーンを思い出した。その映画が大好きなのよね、と映画への愛を感じて微笑ましい。彼女はマフィアのボスの妻らしく肝の据わった悪女だが、時折見せる映画愛が彼女をただの悪役に留まらせずコミカルさと愛らしさのあるキャラクターに仕上げている。特に逃亡のために彼女が考えた偽名には思わず吹き出してしまい、心のなかで「よ!大女優!」とツッコミを入れてしまった。
この作品にはそんな思わず笑ってしまうシーンや大笑いしてしまう台詞が多くあり、そうかこれはコメディでもあったのかと気づく。アクションもミュージカルもロマンスもコメディも、あらゆる要素が含まれていてとても一言では形容できない映画だ。登場人物が歌うのも、ポップなものからナポリ民謡風、ラップと多種多様だ。時折「これは演歌?歌謡曲?」と思うコテコテ具合にナポリらしさも感じる。もちろん台詞は翻訳者泣かせのナポリ弁だ(原題の“Ammore e Malavita”の”Ammore”もナポリ弁の”愛”)。
そんなふうに「エンタメ要素全部盛り!味付けはこってりで!」と掛け声をあげたくなる具合で、観終わった時には「あーお腹いっぱい、面白かった」と思わせてくれた。
イタリア映画を観たことがある人もない人も、好きなジャンルに関わらずぜひ一度リラックスして観てほしい作品だ。国もジャンルも関係なく、楽しいものは楽しいと素直に感じさせてくれるだろう。