京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『レプリカズ』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2019年5月23日放送分
映画『レプリカズ』短評のDJ's カット版です。

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人間の意識・記憶を抽出して、コンピューターへ。プエルトリコにあるバイオ系企業の研究所で行われていた研究は佳境を迎えていましたが、そのデータをロボットの脳にインストールするとバグが起きていました。研究資金にも期限にも限りがある中、悩む神経科学者のウィリアム・フォスターでしたが、息抜きにと出かけた旅行で起きた事故で、最愛の家族4人を同時に亡くしてしまいます。茫然自失のフォスターは、そこで一線を越え、家族のクローン、つまりはレプリカを作ろうとするのですが…
 
監督は、ディザスタームービー『デイ・アフター・トゥモロー』が代表作のジェフリー・ナックマノフ。クレジットを確認すると、製作だけでも5人いて、そのうちのひとりはキアヌ・リーブス。あと、『トランスフォーマー』シリーズのロレンツォ・ディ・ボナヴェントゥーラなんかがいます。そして、製作総指揮にいたっては10人以上名前があるんです。船頭多くして船山に登っているんじゃないかという不安がよぎりますよ。主演はキアヌ・リーブス。妻のモナに扮したのは、アリス・イヴ

ジョン・ウィック(字幕版)

しかし、キアヌはとにかく散々な目に遭いますね。スクリーンのそこかしこで。公式サイトのコピーはこれです。「暴走が、止まらない」。ハッシュタグは、#キアヌ暴走です。アメリカではキアヌ主演の人気シリーズ3作目『ジョン・ウィック:パラベラム』が公開され、その週まで続いていた『アヴェンジャーズ/エンドゲーム』の興行収入ランキング4週連続1位を阻んだということですが、あくまで客観的な情報として伝えておきますと、この『レプリカズ』は残念ながらアメリカではすっ転んでおります。
 
それでは、暴走するキアヌを僕がどう受け止めたのかを語る、制限時間3分の映画短評、そろそろいってみよう!

キアヌ・リーブスほどのスターが主演するSF映画にしては、と言うべきだと思いますが、これは愛すべき珍品です。おそらく予算もそこまで潤沢にはなく、脚本ができあがるプロセスにも紆余曲折があり、作品として空中分解するギリギリ手前のところで、とにかくキアヌの魅力と、なんかわからんがとにかくたぎっている強烈なパッションが観客の興味を持続させるという感じ。酷評は簡単にできるんだけど、僕はそうはしたくない。そんなバランスですかね。
 
いくつか具体的にピックアップしましょう。まずは登場する技術と設定が、だいたいどっかの映画で見たそれこそレプリカの寄せ集めって印象は拭えないですよね。だいたい意識を抽出するのに使うローテク感満載のヘッドセットはなんなんですかね。あれで頭を固定して、目の内側にずぶりと針を刺して脳にアクセス。おそらくは神経にあの針先が触れて、そこから脳内の情報を吸い出すイメージですよ。なんかすんごいアナログなのね。たぶん、あの針を眼に刺すっていう悪趣味な絵面をやりたかったんでしょう。このあたりの発想からも、B級SFホラー感がぷんぷんするわけです。

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脚本の流れは、だいたいが行き当たりばったりと後出しです。まずあんな嵐の中、車で無理やり休暇に出るなって話なんだけど、ともかく家族が亡くなってしまい、キアヌだけほぼ無傷。これはもうキアヌだから、ジョン・ウィックだから、それでいいんです。ただ、当たり前だけど、途方に暮れますね。家族の死体を車から運び出すなんて辛すぎる。ただ、次のアクションですよね、ポイントは。研究仲間のエドスマホで連絡。家族の脳内データを抽出するから、「あれもってこい!」ですよ。ここからこの映画におけるキアヌの暴走が始まります。
 
ただ、そこで急に持ち上がるのが、クローン人間培養器の存在です。見た目は、液晶画面の付いた、ただのでっかい水槽。専門分野の異なるエドがその水槽の管理者っていうんだけど、はっきり言って、あの水槽自体がノーベル賞級っていうか、「そんな技術あったんだ!」って、こっちが眼をひんむいてしまう事実でした。しかも、何もないところから、死んだ家族の身体を年齢までそのままに完全再現できちゃう。ただし、意識は白紙状態だから、死体から抽出した意識をそこにインストールする。もうね、SFって言っても、発想が中学生です。ていうか、そんなことできちゃうんだ! ていうか、この研究所、この話が始まる前からとっくに暴走してたってことだし、そこに研究者たちがあっけらかんと参加してるってこと自体がマズイよね。

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問題はその水槽が3つしかないから、家族の数と比べて足りないってことでの葛藤が生まれる。それをどう乗り越えるかも見ものですね。そんでもって、なぜか子供も妻も年齢が違うのに同じ日数で完成する肉体。そこからの、家族がひとり欠けたことを隠すためのSNS上のアリバイ工作とかも、なんかわからんが面白い。もはや筋と関係ないネタに笑えてしまう。もっと大きな問題は、蘇る家族の記憶改ざん技術がね。また出ました。「そんなことできちゃうんだ! 」。そして、あとは勘づいたバイオ企業からの逃走劇で、文字通りキアヌ暴走。
 
マチャオは今日はかなりネタバレしてんなあって思うかも知んないけど、普通に公式サイトでここまで出てますから、ご安心を。ここまでただただツッコミを入れてきました。以上、デキの今一つなB級SFでした。って片づけたくなくなるのは、結局、キアヌ演じるフォスターの家族への愛情が軸にあるからだと思います。そして、はちゃめちゃな技術うんぬんは別として、身体も記憶も完全再現できちゃえるんだったら、それはもうクローンでありながら、人だよねっていう、ほとんどは過去の映画史のつぎはぎレプリカなんだけど、そこは「人間ってなんだろう?」という問いかけとしては面白いんです。この手の映画って、エンディングでゾッとさせるもんだけど、『レプリカズ』の場合はブラックでホラーな味わいプラス、ハートウォーミングな落とし所も用意してありまして、それは他にあんまりないんじゃないかな。ということで、結論として、もう一度繰り返すと、これは愛すべき珍品です。


 

別にサントラでバングルズが使われているわけではないんですが、フォスターのあの(自己中心的ではあるが)強い家族への想いを目にした後にふっと浮かんできた曲です。なんか、80年代の曲をかけたくなる懐かしい味わいもあったような… そりゃ、きのせいかな。ってことで、番組では評の後にお送りしました。

 

公式サイト、ぜひ閲覧してみてください。トップに映画.comでの特集記事へのリンクがあるんですね。これは配給がパブリシティ目的で依頼した記事だろうと想像するんだけど、普通はそういうのって苦労してでも褒めるわけですよ。ところが、映画.comも踏み込んでるよ。記事のタイトルだけ言っときましょうか。「5分に1回起きる『キアヌの間違った選択』に全力でツッコむ映画」ですから。「いじらしいほどの『ツッコまれ待ち』ムービー」だって言い切ってますから。その記事も笑えるから読んでもらいたいし、何よりも作品も観てほしいです。『アヴェンジャーズ/エンドゲーム』とか間違いないやつでお腹いっぱいになったところに、こういうのをチョイスするのもオツなもんです。

eiga.com


さ〜て、次回、2019年5月30日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『空母いぶき』です。これはまた意見の割れそうなものが突撃してきました。映画の出来不出来とは別に、専守防衛自衛隊だの問題で意見が分かれるような内容なのだとしたら、これは評が難しいところだけど、気合いを入れて臨みます。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく!