京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

映画『影踏み』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 12月10日放送分
映画『影踏み』短評のDJ'sカット版です。

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人々が寝静まった深夜。民家に忍び込んでは盗みを働く「ノビ師」が専門の泥棒、真壁修一。その技術の高さは、警察にも一目置かれるほど。ある夜、県議会議員の邸宅に侵入した真壁は、自宅に放火しようとしていた妻の姿を目撃します。その瞬間、彼の脳裏には、自分の家族に起きた20年前の事件の記憶が蘇るのでした。さて、その事件の真相は? そして、かつて法律家を目指した真壁がなぜ泥棒になったのか?

月とキャベツ [DVD] 8月のクリスマス [DVD] 

原作は『64 ロクヨン』や『クライマーズ・ハイ』などの映画化作品でも知られる作家、横山秀夫。脚本は2010年版の『時をかける少女』や『味園ユニバース』の菅野友惠。監督と主演は、それぞれ篠原哲雄山崎まさよし。このタッグは、まさよしさんの『One more time, One more chance』を主題歌にした96年の青春音楽映画『月とキャベツ』以来。そして、まさよしさんも映画主演は2005年『8月のクリスマス』以来ですから、久しぶりです。

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写真:有村蓮  ウェブサイト「好書好日」より

キャストは他に、真壁と学生時代から親交のあった久子を尾野真千子、真壁を兄貴と慕うチンピラのような男を北村匠海。さらには、中村ゆり竹原ピストル滝藤賢一鶴見辰吾大竹しのぶら豪華キャストが集いました。

 
もう公開館数が減ってきてはいるんですが、配給が東京テアトルということもあって、テアトル梅田が良かろうと、先週木曜日夕方に観に行ってきましたよ。では、映画短評、今週もいってみよう!
僕にとっては『月とキャベツ』がかなり思い出の詰まった作品ということで、まずこの座組に惹きつけられました。山崎まさよし鶴見辰吾以外にも、謎の少女ヒバナを演じていた真田麻垂美がチラッと図書館で出てきて、ワオってなったりして。っていうのは、ファンへの目配せなわけですが、もうひとつ2作の大事なつながりは、群馬県というロケ地です。小栗康平監督が『眠る男』を撮影した廃校となった中学校を改装した伊参(いさま)スタジオという場所があって、そこでは映画祭も実施されているんです。原作の横山秀夫はそこで審査員をしていて、横山ファンである山崎まさよしと出会い、「ぜひ僕の原作の映画にいつか」という横山氏の言葉を受けて、『月とキャベツ』の松岡プロデューサーが今回の企画を立てました。
 
横山氏は「今回の群馬オールロケが視覚的な通奏低音として統一感をもたらした」という趣旨の発言をしています。僕もその効果は大きいと考えています。今では珍しいドライブイン。うどんやトーストの自動販売機なんて、もうなかなかないですよ。他にも、警察署、駅前旅館的安宿、こぢんまりしたネオン街のスナック、刑務所や裁判所の様子っていうのが、テーマとなっている地方都市の閉塞や家族という血の息苦しさを描く上で、絵に説得力をもたせていました。フィルム撮影ではないと思うんだけど、闇の場面にもそんな味わいがありました。

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(c)2019「影踏み」製作委員会
そして、俳優陣もそれぞれに熱演していました。山崎まさよしは、特にその佇まいや姿勢で悲しみを背負った「影」を体現していましたし、大竹しのぶの悲壮感・絶望、滝藤賢一の得体のしれなさ、それから細かいキャラクターで言えば、真壁をマークする刑事の助手のいい意味での上っ面感とかね、みんないい味を出していました。
 
がしかし! 実は僕、決して高くは評価しておりません。映像化は極めて難しいと言われていたこの原作。その困難を突破するために、キャスティングや役作りが念入りに行われ、物語の半ばで明らかになる、とある大胆な仕掛けが用意されています。これはね、驚きもあるし、一定の成功を収めているんですが、そこに注力しすぎたのか、肝心のストーリーの骨格、輪郭がぼやけているんです。実際のところ、かなり複雑な話です。複数の事件とその背後の人間関係のこじれや鬱屈とした心情があって、それらが交差しているはずなんですけど、交差点ばかりが強調されて、そこにいたる道筋がはっきりしないので、わかりそうで色々わからないんです。描く描かないのメリハリなど、整理が必要です。だって、終盤で「お前か、こいつめ!」っていう展開があるんだけど、あの人の事情なんて描写がすっ飛んでますから。

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(c)2019「影踏み」製作委員会
そうしないと、せっかくのあのシンボルツリー、丘の上で過去と現在がクロスして未来を見据えるあのせっかくのキメの構図も白々しく見えてしまうんです。
 
面識もある監督だし、思い入れのある座組だけに、言うことは言うというスタンスで、評しました。でも、これはあくまで僕の評価ですから、あなたも劇場で。テアトル梅田の今やレトロな劇場の味わいも、この映画の鑑賞を一層味わい深くしてくれますよ。


山崎まさよしサウンドトラックも手がけていて、クレジットを見ていると、そちらはまさよしも漢字になっていて区別されていました。映画の最後にこの同名の主題歌を聴くと、歌詞の「影」や「ブランコ」に込められた意味、そのシルエットが、こちらはよりくっきりとしてきます。

 
ひとつ付け足すとすれば、トムカさんというリスナーからの指摘にもありましたが、女性のキャラ付けがいずれも受け身で、さすがにこの時代の設定としてはどうなのかと僕も思いました。演歌の世界じゃないんだから。


さ〜て、次回、2019年12月17日(火)に扱う映画は、スタジオの映画おみくじを引いた結果、『決算!忠臣蔵』となりました。「え〜と、何かと物入りな師走に映画で1000円から2000円か〜」なんて算盤勘定は御無用。「討ち入り、やめとこか!」なんてコピーが踊っていますが、あなたはお近くの映画館へ討ち入るべし! 鑑賞したら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。