監督は『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』『LOOPER/ルーパー』のライアン・ジョンソン。脚本も自分で担当したこの物語は、完全オリジナルです。探偵のブノワ・ブランを演じるのは、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の公開を4月10日に控えるダニエル・クレイグ。作家ハーラン役のクリストファー・プラマーや、『キャプテン・アメリカ』のクリス・エヴァンス、『ブレードランナー 2049』のアナ・デ・アルマス、ジェイミー・リー・カーティス、マイケル・シャノンなど、一癖も二癖もある個性豊かな顔ぶれがキャストに揃いました。
スーツやコートをビシッと着こなして、冷静沈着、ダンディーではあるけれど、南部の訛りがあって、ユーモアを忘れない。だいたい最初のくだり、ピアノの横に陣取って、容疑者の家族たちの供述の合間に不意にピアノを鳴らすとか、コインをことあるごとにトスするところとか、なんなんですかっていうケレン味もしっかり。だけど、ちょいと抜けてるところもあるっていう魅力はただごとではありません。この事件の構造をドーナツにたとえるなど、表現力も独自のものがあるんですけど、彼自身については語られないことも多くて、謎めいているのもまた良し。そこにダニエル・クレイグを抜擢したのがまた慧眼です。どうしたってボンドのシャープな肉体派のイメージがあるんで、意外性があるんですよ。それは、アナ・デ・アルマスにしても、クリス・エヴァンスについても言えますね。
では、なぜそこまで惹きつけられるのか。『パラサイト 半地下の家族』に賞は譲りましたが、アカデミー脚本賞にノミネートってのも納得なシナリオがやはりすごい。始まってからしばらく、わりと早い段階で事件当夜のあらましが明らかになるので、てっきり、コロンボ、古畑任三郎型の倒叙ミステリーかと思うんですが、叙述トリックの要素もバッチリあるっていうあわせ技、ブノワがドーナツだとユーモラスな表現をした人間関係と関係者の供述のあり方が最後まで明らかにならないお話の構造が練られまくっていました。トリックそのものは度肝を抜かれるようなものではないんだけど、語りが複雑で楽しめるんですよ。彼らって、嘘はついてないけど、本当のことも言わないんですよね。それは、輪の中心人物である、死んだハーランの作家的やり口でもあるわけです。このあたり、国会の予算委員会でやられると腹が立つんだけど、スクリーンの中での謎解きなら面白いんです。
無数のナイフを背もたれに配置した風変わりな椅子から、食器や衣装のひとつひとつにいたるまで、振り返れば細かく配慮された道具類は、すべてこの語りを強固にすることに貢献しています。ブノワが言うところのお粗末なカーチェイスはあっても、見せ場のためのアクションシーンもありません。伏せられていた出来事と隠されていた本音が段階的に明るみに出てくる様子を、じっくり楽しむんです。アメリカ人が移民をどう捉えているのか、そして家族でもリベラルと保守で分断されている様子など、このご時世だからこそっていう背景も描くことで、レトロな探偵ものながら、十分にアクチュアル。トータルに隙きのあまりない良作でした。
さ〜て、次回、2020年2月18日(火)に扱う作品は、スタジオの映画神社でおみくじを引いた結果、『グッドライアー 偽りのゲーム』となりました。今週は嘘はつかないが、みなまで言わずに逃れおおせようとする人たちの話でしたが、来週は稀代の詐欺師が登場ってわけですね。ヘレン・ミレンとイアン・マッケランの共演。演技合戦は相当な火花を散らせそうです。鑑賞したら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!