京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『ハスラーズ』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 2月25日放送分
映画『ハスラーズ』短評のDJ'sカット版です。

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唯一の身寄りである祖母を養うため、ニューヨーク、マンハッタンにあるストリップクラブで働き始めた、アジア系の女性デスティニー。右も左も分からない新人の彼女にポールダンスの手ほどきをしてくれたのは、クラブのスター的存在であるラテン系のラモーナ。ふたりはすぐに打ち解けて、友情を育みます。デスティニーがストリッパーとしての処世術を覚え、生活が安定してきた2008年。リーマン・ショックが起こる。クラブの客も減り、不安定な生活に逆戻りしてしまうデスティニーとラモーナ。ところが、不況の原因を作ったウォール街のエリートたちの暮らしぶりはそう変わらない様子。憤懣やるかたないラモーナは、デスティニーたちストリッパーと徒党を組み、ウォール街の富裕層から大金をだまし取ろうと画策する。

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製作とラモーナ役を務めたのは、先日のスーパーボウル、ハーフタイムショーで舞台に立ったジェニファー・ロペス。ジェイローは、なんと出演料抜きで取り組んだようです。そして、デスティニーに扮したのは、『クレイジー・リッチ!』の台湾系アメリカ人、コンスタンス・ウー。他に、カーディ・Bやリゾなど、ミュージシャンも、実名やそれに近い役名で登場します。監督と脚本は、ボクと同い年の女性で、役者でもあるローリーン・スカファリアです。
 
今作はアメリカで批評家から高い評価を得て、興行収入ランキングでも初登場2位になるなど、ヒットしているんですが、どうしたことか、日本では公開が限定的。僕は先週木曜日にTOHOシネマズくずはモールで観てまいりました。僕以外は全員女性でしたね。それでは、今週の映画短評いってみよう!
予告を観ていると、これは女から男への逆襲の映画なんだろうと思っていたんです。ノリノリの音楽をバックに、ポイポイ服を脱いでポールダンスを踊りながら、ウォール街の証券マンから金を巻き上げていた女性たちが、リーマン・ショックを境に羽振りが悪くなった。にも関わらず、世界を大恐慌に陥れた男どもの生活水準はちっとも下がらないじゃないか。こちとら、女手一つで、身体一つで子どもも育ててるってのに、この差はなんだ。ニャロメ〜! 月に変わってお仕置きよとばかりに、美女軍団が男達をやっつけて、ざまぁみろと。この予想は、当たっていなくもないけれど、映画の一面にしか過ぎないということもわかってきて、まさにそここそが重要なんです。

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(c)2019 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
リーマン・ショックを挟んで、数年にまたがる話なんですけど、途中から、この事件を記事にしようとする女性記者によるインタビュー場面が挿入されるようになって、R&Bやポップスに混じってショパンがちょいちょい流れることで、ははぁ、これはやがてはうまくいかなくなることが誰にでも予想できる作りになっています。実話ですから、アメリカの人なら、事件そのものを知っている可能性も高いわけですし。観ているとわかるんですけど、彼女たちは金持ちから金を掠め取って貧者に配るような義賊ではないんですよ。結局は、彼女たちも私利私欲にまみれていて、すべての価値は金金金って、証券マンがやってることと変わりないところに落ちてしまっている。その点で、彼女たちに騙された男達も彼女たちも同じ穴の狢なんですよ。似たような手法で社会に一泡吹かせた作品に、イタリアの『いつだってやめられる』シリーズがあるんですが、あちらと違って、彼女たちはやり口がずっと杜撰でどぎついんで、観ていてヒヤヒヤするし、ざまぁみろとも言ってられないのが実情です。

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でも、このスカッとさせないのが、肝なんですよね。スカファリア監督は、さっき言ったジャーナリストの視点を入れることで、ハスラーズを格差社会の被害者として描くことも、ヒロイックに描くこともしなかったんです。彼女たちはもちろん、一定の社会的制裁は受けたし、こんな悪事を働いたって、ろくなことはないともきっちり見せています。そして、こういうセリフを引き出しています。
 
「あの頃、この街、この国全体がストリップクラブだった。金をばらまく側と踊る側の人間がいただけ」

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彼女たちは黙って踊っていることにうんざりしたわけですよ。そして、奪われてばかりは嫌だから奪うんだ。ハッスルされ続けるくらいなら、こっちがハッスルしてやる。奪い取ってやるとなる。思えば、デスティニーは駆け出しの頃、男達になめられ、マージンやら何やらで、金をむしり取られていました。一方、ラモーナは札束のシャワーの中で踊っていた。そこで生まれた極端な上昇志向が悲劇を生んだわけです。そして、それはウォール街の男達の上昇志向と何が違うのか。映画はポールダンスや高層ビルなど、高さ低さを感じさせるモチーフを交えながら、その点を見せていきます。
 
「これは、コントロールについての物語」。ジャネット・ジャクソンのそんな語りから始まる曲『Control』で始まるこの作品。コントロールできなくなって、目指した高みからやがては墜落する。資本主義・拝金主義社会の切なさ、ほろ苦さが胸に染み入る作品でした。
それにしても、ジェイローたちのこの役にかけた努力が相当なものであることは想像に難くないし、彼女たちの佇まいとカッコ良さ、そして社会的メッセージも鑑みて、もっと評価しろよ、アカデミー! ってついつい思っちゃいました。そして、もっと日本でも上映してくれよ! どうも過小評価されてるって気がします。

さ〜て、次回、2020年3月3日(火)に扱う作品は、スタジオの映画神社でおみくじを引いた結果、『ミッドサマー』となりました。
 
って… 神よ… 映画の神よ… なぜだ。怖い。怖そうすぎる。
 
来週はひな祭りだってのに、こちらは明るいのに怖い、恐怖の祭典の幕が切って落とされそうです。はわわ~ 鑑賞したら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!