京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

映画『盗まれたカラヴァッジョ』レビュー

どうも、僕です。野村雅夫です。東京では1月に公開が始まり、シネ・リーブル梅田では3月20日京都シネマでは3月21日、少し遅れてシネ・リーブル神戸では4月3日に上映の始まるイタリア映画『盗まれたカラヴァッジョ』。『ローマに消えた男』や『修道士は沈黙する』が日本でも公開されているロベルト・アンドーが監督・脚本したもので、原題は「名もなき物語」”Una storia senza nome”。2018年のヴェネツィア国際映画祭に出品され、同年にイタリアで一般公開されたこの作品を、セサミあゆみにレビューしてもらいました。

ローマに消えた男(字幕版) 修道士は沈黙する(字幕版)

映画の製作会社に秘書として務める主人公、ヴァレリア。実はここ何年か、人気脚本家のアレッサンドロ・ペスに代わり、ゴーストライターとして映画のシナリオを書いている。次回作の脚本がそろそろ必要になったある日、ヴァレリアはあやしい男に出会い、男の少しずつ語る物語を脚本に起こしていくことになる。それは、一枚の絵画をめぐる物語だった。

昨年から今年のはじめにかけて、札幌、名古屋、大阪の3地方都市で開催されたカラヴァッジョ展。強い光と暗い影の生みだす、ドラマチックな瞬間を切り取ったような絵画の鑑賞に駆けつけた人も多かったことだろう。

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@2018 Bibi Film – Agat Film & Cie

そんなカラヴァッジョの絵画の中には、盗難に遭い、行方知れずになってしまった祭壇画がある。この映画で取り上げられている『キリスト降誕』だ。恥ずかしながら、正直なところ、私はこの事件の知識がなかったが、1967年10月17日から18日にかけての夜にパレルモの教会から盗難されたときには、世界を震撼させたとのこと。今となっては、盗難画は燃えて灰になってしまったのか、豚の餌になってしまったのか、はたまたスイスの富豪が密かに所有しているのか定かではない、というのは映画の中で語られている通り。

 

事件の夜から、その後、行方知れずの現在に至るまでの間には、一体何があったのだろう。どこまでが真実で、どこからがフィクションだかわからないようなこの映画の物語が、その空白を埋めてくれる。

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@2018 Bibi Film – Agat Film & Cie

光と影のコントラストが映える映像は色彩も鮮やかで、カラヴァッジョの絵画を彷彿とさせるよう。ラウラ・モランテ演じる主人公の母親のエキゾチックな服装が、絵画の中の聖母マリアマグダラのマリアかのように思えたのは、宗教画に引きずられすぎかもしれない。ほかにも、この映画監督は見たことがあるような気がするなと思えば、役者は“奇才”と呼ばれる実在の映画監督だそうで(↑イエジー・スコリモフスキ)、また、感情に流される人間味のあるスパイやハッカー、ストーリーの途中でイメチェンをして、ガラッと雰囲気の変わる主人公など、登場人物も魅力的だ。ちなみに、イタリアではイメチェン後の主人公が好まれるのだろうけれども、日本ではどうだろう。

 

細かなところは置いておいたとしても、興味をそそられる題材で、サスペンスのストーリーを追うだけでも、エンターテイメントとして十分に楽しめる。また、胸を打つイタリア小説の数々の翻訳で大活躍されている、関口英子さんの字幕にも注目したい。(文:セサミあゆみ)

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@2018 Bibi Film – Agat Film & Cie