京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『シャザム!』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 5月12日放送分
映画『シャザム!』短評のDJ'sカット版です。
幼い頃に迷子になり、孤児となってしまったビリー。里親と信頼関係を構築できず、あちこちを転々としながら14歳を迎えています。彼が今回新たに一員となったバスケス夫妻の家族には、他に何人もの孤児たちが集うグループホームでした。彼はある日出会った謎の魔術師に力を授けられ、内面はそのまま、外見は大人のスーパーヒーロー、シャザムに変身できるようになります。次第に仲良くなりつつあったグループホームの義兄弟フレディと一緒に、その力を試していたところ、ビリーの力を我が物にしようとする科学者シヴァナが現れ、フレディは連れ去られてしまいます。

アナベル 死霊博物館(字幕版)

DCコミックス原作のアメコミを映画化したものが世界観を共有するDCエクステンデッド・ユニバースの7作目として、去年4月に公開された今作。シャザムを演じたのは、MCUの「マイティ・ソー」に出演していたザッカリー・リーヴァイ。シヴァナは、キングスマンシリーズのマーク・ストロングが担当しています。監督は、スウェーデン出身のデヴィッド・F・サンドバーグ。『アナベル 死霊人形の誕生』など、ホラーで成り上がってきた人で、81年生まれ、長編3本目にしての超大作抜擢です。
 
僕は先週土曜日にNetflixで鑑賞しました。福田雄一演出の吹替版が物議を醸したんですが、今回はややこしいので、そこには触れず、字幕のみ鑑賞という前提で短評します。それでは、今週の映画短評いってみよう!


 「見た目は大人、中身は子ども」っていうコピーはなるほどその通りだしやっぱり面白いと思いつつ、妙な既視感が付きまとったんですが、昨日読売テレビに行って理由がわかりました。名探偵コナンなんですよ。結論、『シャザム!』はコナンである。っていくらなんでも雑な話ですが(そもそも逆だしね、逆。)、共通している要素もあります。特殊能力の設定もそうですけど、特に仲間で一緒になって敵に向かっていくってのは、似通っているんじゃないでしょうか。

 
ただし、本作のひねりが効いているのは、ビリーとその仲間たちが、孤児たちの共同体で、血こそつながっていないものの、立派な家族であるということ。帰属意識がなく、やさぐれていた孤独な少年ビリーがいかにしその内面の大人の階段をのぼるのか、そのジュブナイルものという見方もできます。そこで物語上大切になるのが、シヴァナというヴィランの存在と、初めて構築することになるファミリーの絆。

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© 2019 Warner Bros. Entertainment Inc.

まずはシヴァナですが、あの人はこれまたかなり気の毒でしたよ、僕に言わせれば。映画の冒頭で示される1974年クリスマスのできごと。シヴァナもまた、ビリー同様、幼い頃に魔術師のもとへ召喚されていたんですよね。ビリー同様、彼もまた孤独を感じていたわけです。シヴァナには家族がいたんだけれど、車に同乗していた父と兄からはできそこない呼ばわりされていて、バカにされ、要は血はつながっているのに心のつながりが薄い状態です。さらに気の毒なのは、彼を呼び出した魔術師から、簡単に言えば「君じゃなかった」みたいなことになるわけですよ。そ、そんなぁ! で、まぁ、表面的にはシヴァナのせいとも言える車の事故が起こる。そりゃトラウマにもなるっていうか、あんな妙なヒゲの魔術師に否定されたら、人間ダメになりますって。で、実際に魔術師の力を受け継ぐ存在への嫉妬を燃え上がらせて、邪悪な存在へと堕ちてしまいます。
 
一方のビリーは、あっさり力を受け継ぐんですが、中身は思春期そのものなんで、力を得るなり思いつく限りのバカをためつすがめつ実行に移して、僕らを笑いの渦に巻き込みます。その小ネタはもう見てのお楽しみですよ。街ですれ違う人のスマホを頼まれもしないのに充電してあげたり、ストリップに行ってみたり。どれも必要以上に引っ張らずにサクサクとリズム良く、そして音楽もあちこちで効果音的にスパッと使っているのが今っぽいし、ニクいなぁと感じるところでしょう。で、このビリーの顛末って、シヴァナがかつて望んだものでもあるわけですよね。構図がシヴァナと逆。

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© 2019 Warner Bros. Entertainment Inc.

ビリーはかつてはぐれた母を探しに探して疑似家族に巡り会います。血の通った母へと誘ってくれるのも義兄弟たち。知恵を授けてくれました。で、気づけば、彼ら彼女ら人種も年齢も趣味もバラバラな義兄弟とこそ、本当の絆を育んでいく。これ、ことごとくシヴァナに縁のなかったものですよね。シヴァナの周りには7つの大罪の魔物たち。ビリーの周りには愛おしい仲間・家族たち。そしてこの両者の全面対決へというくだりで、SHAZAMという言葉の意味も明らかになってきます。要は、彼ら義兄弟それぞれに与えられた力の名前の頭文字を合わせると、シャザムになる。ってのは、はっきり言って描写がおざなりっちゃおざなりです。なおかつ、シヴァナとビリー、力が与えられるかどうかの資格のようなものの違いについてもぼんやりしているため、僕のようにシヴァナがだんだん不憫に思えてくる人がいてもしょうがないのでは?と思ってしまいました。ただ、続編もありそうだし、不憫なヴィラン、理のあるヴィランは物語を豊かにしますから、不憫でもいいっちゃいいんですけどね。

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© 2019 Warner Bros. Entertainment Inc.

それにしても、あの魔物たちのグロテスクな登場の仕方や音の使い方なんかには、ホラー出身のサンドバーグ監督らしいアイデアが光っていたし、全体として、メッセージも含めて、僕は満足しました。何より、とにかくユニバースが複雑っていうマーベルに対して、それぞれのつながりよりも単体として楽しめることを優先したDC、この方向性は間違っていないと素直に感じられる1本でした。
大人になんかなりたくないよってことでしょうかね。主題歌をお送りしました。とにかく今作には、かなりのロック、ポップスが使われていて、サンプリング感覚で効果音よろしく一瞬だけ鳴ったりします。それをひとつひとつ確かめるのも楽しいですよ。フィラデルフィアが舞台だからと、あの階段を使っての『ロッキー』パロディーもあったし、小ネタはもう枚挙にいとまがありません。


 さ〜て、次回、2020年5月19日(火)も「お家でCIAO CINEMA」です。スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕がついに引き当てたのは、『アナと雪の女王2』でした。公開当時も、配信開始してからも、何度となく候補に上がり続けいたものの当たっていなかったアナ雪。いよいよ僕もイントゥ・ジ・アンノウンですよ。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!