京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『アナと雪の女王2』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 5月19日放送分
映画『アナと雪の女王2』短評のDJ'sカット版です。

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©2019 Disney. All Rights Reserved.
雪と氷に覆われたアレンデール王国に太陽が戻った前作の終わりから3年。氷や雪を操る魔法の力を持つ女王のエルサ。そして、持ち前の明るさで周囲から慕われる妹のアナ。ふたりとも、平和な日々を過ごしていました。そこへある日、エルサには、北の方から、自分を呼ぶような、不思議な歌声が聞こえるようになります。なぜ呼ばれているのか。エルサは妹のアナ、そのフィアンセのクリストフ、トナカイのスヴェン、そして雪だるまのオラフと一緒に、アレンデールから出た旅は、エルサの魔法の力の秘密を解明し、アレンデールの過去が明るみに出る冒険でもあったのです。

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 脚本と共同監督には、ジェニファー・リー。もうひとりの監督は、クリス・バック。どちらも前作から続投となっています。男女、ベテランと、2010年代に活躍を始めたコンビですね。声の出演は、エルサをイディナ・メンゼル、アナをクリステン・ベル、日本ではそれぞれ松たか子と神田沙也加など、続投しつつ、オラフはピエール瀧から武内駿輔に変更されています。

 
前作で『Let It Go』を手掛けてアカデミー歌曲賞を獲得したロペス夫妻が、今回は『Into The Unknown』を書き下ろして、またしても歌曲賞にノミネートとなりました。
 
ブルーレイとDVDがちょうど先週リリースされたところですが、僕はポイントを使ってU-nextでレンタルして、吹替版を鑑賞しましたよ。それでは、今週の映画短評いってみよう!

言わずとしれた大ヒット作にして、評論家受けもかなり良かった前作。魔法に象徴される特殊能力があるがゆえに共同体に馴染めず、私はこれでいいのかと悩んでいた姉のエルサがLet It Goとありのままの自分を肯定して、すったもんだの果てに王位に収まりました。自分とは違うかもしれないけれど、というか、そんなことお構いなしに姉を無邪気に愛し、恋人クリストフとの仲もそれなりに順調なのかというのが、妹のアナ。アナはアナで、ディズニーのクラシックなプリンセス像を踏襲するかに見えて乗り越えていくという役柄で現代的でした。これでもういいじゃないかと。確かに表面的にはそうだったんですが、いくつかのテーマは今考えると宙に浮いていたとも言える。そうはっきり伝えてくれる続編となっていまして、その意味で、商業的な要請で付け足したような続編よりも、よっぽど気が利いている、というよりもむしろ、必要なお話だと言えます。
 
そのいくつかのテーマに触れていきましょう。まずは、エルサが感じていただろう、女王としての玉座の微妙な座り心地の悪さです。これはディズニーのおとぎ話なので、魔法が使える人が出てくることそのものはみんなそこまで違和感なく受け入れたわけですが、妹にも、前の国王である父にもそんな能力はなかったわけで、なぜ自分だけがこうなのか。そのアイデンティティは判然としなかったし、前作での氷の城に閉じこもる時の吹っ切れた姿も僕らは観ていただけに、最終的にあっさりシステムに取り込まれてしまったという印象もありました。そこに、どこかから自分を呼ぶ声が聞こえる。そうしてルーツを確かめに行く、Into The Unknown、未知の本来の自分の使命を突き止めに行くことになるわけです。さらに、彼女は王家の娘ですから、それがアレンデールという国そのものの立ち位置にも影響してくる。

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ここで浮上するのが、もうひとつのテーマである国家のあり方です。今のアレンデールは、かつて敵対もしていたノーサルドラという民族との和睦があって成り立っているのだということが、前半で明らかになります。ノーサルドラは、近代国家というよりも、自然ともっと密接な関係を持った、アニミズム的な先住民と理解して良いんだろうと思います。モデルとなったのが、実際の北欧の先住民、サーミ人。リスナーのeigadaysさんが昨日リンクをツイートしてくれていましたが、日本ではアップリンクが『サーミの血』というドキュメンタリーを配給していて、配信でも観られるそうです。ともかく、先住民と近代国家の衝突、紛争、軋轢、融和というのは、世界中で行われてきたことで、なんとアレンデールにも負の歴史のあったことが判明するわけですね。

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なんて具合に、個人と国家のアイデンティティとルーツという、かなり壮大なテーマになってきたのがアナ雪2。結末には触れませんが、僕には大いに納得できる、きっちりどちらにも落とし前をつけてみせた、すごい話だなとは思います。僕もアイデンティティが決してスタンダードでないだけに、なんか胸のつかえが下りた感じのする幕切れ、だとは思います。

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って、含みがあるでしょ? ただ、正直なところ、前作以上にスピリチュアルで観念的な話になっているせいで、オラフやクリストフが狂言回しとしてどんどん笑いは取ってきますが、すんなりとは飲み込みづらいところも多いです。特に、話が大きく動くところが、とにかく精霊だ水の記憶だってことばかりなんで、魔法にかけられたというよりも、なんか僕には肩透かしで、舞台となる、アレンデール、魔法の森、アートハランなどの位置関係など、空間の描き方がぼんやりしていて、かなり掴みづらかったので、2回観ました。圧倒的に2回目の方がわかり良かったのは、僕の方がぼんやりしていたから、だけかなぁ。
 
ともあれ、内容も表現そのものもかなり攻めていながら、これだけの成功を収めるというディズニー10年代の金字塔なのは間違いありませんので、ソフト化もされたこの機会に、未見の方はぜひご覧ください。
奇しくもこのコロナ禍を踏まえると、「未来が見えなくなった時には、今できること、それも正しいことをする」というトロールのパビーのセリフには納得させられるものがありました。最後になりますが、橋を架けるという、このご時世ますます大切になっている価値観を、見事に体現してみせたエルサとアナのふたりに乾杯ですよ。そう、橋を架けるにはふたつの場所が必要なんだもんなぁと、感じ入ったしだいです。

さ〜て、次回、2020年5月26日(火)も「お家でCIAO CINEMA」です。スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、これもついにという感じの『蜜蜂と遠雷』でした。音楽映画としての評価がかなり高いですよね。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!