京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

エドアルド・レオ特集上映より 『わしら中年犯罪団』サウンドトラック

ジローラモに騙されるな」と声を大にして言いたい。スーツに高級腕時計でキメて、口を開けば女の子の話……。そんなステレオタイプなイタリアのちょいワルおやじ像を打ち壊すべきではないか。そんな思いから、現地イタリアのちょいワルおやじの生態を紹介すべく、『わしら中年犯罪団』を上映する運びになったと言っても差し支えないだろう。2018年から1982年にタイムスリップしたちょいワル……もといぱっとしない中年三人組。ちょっと間の抜けた色男セバスティアーノ役はアレッサンドロ・ガスマン、気の小さいジュゼッペ役はジャンマルコ・トニャッツィ、お金に汚いモレーノ役はマルコ・ジャッリーニが演じる。経歴も紹介しておくと、アレッサンドロ・ガスマンは『追い越し野郎』など1950年代から活躍し続けた名優ヴィットリオ・ガスマンの息子、ジャンマルコ・トニャッツィはイタリア式コメディーの象徴ウーゴ・トニャッツィの息子だ。実力と名声を兼ねそろえた二世俳優の豪華な共演が実現している。そしてマルコ・ジャッリーニはいくつもの映画でエドアルド・レオと共演した「コンビの相方」的な存在。作中ではこの中年三人がレオと一緒にハードロックバンドのキッスのコスプレで銀行強盗をするのだから、面白くないわけがない。

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左からモレーノ(マルコ・ジャッリーニ)、ジュゼッペ(ジャンマルコ・トニャッツィ)、セバスティアーノ(アレッサンドロ・ガスマン)

 

さて、タイムスリップした彼らは、戸惑いつつも、古き良き「リラの時代」を謳歌する。ベルトや靴を購入し、『ランボー』のポスターをバックに自撮りをし、今はなきアイスキャンディーをほおばる。つまり作中には中年おやじを引き立てる様々な文化的アイテムが登場するのだが、そのなかでも今回は音楽に着目したい。1982年であるがゆえに、かかる音楽は懐メロばかり。ディスコの場面では、当時リリースされたばかりのインディープ「ラスト・ナイト」、そしてもちろんキッスのコスチュームを着て強盗に入るシーンはキッスの「ラヴィン・ユー・ベイビー」。当時の流行がよくわかる洋楽も聞いていて楽しいのだが、ここはイタリア国産の懐メロを見てみよう。

 

物語り後半のディスコの場面で流れるアラン・ソレンティ「星の子どもたち」(Figli delle stelle)。1977年にリリースされた軽快なディスコ・ポップ・チューンで、当時この手の曲が英語ではなくイタリア語で歌われることは非常に珍しく、その目新しさも手伝って16週に渡りイタリアのシングルチャートのトップ10入りを果たした。アラン・ソレンティは元々プログレ・ロック出身だが、この曲が収録されているアルバムで大きく方向転換する。AOR的な大人の雰囲気を醸しつつ、のびやかで柔らかいハイトーンボイスで歌われるそのサビの歌詞が以下のようなものだ。

 


Alan Sorrenti - Figli Delle Stelle - 1977 versione originale restaurata

 

Noi siamo figli delle stelle ぼくらは星の子ども

figli della notte che ci gira intorno. 周りを包む夜の子ども

Noi siamo figli delle stelle, ぼくらは星の子ども

non ci fermeremo mai per niente al mondo. この世界にとどまることはない

noi siamo figli delle stelle, ぼくらは星の子ども

senza storia senza età eroi di un sogno. 歴史も年齢も夢のヒーローも知らない

Noi stanotte figli delle stelle, ぼくらは今夜 星の子ども

ci incontriamo per poi perderci nel tempo. 時のなかで迷子になるために出会うのさ

 

アラン・ソレンティは「星の子どもたち」のリリースから二年後にバラード「僕にとって君は唯一の女性」(Tu sei l’unica donna per me)でさらなる成功を収める。それに引き換え日本では知名度が低いこちらの楽曲だが、いま聴き返しても鮮度が落ちていない。「ぼくらは星の子ども」を繰り返し、刹那的な生き方を楽しむ当時の若者たちの儚さを、その軽やかな旋律で表現している。イタリア中年たちが、こんなオシャレ曲を聴いて育っていたとは、やはりあなどりがたい。

 

そしてもう一曲紹介したいのが、物語の肝となるヴァレリア・ロッシの「三つのことば」(Tre parole)だ。2001年のトルメントーネ(その夏いちばんのヒット曲)で、当時32歳だったヴァレリア・ロッシはこのデビュー曲でキャリア最大のセールスを売り上げた。意地悪な言い方をすれば一発屋と呼べなくもないが、こちらのサビの歌詞も興味深い。

 


Valeria Rossi - Tre Parole

 

Dammi tre parole 三つのことばをちょうだい

Sole, cuore, amore 太陽 心 愛

Dammi un bacio che non fa parlare 口を開けなくなるようなキスをちょうだい

È l'amore che ti vuole あなたが望む愛

Prendere o lasciare つかみとるの それとも手放すの

Stavolta non farlo scappare 今度は逃さないでね

Sono le istruzioni これは教え

Per muovere le mani 手を動かすための

Non siamo mai 私たちがこれほど

Così vicini 近くにいることはなかった

 

透明感のある楽曲の雰囲気とアレンジはどことなく、「三つのことば」のさらに数年前に全世界で流行ったオーストラリアの歌手ナタリー・インブルーリアの「トーン」に似ている気がするが、高揚感のあるサビでparole(パローレ=ことば)、 sole(ソーレ=太陽)、 cuore(クオーレ=心) 、amore(アモーレ=愛)と、母音「オーエ」でイタリア人の心にもっとも刺さる最強の韻を踏んでいるところはこの曲ならでは。さらにサビの後半でもistruzioni(イストゥルツォーニ=教え)、mani(マーニ=手)、vicini(ヴィチーニ=近い)で長音+「ニ」の韻を踏んでいる。この押し寄せる韻のコンボが大ヒットに結びついた。

1982年時のヒット曲に混ざって、2004年のヒット曲が歌われる、いわば懐メロのマリアージュが、中年おやじの冒険譚を鮮やかに引き立てている。

 

 

アップリンク吉祥寺で上映される『わしら中年犯罪団』16時30分~(野村雅夫トークショー付き)の回、チケット先行予約が始まっております!

 

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