京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『ネクスト・ドリーム ふたりで叶える夢』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 12月22日放送分
映画『ネクスト・ドリーム ふたりで叶える夢』短評のDJ'sカット版です。

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ハリウッドの音楽業界でトップに君臨するベテラン黒人女性シンガー、グレース。いつか音楽プロデューサーとして一旗揚げたいという夢を持つマギーは、グレースの付き人として日々の雑用をこなしてはいるのですが、製作にはまったく関与できず悶々としていました。ある日、マギーの前に現れたのは、才能はあるがまだ磨きがかからずくすぶっているシンガーソングライターのデヴィッド。マギーは彼をプロデュースしたいと仕事の合間にレコーディングを始めるのですが…

WAVES/ウェイブス(字幕版)

本作は脚本家も監督も女性です。脚本は音楽業界に身をおいたこともあるフローラ・グリーソン。監督は配信作品で名を挙げてきたニーシャ・ガナトラ。さらに付け加えるなら、製作総指揮のアレクサンドラ・ローウィーも女性なんですね。マギーには『フィフティ・シェイズ』シリーズや『ソーシャル・ネットワーク』のダコタ・ジョンソン、グレースにはダイアナ・ロスの娘であるトレイシー・エリス・ロスが扮した他、デヴィッド役として『WAVES/ウェイブス』のケルヴィン・ハリソン・Jr.、そしてグレースのマネージャー役としてラッパーのアイス・キューブも出演しています。
 
僕は先週火曜日の昼過ぎに大阪ステーションシティシネマで観てまいりました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

この映画のすばらしいところを、まず列挙しましょう。キャスティングが良い。ロケーションが良い。サントラが良い。脚本が良い。はい、だいたい良いんです。欠点を挙げることもできますが、それら欠点を補って余りある美点がゴロゴロしているのが、この作品の長所です。
 
まずキャスティング。グレースの役どころはとても難しいです。ハリウッドを舞台に、本当にいそうだけど実際にはいないグレースという40代のシンガーソングライターを演じられるのは、トレイシー・エリス・ロス以外にあり得ないし、彼女はグレースを見事に体現しました。大ヒット曲を複数持っていて、キャリアも十分というオーラと自信を放ちつつ、その栄光を傷つけずに新たな挑戦をするにはどうすれば良いのか、焦燥感を募らせているという繊細な弱みも表現する必要がある。練られた衣装やメーキャップの助けを借りながら、トレイシーはグレースとしてスクリーンにいます。
そして、プロデューサーを目指しているマギーを演じたダコタ・ジョンソン。豊富な音楽知識と豊かなセンスを持つマニアであり、野心を持ってグレースに近づいたのは良いけれど、このままではいけないという、これまた焦燥感を抱えながら、チャーミングでユーモアがあって、生真面目だけれど少し抜けている。ダコタ史上最高のダコタを引き出してくれた監督のガナトラさんに感謝です。マギーの前傾姿勢で夢は、きっと若い女性を勇気づけることでしょう。42歳のおじさんですら、そうでした。さらに、彼女は劇中で恋をするんですが、夢を追いながら、今は恋をしている場合じゃないと思いながら、ためらいながらも恋に落ちる様子が最高でした。
加えて、アイスキューブの強面で「こういう人いるんだろうな」っていう敏腕マネージャー感、ケルヴィン・ハリソン・Jr.の愚直で素直な青年っぷりも良かったし、極めつけはビル・プルマンが演じたマギーの父親にしてラジオDJのマックスがすばらしい。かつてはビッグなラジオ局で活躍していて、今はリゾート地の小さなローカル局で番組を持っているマックスの娘との距離感なんて絶妙。あんなDJ、憧れるなぁ。
ロケーションは、もちろんハリウッド、LAなんですが、映画はなかなか舞台の街そのもので撮影できないのが常です。使用許可とか大変ですから。ところが、この作品は幸運にも、そしてスタッフのロケハンと許可取りの成果がスクリーンいっぱいに広がっているので、観光映画的な側面と、そこで生活している感覚を疑似体験させてくれるんです。グレースの豪奢な邸宅も、市民の憩いの場であるトレッキングコースも小さなライブハウスも味わえるんですね。
 
そして、サントラ。音楽映画ですからこれが肝ですが、この映画ではまずアルバムを先に作ってるんです。しかも、統括したのは、マイケル、ホイットニー、マライア、アリアナ・グランデビヨンセ、マルーン5などなどなど… ジャンルを問わず活躍してきた名プロデューサーのロドニー・ジャーキンスコリーヌ・ベイリー・レイ、サラ・アーロンズ、レノン・ステラといった作家陣が曲を書き下ろしています。盤石の布陣ですね。
最後に脚本。業界の裏側を垣間見せながら、ふたりの立場の違う女性の来し方行く末を希望を込めて描き、起承転結の前半は少々もたつくものの、転結の鮮やかさと美しさには目頭が熱くなりました。パンフに評論家の宇野維正氏が寄せた文章に詳しくは譲りますが、グレースが抱える葛藤は真に迫っています。男社会の音楽業界で、表舞台に立つ女性で、40代で、有色人種であるグレースが未来をどう意欲的に描けるのか。実際にそういう条件で全米ナンバーワンを獲得するシンガーはほとんどいません。だから、それが茨の道であることと、だからと言ってひるまずに進むには女性の連帯が必要なことを見事に描いたと思います。
 
以上の理由から、若干甘い評価であることは百も承知で、この映画を僕は強く推したい。映画の神様に感謝感謝の1本でした。

トレイシー・エリス・ロスの堂々たる歌声とグッド・メロディーを楽しめるこの曲のみならず、サントラはどれもすばらしいです。今回の評はずっと流しっぱで書いていました。それから、あちこちで引用される曲たちも、的を射た選曲で、ただ雰囲気を醸すBGMとしてではなく、物語にしっかり組み込んでいたことに好感が持てました。


さ〜て、次回、2020年12月29日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『私をくいとめて』です。攻めた映画を撮り続ける大九明子監督と綿矢りさの原作と言えば、すばらしかった『勝手にふるえてろ』があるじゃないですか。今回は、のんちゃんと林遣都を巻き込んで、どうしたって抱いてしまう期待に応えてくれるのか。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!