京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『映画 えんとつ町のプペル』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 1月12日放送分
『映画 えんとつ町のプペル』短評のDJ'sカット版です。

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キングコング西野亮廣(あきひろ)が手掛けて幅広い世代に人気を得ている絵本『えんとつ町のプペル』。分厚い煙にいつも覆われた、えんとつ町。その煙の上に空があることも、そこに星が瞬くことも、誰も想像すらできなくなっています。1年前、ただひとり星について紙芝居で表現していたブルーノが失踪。噂では海の怪物に食べられたのだとか。息子のルビッチは、学校をやめて煙突掃除で家計を助けるのですが、ハロウィンの夜、ゴミから生まれたゴミ人間のプペルが現れ、ふたりは友達になります。

えんとつ町のプペル

西野亮廣が製作総指揮と脚本を務め、アニメーション制作は湯浅政明大友克洋片渕須直の作品など、ハイクオリティな映像表現で知られるSTUDIO4℃が担いました。もともとジブリで『となりのトトロ』やら『魔女の宅急便』やらのラインプロデューサーを務めた田中栄子が起こしたスタジオですね。監督はこれが初長編の廣田裕介。主人公のルビッチとプペルの声を、それぞれ芦田愛菜窪田正孝が演じた他、立川志の輔小池栄子國村隼などが参加しています。
 
僕は先週水曜日の午後、MOVIX京都で観てまいりましたよ。結構入っていたし、客層は幅広いなと感じました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

絵本の原作を長編アニメーションにするのは、なかなか大変です。同じビジュアル表現で言えば、漫画の劇場版がありますが、絵本の方がより大変です。日本の連載漫画の場合には、最近だと『鬼滅の刃』がそうですが、それなりに長いものが多いので、映画化にあたっては、とりあえずキリの良いところまでにしておく、など、描きこまれたエピソードの取捨選択が必要で、そこに脚本家の腕が発揮されるのですが、絵本の場合はお話が比較的簡潔であることが多いので、むしろどう膨らませるかが重要だと言えます。
 
その上で、この原作絵本は、異例のことですが、総勢33人のクリエーターによる分業体制で作られたんですね。なんなら、その制作資金もクラウドファンディングによって集まったもので、西野氏は言わば全体の旗振り役なんです。絵本の時点で、製作総指揮・脚本だったみたいなわけで、集団製作という商業映画の手法を絵本に持ち込んでいました。珍しいケースだし、そのやり方、出版の仕方、クレジットの仕方など、5年ほど前に賛否両論渦巻いていて、僕なんかはそれ自体が興味深いなとネット越しに眺めていた口です。だって、このお話が出る杭を打つ社会への風刺なんで、西野氏が日本というえんとつ町のプペル、あるいはルビッチになっているようにも見えましたから。

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(C)西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会
そして今度は、丹念に微細に描きこんだ絵を動かすプロジェクトのために、より大きな集団製作の旗を西野氏は降ったわけです。これだけの情報量のアニメを高い水準で実現するなら、STUDIO4℃には自ら依頼をしに行きました。キャスト、ミュージシャンなど、錚々たるメンバーが集いました。にも関わらず、僕にはこの映画がそこまで輝いて見えませんでした。
 
絵は素晴らしかったし、キャラクターたちがダイナミックに動いてアニメならではの視聴覚的快感もありました。何より特徴あるスチームパンク的な街の表現が細かくって、プペルと一緒に探検をするようでワクワクもした。のは、前半1/3くらいまでです。僕と同じように感じている人もいるようですが、それはなぜかと言えば、煎じ詰めれば脚本の問題です。常識に囚われずに、想像すること。誰かがそれを否定しても、自分の夢を信じること。信じ切ること。そのメッセージは否定しませんよ。真っ当ですよ。正論だし、風刺としても今また大切な価値観です。でも、悪く言えば、それ以上のひねりが、遊びが脚本に決定的に足りないんです。

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(C)西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会
絵本だったらね、話はむしろソリッドにして、あとは絵を描きこんであるから、フレーズごとに、ページごとに、読者に想像させるべきなんです。だけど、長編アニメにするなら、もっともっとエピソードも細かく積み上げていかないと、どうしたって話の推進力が落ちるんです。だから、途中からは「それ、さっきも聞いたよ」っていうセリフが多くなってしまう。その意味で、僕は映画化にあたっては、脚本こそ、西野氏を中心に複数の人で肉付けしていくべきだったと考えています。結果的に、話はすごくあっさり感じられるし、普通だし、こんなメッセージなのに想像を超えない。
 
えんとつ町は魅力的なので、今後たとえばルビッチ少年がその外の世界をどう受け止めるのか、挑むのか。続編やスピンオフを生み出せる土壌のある設定だと思います。僕はむしろそこが見たいなと、今後の展開にちょっぴり期待しながら劇場を後にしました。絵本は現在、映画のホームページで無料公開されているので、ぜひ比較してみてください。

絵本のプペルが話題になった頃から、西野さんが交流を持って、その才能を世に知らしめる一助となってきたシンガーソングライターのロザリーナ。1stミニアルバムが出た時には、既にプペルのイラストがジャケットに使われるなど、一種のメディアミックスが2016年から行われてきたわけですが、西野さんが作詞したこの歌はここに来て、映画のエンディングとして高らかに響くことになりました。独特の声の魅力がいかんなく発揮される高いキーです。

さ〜て、次回、2021年1月19日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『新感染半島 ファイナル・ステージ』です。アニメの後にゾンビです。ものすごい振り幅の采配となりました。前作を僕はかなり楽しんだし評価もしたので、楽しみではありますが、とかく難しいのが続編。どうなりますか。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!