京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『新感染半島 ファイナル・ステージ』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 1月19日放送分

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日本でもヒットしたゾンビもの『新感染 ファイナル・エクスプレス』の続編です。野生動物から広がり、人間を凶暴かつ俊敏なゾンビに変えてしまう謎のウイルスが朝鮮半島を襲ってから4年。半島を脱出して香港で生き延びていた元軍人のジョンソクは、マフィアとの取引によって、あるミッションを遂行します。それは、大量の米ドル札を積んで韓国に取り残されたトラックを、限られた時間内に回収すること。順調に進めていたところに、ゾンビだらけの街に潜んでいた民兵組織にトラックを奪われます。

新感染 ファイナル・エクスプレス(字幕版)

カンヌ国際映画祭2020のオフィシャルセレクションに入りました本作。続編とは言いつつ、お話は基本的に前作と別ものです。監督と共同脚本は、前作と同じヨン・サンホなんですけどね。今回、主人公のジョンソクを、カン・ドンウォン、韓国で隠れ住んでいた女性をイ・ジョンヒョンが演じています。イ・ジョンヒョンさんは歌手でもあって、Lady Gagaオープニングアクトを経験していたり、日本では紅白にも出演したことがありますね。
 
僕は先週火曜日の午後、TOHOシネマズ梅田で観てまいりましたよ。ゾンビ・ファンが集っておりましたよ。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

前作がたいへん良かったんですね。2017年の9月に僕はラジオで評しまして、それはブログで読めます。もう、ただただ褒めていました。舞台を列車内に限定した設定の妙。ゾンビではなく人間を描く骨太なテーマ。すばらしいと。ただ、ヒット作の続編は基本的に難しいのに加えて、あの後の物語って言ったって、ゾンビ映画に解決って難しいわけだからなぁと、同じヨン・サンホ監督とは言え、こりゃしくじってる可能性があるぞ。とは思っておりました、正直。そして、その通りにこりゃコケとるわと観る人が出てくるのはわかるけれど、僕はこれはこれとして、実は結構楽しく観ることができたんです。
 
4年後、韓国はもう文字通り壊滅状態で、ゾンビしかいないっていう廃墟化したところへ、今回の主人公ジョンソクは潜入するわけですが、お宝を奪ってこいというミッションのルール説明が必要なだけでなく、そもそも主人公も前作と違うし、このシリーズのゾンビはこんな特徴がありますっていう説明も必要なので、物語のセットアップが手こずりそう、ストーリーテリングの難度が高いところを、監督はいとも簡単に、さくさく頭からクリアしていくし、それどころか、軍人だったジョンソクの4年前、朝鮮半島脱出時の後悔、自責の念を、きちんとゾンビ映画的見せ場としていきなり提示しているんですよね。
 
ジョンソクは渋々ながらではありましたが、再び韓国の土を踏みます。さあ、トラックはどこにある。ゾンビは闇夜では動かないか、動きが鈍いんです。ところが、たとえ月の光でも、ある程度の明るさがあると活性化しますよって追加ルールを、廃墟の街、実地で教えてくれるくだりも、こんな世界になってしまうのかと観光映画ゾンビワールド編として面白い。で、わりとあっさりめにトラック発見、ようし、あとは衛星電話で迎えの船を呼び出しでと… うぇ〜い、4年我慢したけど、これで億万長者だ〜いって、この油断、からの大惨事が、この手のジャンル映画のお決まりですよね。

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(C)2020 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILMS.All Rights Reserved.
ただ、ここから様相が変わってくるのは、さっきルール説明って表現を使いましたが、今回はむしろ人間同士のサバイバルゲームになっていくんですね。観れば思い出すのは、「マッドマックス」ではないでしょうか。怒りのデス・ロードばりに、ゾンビたちに囲まれて脱出不能だと人間性を見失った軍人たちの所業がひとつの見ものになり、その環境でかろうじて人間性と理性をつなぎとめている人たちも出てくる。そこでのお宝と命をめぐる攻防戦の装置は車と銃や兵器です。あとは、ラジコン。って、まぁ、これも車ですね。つまり、やはりマッドマックスっぽいんですね。漫画っぽいし、なんじゃそりゃっていう、物理法則を無視したような展開もあるんだけど、それはもうそういうエンタメだと思って笑って見ていればいいんです。あの女の子ふたりの運転技術とラジコン操作技術は、もはや笑いでしょ? そして、怒りのデスロードよろしく、主人公ジョンソクよりも、女の子、母、そして老人と、社会的に力が弱いとされている人物たちがむしろ活躍していく。このあたりは、韓国や日本のまだまだ厳しい女性の立場を映したものだという解釈も成り立つだろうし、今回はとにかくおびただしい数のゾンビがわらわら出てきますが、それだって行き過ぎた競争社会のメタファーになるってところは、このジャンルのお決まりでしょう。

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全体として、CGが多くて萎えるとか、カーチェイスもやりすぎでもはやリアリティーがないとか、鋭い社会風刺が前作に比べれば後退しているとか、最後のお涙頂戴演出がしつこいとか、主人公の葛藤がもうひとつ表現しきれていないとか、いくらでも批判はできるんですが、それでも、僕はエンタメにシフト・チェンジした続編のあり方として、これはこれで面白いと思います。ラストも、誰が生き残って、誰が犠牲になるのか、そして危険を犯して助けに行くのか、そもそも助けは来るのか。こうしたお決まりの問題に、それなりにツイストを加えたオチをつけていたと思いますし、ちゃんと人間を信じたくなる、塩気のある淡い甘みがブレンドされたフィナーレでしょう。って、これ、実は前作の評の最後に僕が言った言葉と同じなんです。今回は甘味が強めではあったし、湿っぽくもあったけれど、方向性としては結局同じとも言えるのではないか。僕はそんな風に受け取っています。
曲はサントラからではなく、僕のイメージを膨らませて、キラーズを持ってきました。ゾンビ映画というジャンルには多分に社会風刺が含まれているもの。この曲もそうだよなと。


さ〜て、次回、2021年1月26日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『大コメ騒動』です。学校の日本史で習った米騒動、わかるんですが、なぜあれを今映画にしたのかってことはよくわかっておりません。でも、『超高速!参勤交代』の本木克英監督で、井上真央が主演… 面白そうでないか! 作品のコピー通り、「もう我慢できん!」。エンヤコラと、すぐ観てきます。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!