京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

人生のロスタイムを描くイタリアンコメディ『ワン・モア・ライフ!』3.12公開!

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「人って死んだらどうなるの?」
 
子供の頃から死後の世界に興味があった私は、よく周囲を困らせる質問をした。大人からは誰からも納得のいく答えを得られなかったが、かわりに映画が未知の世界を教えてくれた。
 
例えば『天国は待ってくれる』(1943年)では、閻魔大王曰く、“すぐに天国に入れなくても別館の小部屋に時々空きが出る”のだそうだ。本館への移動は数百年待たされることもあるが、希望すれば別館で待機できるらしい。そのあと本館での審査に通れば天国に行けるというユニークな制度に、私の想像は膨らんだ。 

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そんな中、今回、さらに面白い世界に出会った。それがダニエーレ・ルケッティ監督の最新作『ワン・モア・ライフ!』だ。

中年男のパオロはある日、いつもの交差点で交通事故死してしまう。天国の入口は大混雑、寿命に納得できない人々が役人に猛抗議している。パオロも窓口で抗議すると、前代未聞の寿命の計算ミスが発覚。審議の結果、92分間だけ寿命が延長され、監視の役人付きで現世に戻ることになる。

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© Copyright 2019 I.B.C. Movie

原作はフランチェスコ・ピッコロの2冊の短編集『Momenti di trascurabile felicità』(取るに足らない幸せの瞬間)と『Momenti di trascurabile infelicità』(取るに足らない不幸の瞬間)で、監督と原作者が共同で脚本を執筆し、映画化した。初めから主人公をピフ(ピエールフランチェスコ・ディリベルト)に想定して書いたという監督の思惑通り、憎めないダメ男をピフが好演している。映画の舞台になったパレルモの街並も美しく、死の恐怖を感じさせない仕上がりだ。

 

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それにしても、まさか人生にロスタイムが与えられるとは思ってもいなかった。さすがサッカー大国、イタリアである。92分という中途半端な制限時間にもお国柄が滲み出ている。物語は自由奔放に生きてきた男が死をきっかけに内省し、家族との絆を取り戻そうと奮闘するのだが、日常の些細な幸せの見せ方が上手い。有限な時間を意識させる時計の針音も効果的だ。いつ起こるかもしれない大地震やウイルスの感染拡大など、今や私たちの誰もが“死”を意識せざるを得ない状況だ。ライフスタイルも大きく変化した。こうした背景からも「些細な幸せの瞬間」の重要性がリアルに感じ取れる。きっと誰もが生の尊さや日常のありがたみを再考する良い機会になるだろう。結末については、ぜひご自身の目で確かめてもらいたい。

 

ロスタイムを経た今、私の死後の世界の想像はますます膨らむばかりだ。

 

(文・ココナツくにこ)

 


 

『ワン・モア・ライフ!』

2021年3月12日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

 

監督・脚本:ダニエーレ・ルケッティ(『ローマ法王になる日まで』)
出演:ピエルフランチェスコ・ディリベルト(ピフ)、トニー・エドゥアルト
2019年/イタリア/94分/シネスコ/5.1ch/言語:イタリア語/原題:Momenti di trascurabile felicità/英題:Ordinary Happiness/日本語字幕:関口英子/後援:イタリア大使館イタリア文化会館/提供:ニューセレクト/配給:アルバトロス・フィルム
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