京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

愛と感謝と懺悔のイタリア疾走コメディ『ワン・モア・ライフ!』3.12公開!

どうも、ドーナッツクラブの有北です。

 

イタリア映画『ワン・モア・ライフ!』が、いよいよ来週、3月12日(金)公開です。というわけで、もう一度ストーリーを確認しておくと、

 

中年男のパオロはスクーターで通勤途中、身勝手な運転が仇となり交通事故に遭ってしまう。予想外に短い寿命に納得できないパオロは天国の入口で猛抗議。すると、92分間だけ寿命が延長され、地上に戻れることに! パオロはそれまでの生き方を反省し、家族の絆を取り戻すと一念発起。92分一本勝負に挑む!  (公式サイトより抜粋) 

 

というお話でしたね。

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© Copyright 2019 I.B.C. Movie

幽遊白書』に迫る勢いの、のっけからの主人公の死。それはあらすじからもわかってるし、死亡フラグも出しまくりなのに、いざその時が訪れた時、その死にっぷりのダイナミズムに、僕は思わず声を出して笑ってしまいました。

 

「悲痛な死」「感動的な死」など、映画ではさまざまな死が描かれますが、ときに僕たちの前に現れる「おかしみのある死」。これに僕たちは若干戸惑いつつも、どうしようもなく心を揺さぶられるのです。

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© Copyright 2019 I.B.C. Movie

ツイッターで人気を博した「死に方あるある」をまとめた書籍『明日から使える死亡フラグ図鑑』(宝島社)では、映画やドラマで出てきがちな死亡フラグが、約100個も紹介されています。

 

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  • 作戦失敗をボスに報告する幹部
  • 話し合いで解決しようとする村長
  • バタフライナイフをカチャカチャさせる人

 

などなど、雑巾を絞りつくす勢いで、次から次へとあるあるが飛び出します。

 

「映画などを見ていてこの本と同じシチュエーションが出てきたときに、思い出してちょっと笑ってくれたら僕はうれしいです。エンタメ作品は純粋に楽しむのが一番ですが、死亡フラグを見つけたときにそばにいる人たちとツッコミ合いながら見るのも、それはそれで楽しい。新しい楽しみ方の一つとして役立ってくれたら幸せです」

 

と、作者の茶んたさんも言っているように、死ぬんだろうな~きっと死ぬんだろうな~と思わせてやっぱり死ぬ、この定型には、一種独特のおかしみが存在します。

 

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© Copyright 2019 I.B.C. Movie

そして何より、パオロの死には、おかしみ以上にダイナミズムがあります。どの映画やドラマでも、死にっぷりの見事なやつというのは、その一瞬のきらめきから人々の心に刺さり、長く愛される傾向にあります。たとえ、その登場シーンがどれだけ短くても。ある意味では「コスパがいい」とも言えます。

 

例えばそれは、「レオパルドン」です。

 

レオパルドンというのは、マンガ「キン肉マン」の登場人物で、ビッグボディチームの次鋒として、マンモスマンに0.9秒という桁違いのタイムで瞬殺されたことで伝説となった男です。あまりの瞬殺ゆえに、出番もほんの一瞬(王位争奪編中、セリフは「次鋒レオパルドン行きます!!」「グオゴゴゴ」「ギャアーッ」の3つのみ)。

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にもかかわらず、かつてテレビ番組「水曜日のダウンタウン」でもピックアップされ、「レオパルドンよりも一瞬で殺されたものなどいない説」が唱えられたし、昨年、プレイボーイ誌上に再登場した際にはツイッターでトレンド入りし、半沢直樹よりも人々が話題にしたほどです。

 

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ゆでたまご嶋田隆司先生もびっくり

 

それらすべての根幹にあるのは、「見事なまでの瞬殺ぶり」、この一点なのです。

 

パオロの死にっぷりは、そんなレオパルドンに匹敵する命のきらめきであり、「92分ノンストップコメディー」という、リアルタイムで繰り広げられる本作の疾走感を象徴するシーンであったといえます。

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そういえば、こんなジョークがあります。

 

友人に裏切られ全財産をなくした挙句、不治の病に冒され、さみしく死の床についている男がいた。そこに、美しい妖精が現れてこう言った。


「どんなことでもかまいませんので、今、あなたが叶えたいことを3つ言ってください」


男は喜んで、涙を流しながらこう言った。


「友情と財産と健康が欲しい!」


そして感動して感謝を述べた。


「ありがとうございます。なんとお礼を言っていいのか……」


すると、妖精は微笑んでこう言った。


「こちらこそありがとうございます、アンケートにご協力いただいて」

 

死に瀕した時にこそ、人は生に対して情熱をもって向き合えるもの。その熱量を、本作で十分に感じていただきたいですね。

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 (文・有北雅彦)

  


 

『ワン・モア・ライフ!』

2021年3月12日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

 

監督・脚本:ダニエーレ・ルケッティ(『ローマ法王になる日まで』)
出演:ピエルフランチェスコ・ディリベルト(ピフ)、トニー・エドゥアルト
2019年/イタリア/94分/シネスコ/5.1ch/言語:イタリア語/原題:Momenti di trascurabile felicità/英題:Ordinary Happiness/日本語字幕:関口英子/後援:イタリア大使館イタリア文化会館/提供:ニューセレクト/配給:アルバトロス・フィルム
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