京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『浅田家!』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 5月4日放送分
『浅田家!』短評のDJ'sカット版です。

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カメラ好きの父のいる4人家族の次男として育った浅田政志。幼い頃から写真に興味を持ち、高校卒業後は専門学校へ。卒業制作では、自分の家族を被写体に、自分たちの思い出を自分たちで再現した写真で学校長賞を獲得します。以来、様々なシチュエーションを演じるコスプレ家族写真のシリーズで一斉を風靡します。プロの写真家となった政志は、全国の家族写真を撮影して回るようになるのですが、そこへ東日本大震災が発生。かつて撮影した東北の家族のことが気になった彼は、一路被災地へ。

湯を沸かすほどの熱い愛 

写真家、浅田政志の実話を基にしたこの作品。監督と共同脚本は『湯を沸かすほどの熱い愛』の中野量太です。主人公の政志を二宮和也、兄を妻夫木聡、母を風吹ジュン、父を平田満が演じた他、政志の幼馴染の若奈を黒木華が担当して日本アカデミー賞助演女優賞を獲得しています。他に、政志が東北で出会う仲間のひとりに、菅田将暉が扮しています。
 
僕はU-NEXTのレンタルで先週金曜日の夜に鑑賞しました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

僕のひとつ下、41歳で現在は三重県津市、故郷にお住まいの浅田政志という写真家の半生です。いくら活躍している方とは言え、伝記映画の企画としては若いですよね。『ジョゼと虎と魚たち』や『メゾン・ド・ヒミコ』のプロデューサー小川真司が、今家族を撮るなら中野監督だろうとオファーしたことがきっかけだったようです。実話がベースということで、語られるできごとそのものに評価を下すのはためらわれますが、監督は原作と言える2冊の写真集を手に、ざっくり前後編のパートに組み立てています。前半の1冊は『浅田家』。政志が写真家になるまでの話で、浅田家のユニークな成り立ちを描いています。何よりも彼らのチャーミングな言動にフォーカスしながら、政志が培っていく作家性をあぶり出していく一家族とその周辺の、小さな話。一方、後半は『アルバムのチカラ』という、津波にあった沿岸部の様々な家族写真を洗浄して持ち主に返却をするプロジェクトを丹念に描きながら、人が写真に何を求めるのか、ある種メディア論的なアプローチの大きな話になります。そのうえで、政志の人生、浅田家での現時点での立ち位置につながるだろう結びへといたります。

浅田家 アルバムのチカラ 増補版

 僕がこの作品で興味深いなと思ったのは、中野監督がおそらくは生と写真の関わりを裏テーマに持ち込んでいることです。表面的には、家族や人々の絆っていう、東日本大震災後に濫用されて価値のインフレが起きたようなものなんだけれど、実はその裏で、人は家族写真に何を見るのかということを考察していたように思うんです。僕が子どもの頃には、「写真を撮られると魂が抜ける」みたいな話がまだ残っていました。スナップ写真という言葉がありますが、スナップという動詞には、主に狩猟において「あまり狙いを定めずに素早く射る」という意味があります。あと、映画でも撮影する時にはシュートという動詞をよく使いますよね。あれは射撃の比喩から来ているもので、要は「生を切り取るもの」なんです。切り取られた生は、たとえば震災で実際に命を落としてしまった人の何気ないスナップを目にした家族の脳裏でまた蘇るわけです。過去となった時間が今、再度しばし動くということですね。それに加えて、プロローグとエピローグで全体をサンドする格好の浅田家のエピソードは、写真を撮ることで、あるいはその写真を観ることで、未来を見据える、未来を描くこともできるんじゃないかという踏み込んだ話になっていきます。中野監督も、そこまで描けるというつながりが見出だせたことで、これは一風変わった写真家の一風変わった半生という枠組みを超えられると踏んだんじゃないでしょうか。

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(C)2020「浅田家!」製作委員会
実人生とは違うシチュエーションを家族一丸となってコスプレして演じる一連の浅田家写真も、前半のおもしろエピソードで終わらず、今話した写真論の中に組み込んで見せられると、元の写真集の新たな解釈として成立するような気がします。
 
はい、ここまで、テーマの設定と脚本の組み立てについて話しながら、好意的に話してきましたが、特に後半に入るまでは、どうにもセリフによる説明が多いなと感じてしまい、観ながらイライラしてしまったことは否めません。そのあたり、もうちょっと言葉の引き算をして、映像のチカラに立脚したものになっていればなぁと感じました。言葉に映像が引っ張られていたことと、そのわりに前半は政志の行動原理がわかるようでわからない隔靴掻痒な部分も多かったです。

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(C)2020「浅田家!」製作委員会
ただ、この手の大作日本映画において、わかりやすさ(キャスティングも含めた間口の広さ込み)とその裏にある骨太なテーマをあぶり出そうとする姿勢は素直に評価すべきだと思いました。毎日スマホで手軽に写真を撮る時代だけに、写真の意義やアルバムの役割について思いを新たにしたしだいです。写真、整理せなな…
主題歌の雰囲気と入るタイミングは僕の気に入りましたね〜。選曲も良し!

さ〜て、次回、2021年5月11日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『新解釈・三国志』となりました。大丈夫かな。三国志、詳しくない。大丈夫かな。福田雄一演出に、ちょいちょいついていけない僕なの。大丈夫かな。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!