京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『新解釈・三国志』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 5月11日放送分
『新解釈・三国志』短評のDJ'sカット版です。

f:id:djmasao:20210510162557j:plain

遡ること1800年ほど前。中華統一をめぐり、魏、呉、蜀、3つの国の覇権争いを描く、ご存知三国志。タイトルにあるように、この大人気ストーリーを新たな感覚と解釈で描いています。民の平和を願う蜀の武将の劉備が主人公。曹操孫堅諸葛孔明とのやり取りを経てハイライトとなるのは、魏軍80万に対し、呉蜀連合軍3万という、圧倒的兵力差が激突する赤壁の戦いの結末やいかに。
 
監督・脚本は、言わずと知れた福田雄一劉備には、当て書きだったというほど監督が出演を切望した大泉洋が扮します。山田孝之賀来賢人、橋本環奈、ムロツヨシ佐藤二朗など、福田作品常連組はもちろん登場。他にも、岩田剛典、小栗旬山本美月城田優、さらには語り部として西田敏行など、豪華なキャストがこれでもかと出演しています。
 
2020年の12月11日に全国公開されたこの作品、僕はU-NEXTのレンタルで先週金曜日に鑑賞しました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

三国志というのは、考えてみれば強烈なコンテンツですよね。マンガでも小説でもゲームでも大人気。適度に古く、海の向こうで適度に距離があるので、歴史というよりも、権力者のパワーバランスや戦争における権謀術数などを考察する、シミュレーションする格好の題材なんだろうと思います。平たくいえば、「俺の三国志」というものが、かなり自由に創作できるわけです。そこで、福田雄一が『今日から俺は』の後に「俺の新解釈」ってのを打ち出してきたと考えればいいでしょう。ただ、ここで言う解釈は、学問の歴史というよりも、キャラクターの新解釈です。

f:id:djmasao:20210510163007j:plain

(C)2020「新解釈・三國志」製作委員会
たとえば、劉備。言葉少なで、感情はあまり表に出さず、偉ぶらず、あくまで穏やか。特に若者に信奉者が多かった。というキャラクターを、よく喋る大泉洋に演じてもらい、酒を飲むとすぐ大風呂敷を広げるが、酔いが覚めるとすぐにたたみ始める及び腰。ところが、演説が巧みなために、彼の酔いが覚める頃には、民が彼の言葉に酔っていて、やる気がないのに神輿の上に担がれてしまう… なんて、どうだろう。
 
たとえば、諸葛孔明晴耕雨読の生活を送っていたところに、劉備が彼の知恵を求めて仲間入りを願う「三顧の礼」のくだりも、実は自ら劉備リクルートを願い出たことにしたら面白いのでは? なんなら、グータラしてないで働けよって、おっかない妻からけしかけられていたりして…

f:id:djmasao:20210510163108j:plain

(C)2020「新解釈・三國志」製作委員会
そもそも福田監督の回りには、アドリブも含めて現場を笑わせるような達者な俳優たちがいますから、新たなキャラ付けを彼らに肉付けしてもらいつつ、あっと驚くキャストにもお願いしてみよう。おおよそ、そういう流れだと思います。三国志好きがニヤッとするようなネタも入れるけれど、福田監督の新作というドル箱の宿命として、僕のような三国志弱者もすんなり入れるようにしたい。歴史もので戦もあるのだから、殺陣師の田淵景也(かげなり)さんにまたお願いして、見応えのあるアクションも盛り込めば、かなりワイドに動員が見込めるという算段だったんでしょうね。
 
実際、僕でもお話で理解に苦しむことはなかったです。それは、全体を西田敏行演じる歴史学者による語りの枠の中に入れたことによるものなんですが、これは明らかにテレビ番組「カノッサの屈辱」のパロディーで、アナウンサーが語る部分はドラクエのパロディー。そして、中身はと言えば、アクション以外はテレビのバラエティー的なコントです。パターンはだいたい決まっていて、歴史ものっぽい重厚な音楽が流れたと思ったら、その逆をいくとぼけた一言で音楽が途切れるとか、時代劇なのに今っぽいボキャブラリーというような、わかりやすいギャップで笑いを狙う。とにかくその釣瓶打ちなんですね。だから、緊張と緩和で言えば、大部分が緩んでいるので、ひとつのコントで笑えなかったら、後はもうしんどくなってきます。僕はその口でした。

f:id:djmasao:20210510163203j:plain

(C)2020「新解釈・三國志」製作委員会
俳優の個性が強いのはいいんだけれど、だいたいが福田雄一演出のこれまで見てきたものばかりなので、オチが概ね読めるし、ギミック的な特殊効果はマンガ的かつテレビ的なものに終始しているから、テレビ画面で見ていると、余計にとても映画とは思えなくなりました。発想が新解釈というよりも、パロディー、俺の三国志なので、赤壁の戦いの結果への興味も薄れてくる始末。それでも、なんとかまとめてエンドロールまで持っていったことには感心しますが、良くも悪くも、ここまでスパッとどんな結末でも構わないと思えたのは久しぶりでしたよ。思わず笑ったところが何箇所かあったことは正直言ってあったから、すべてダメって言ってるわけじゃないんですけどね。
 
最後に、ひとつ倫理的な苦言を呈しておくと、スペインの血を引く城田優に対して、「私はその中途半端な外人顔も好きよ!エスパニョール!」はまったく笑えないし、時代錯誤も甚だしい浅はかな台詞回しだと抗議しておきます。
この主題歌は力が入っていたし、エンドロールで急に風格が出て笑ってしまったんですが、それもこれも福田監督の術中にハマっているんでしょうか。それとも、意図を超えたところの話でしょうか。わかりませ〜ん。

さ〜て、次回、2021年5月18日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『ノンストップ』となりました。既に観ているリスナーの反応をうかがうと、面白そうじゃないですか。ある意味クラシックなジャンル映画的題材に、韓国映画がどう切り込むのか。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!