京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『佐々木、イン、マイマイン』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 6月1日放送分
『佐々木、イン、マイマイン』短評のDJ'sカット版です。

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役者になる夢をくすぶらせながら20代後半を迎えている悠二は、彼女のユキから別れを告げられながらも、ずるずる同棲を続けている状態です。ある日、バイト先で高校時代の友人である多田と再会。参加しなかった同窓会に、これまた当時の友人佐々木が来ていたことを知ります。佐々木は個性的な男で、クラスのムードメーカー。思えば、役者を志すきっかけをくれたのも佐々木の言葉でした。悠二は、佐々木のことを思い出しながら、再び演劇への熱を高めていくのですが…
 
まだ20代と超若い、King GnuのMVなどを手掛けている監督の内山拓哉に、俳優の細川岳が佐々木のモデルとなった高校時代の友人の話を映画にしないかと持ちかけたことをきっかけにメガホンを取りました。悠二を藤原季節、佐々木を脚本も手掛けた細川岳が演じたほか、萩原みのり、遊屋慎太郎、井口理、鈴木卓爾村上虹郎などが出演しています。
 
昨年11月27日に公開されたこの作品、僕はアマゾンプライムのレンタルで先週金曜日に鑑賞しました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

公開当時、インディーで製作されたこの映画が口コミで話題を呼んでいたことは把握していたんですが、スクリーンで観ることがかなわず、今回こうして配信ではありますが、それでも目の当たりにすることができて、今はすごく嬉しいです。というのも、僕にとっては人生屈指の1本だってくらいに心揺さぶられたからです。脚本の組み立て、物語る段取り、キャラクター造形、美術セット、ロケ地の選定、演技と、どれを取っても、見事なできばえでして、オリジナルの長編劇映画として、とんでもなく高いレベル。登場人物たちと同じく、まだ20代という内山拓哉監督の才能と努力に惚れ惚れするし、撮ってくれてありがとうと感謝を伝えたい。そんな心境になっています。

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(C)映画「佐々木、イン、マイマイン」
第二の思春期とも言える20代後半。彼ら/彼女らは、それぞれに社会には出たものの、それですぐさま芽が出たり、花開いたりするなんて難しくて、歩んでいる道は果たしてこれで間違いないのだろうかと、くすぶり、あがき、悶々としているわけです。特に何かを表現するような仕事の場合、これで間違いないというレールなんてないわけで、余計にもやもやとする。藤原季節演じる悠二は、まさにそんな状況。おまけに、同棲中のガールフレンドからはもう恋人ではないと言われながらも、追い出せずにいて、日々の暮らしはなだらかな下り坂、フェードアウトのような状態。これが、彼の俳優としての状況にも重なるんですね。もう役者なんてやっていてもしょうがないんじゃないか。そんな虚ろな悠二の心模様を変化させるのが、現在の友達と高校時代の友達なんですね。役者仲間は、悠二よりも少しばかり成功していて、一緒に芝居をやろうと言われても、「お前と違って俺には才能ないし、お前に一緒にやるメリットなんてないだろう」とひねくれております。それでも食い下がる友達思いな役者仲間に手渡されたのは、テネシー・ウィリアムズの『ロング・グッドバイ』(放送ではチャンドラーって口走ってしまいましたが、テネシー・ウィリアムズの方が正解。訂正します)。稽古に励む中、思い出されたのは、実は悠二を役者の道に導いた、かつての佐々木の言葉。いわゆる、原点ですね。そっから、現在と過去の行ったり来たりが目まぐるしくなっていきます。

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(C)映画「佐々木、イン、マイマイン」


佐々木! 佐々木! 佐々木! 彼はクラスメートたちの佐々木コールがあれば、女子がいようがなんだろうが、いつでもどこでも全裸になる突飛な男でした。ベタなことを言えば、佐々木は心許した友達に裸でぶつかるんです。盛り上げるし、意見するし、落ち込む時は全力で落ち込む。美術の才能があって、読書家でもあるけれど、自他ともに認めるモテなさっぷり。だからこそ、ホモソーシャルな仲間との交流を何よりも大事にするわけです。決して順風満帆な青春ではないのには、彼の家庭環境も影響しています。父子家庭の一人っ子で、狭く散らかった家に、父はまともに帰ってきません。でも、そんな父を憎んでもいない。経済的な事情もあるし、将来の夢なんてぼんやりとも描ききれずにいます。その分、友達には助言するし、俺の分まで生きろってな雰囲気を醸していたんですね。
 
漠然としたおかしみ。悲しみ。やさしさ。やるせなさ。やる気。プライド。恋心。シンパシーとエンパシー。そんな青春のあれやこれやを抱えながら、10代の思春期からもやっと10年生きてきた仲間たちの人生が交錯して1点に凝縮していくラストの高まりは尋常ではありません。

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(C)映画「佐々木、イン、マイマイン」
佐々木の部屋。自転車に乗ってバカやりながら走った線路沿い。みんなで行った初詣。バッティングセンター。ガールフレンドとの思い出がしみついた部屋。友達の赤ん坊を抱きながらこみ上げた涙。演劇の舞台へ上がる時の緊張感。すべてが絡まり合って、渾然一体となって、悠二を人生の次のステップへと駆り立てていくあの感覚は、絶対に映画にしか出せない味わいです。よく伏線回収が好きっていう人がいるけれど、脚本でパズルを組むような小手先の伏線回収ではなく、視聴覚総出でこれぞ映画という伏線回収で僕の涙腺を刺激するわけです。ひとこと、泣ける。昂ぶって涙が抑えられない。内山拓哉監督の手腕にひれ伏しました。

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(C)映画「佐々木、イン、マイマイン」
できるからやるんじゃないくて、できないからやるんだろ。お前は堂々としてろ。そう言った佐々木の言葉を、僕も大事にしまって生きていこうと思います。
 
リスナーからの感想の中で、確かにそうだと深くうなずいたのが、この記事の一番上に貼り付けたポスターです。鑑賞後にはまったく違った感慨を覚える仕掛け。これは劇場で観た後に、このポスターの前で立ち尽くす体験をしたかった〜
今の評では言及しなかった女性がカラオケでこの歌を歌う。僕もそら、惚れます。プカプカ、ハナレグミのバージョンでどうぞ。

さ〜て、次回、2021年6月8日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『461個のおべんとう』となりました。東京No.1ソウルセット渡辺俊美さんのエッセイが原作です。エッセイをどう物語に組み立てたのか、そして肝心のお弁当のバリエーションは映画にどう反映されるのか。期待しています。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!